パンダ繁殖、自分で選んだ相手なら出産率が向上
愛し合っているジャイアントパンダのカップルは、そうでないカップルよりも多くの子どもを産むことが、2015年12月15日付の科学誌「Nature Communications」に発表された研究で明らかになった。たとえ片思いであったとしても、互いに全く関心のないカップルよりは出産率が高いという。今回の成果は、絶滅の危機に瀕しているパンダの個体数を回復させる助けになるかもしれない。
現在、飼育下におけるパンダの繁殖作戦はお見合いが主流だが、成就しないことも多い。例えば、米ワシントンDCにあるスミソニアン国立動物園のメスのパンダ、メイシャンとそのお相手ティアンティアンの間には3頭の子パンダが生まれたが、いずれも自然妊娠に失敗した末の人工授精によるものだった。
現在、全世界に生息するパンダの数はおよそ2000頭、そのうち300頭が飼育下に置かれている。飼育施設では、希少なパンダをいずれは野生へ再導入できるよう繁殖に取り組んでいる。
難しいお見合い
米サンディエゴ動物園の博士研究員で、今回の研究を率いたメガン・マーティン・ウィントル氏は、中国パンダ保護研究センターの施設である成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地で飼育パンダを観察していたところ、引き合わされたパンダの多くが、相手に関心を示していないことに気付いた。中には、互いに唸り声を上げたり、追い払おうとしたりする行動も見られたという。
パンダのオスは、メスの気を引くために相手の尾の下あたりを嗅ぐ習性があるが、それをさせまいとわざと座り込んでお尻を隠すメスまでいた。オスは全て教科書通りに動いていたのに、交尾まで至ることはなかった。
「オスが入ってくると、部屋の隅に逃げてしまうメスもいました。毛のかたまりが宙を舞っていましたね」
しかし、お見合いさせたパンダたちの気がたまたま合うと、両者はヤギのような鳴き声を上げ、メスは「こちらへいらっしゃい」と招くような、さえずりに似た声を出すという。
その気になったメスは、相手にお尻を向け、背中を丸めて交尾の姿勢を見せる。しかし、このようなほほえましい光景はそう簡単に見られるものではない。
成都の施設では、遺伝的な多様性が確保できるように考慮してオスとメスを組み合わせているが、「その多くが失敗に終わったり、無理を強いてしまったりしました」と、マーティン・ウィントル氏は振り返る。「遺伝子ばかりに気を取られて、自分たちで好きなように相手を選ばせてやる機会がほとんどなくなっていたのです」
目配せし合うパンダ
そこでマーティン・ウィントル氏のチームは、パンダ研究センターの別の施設である四川省の碧峰峡パンダ基地で、隣同士の飼育室に暮らす独身パンダたちの観察を行った。
格子窓を通してパンダたちは互いの姿を見たり、匂いをかぐことができる。互いに関心を抱いていそうなオスとメスを見つけると、両者を引き合わせて経過を見守った。
研究結果によると、引き合わせる前に2匹がどちらも相手に何の関心も示していなかった場合、お見合いは成功しない。しかし、以前から視線を送り合っていたパンダ同士がついに同じ部屋で対面すると、ほぼ必ず交尾に至ったという。
たとえ片方だけが思いを寄せていた場合でも、良い結果となることが多かった。またメスは好きな相手とお見合いをした方が、好きでない相手とするよりも子どもを産む確率が2倍高いという結果が出た。
米セントルイス動物園の生殖生理学者シェリル・エイサ氏は同研究には参加していないが、「大変喜ばしい」結果であると評価し、これからは他の動物園でも相手選びをパンダに任せるように変わっていくかもしれないと話す。
野生においては、動物たちが好きな相手を選り好みするのはよくあることで、それが動物たちのためになっていると、米テキサスA&M大学の進化生物学者アダム・ジョーンズ氏も付け加える。
パンダの世界も案外複雑
では、パンダは相手のどこに引かれるのだろうか。
ジョーンズ氏は、互いに遺伝的な相性をかすかに感じ取っているのではないかと考えている。その結果、遺伝的多様性を維持する目的で人間が選んでやる相手とは異なるパンダに引かれるのではないだろうか。
またマーティン・ウィントル氏は、メスが体の大きなオスを好む傾向にあると考え、現在この研究を進めている。「パンダの世界も案外複雑なのではないかと思います。人間と同じでね」
(文 Traci Watson、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2015年12月18日付]
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