成年後見制度、本人の運命握る医師の診断書弁護士 遠藤英嗣

裁判所の審判書の草稿のようなもの

医師の診断書は、裁判所が本人の判断能力を認定するための最も重要な証拠資料です。というより、唯一の資料といっても過言ではありません。現行の成年後見制度では、裁判官は本人とは面接せず、裁判(審判)の9割は診断書によって決められます(外国には「裁判官は自転車に乗って本人に合いに行く」というエピソードがあるほどですが……)。見方を変えれば、本人を診て診断書を作成する医師は、裁判官に代わって審判と同等の重い決定を下す人になるのです。

よく知らないままに「この程度なら後見は必要ないです」とされて成年後見用の診断書を作成してもらえない人や、「判断力が劣っていて、じき、失うだろうから」と親族の言いなりになって、「後見相当」と診断を下す医師もあると聞いています。実際、「後見相当」の医師の診断が鑑定に回されて「補助相当」という結論が出されたという驚きの診断書もあるようです。

確かに、判断能力の診断(判定)は難しいといえます。先日も次のようなテレビ報道がありました。医師に認知症と診断された高齢者が、改めて別の専門医の診察を受けた結果、「認知症ではない」と診断されたケースが、2013年の1年間に少なくとも3800人に上ったというのです。

後見によって社会的地位が喪失

正しい診断がされないと、本人は著しい不利益を被ります。後見制度(後見類型)や保佐制度が始まると、本人からは様々な権利が剥奪され、社会的地位が喪失するからです。主なものを挙げますと、

・印鑑登録が抹消され本人の印鑑登録証明書が取れない
・取締役の欠格事由で、役員報酬請求権を喪失
・公務員の欠格
・NPO法人の理事・監事の欠格
・弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、行政書士、弁理士、医師、歯科医師、建築士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士などの専門的資格の欠格事由に

私は、市民講座の場など折に触れ、「被後見人(本人)にとっては、弁解の機会となる裁判手続きなしに『無期禁固』の判決を受けるようなものです」と申し上げ、医療関係者には正しい診断書の必要性について理解を得るようにしています。

同時に、私は、判断力があるうちに自らが後見人を選び、将来に備えて契約を交わしておく任意後見制度を選ぶよう、常々申し上げています。任意後見契約において任意後見監督人が選任された場合や補助開始の審判を受けたときには、かかる資格・権利制限はないからです。

本人にとっての最善の利益を追求するという成年後見制度の理念に立脚した運用を、本人も家族も望んでいるのではないでしょうか。

遠藤英嗣(えんどう・えいし) 1971年法務省検事に就任。高松地方検察庁検事正などを歴任し、2004年に退官。05年公証人となり、15年に退官。公証人として作成した遺言公正証書は2千数百件に及ぶ。15年に公証人を退官し弁護士登録。日本成年後見法学会常務理事を務めるほか、野村資産承継研究所研究理事として税務の専門家と連携して、資産の管理・検証などを研究する。主な著書に「増補 新しい家族信託」(日本加除出版)、「高齢者を支える市民・家族による『新しい地域後見人制度』」(同)などがある。
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