テーマは日本最北の寒さと雪 ペンギンの散歩開始!

12月19日今シーズン初めてのペンギンの散歩 ペンギンもお客さんも大喜び。
12月19日今シーズン初めてのペンギンの散歩 ペンギンもお客さんも大喜び。
さてやっとペンギンの散歩ができる季節がやってきました。散歩は根雪になってから始めます。アスファルトの上を毎日歩くと足の裏に小さな擦り傷ができてしまうからです。日本最北の動物園としてはやはり冬の寒さと雪がテーマです。

悩み深い開始時期

ただこのペンギンの散歩の開始日はかなり不安定です。12月初旬からの年もあれば年末ギリギリなんてこともありました。すっかり冬の風物詩として定着したペンギンの散歩だからこその悩みもあります。それはいつから始めるのかとの問い合わせです。

特にツアー会社からの問い合わせはトゲがあります。はっきりしてくれないとツアーが組めない! なるほど理解できるのですが、旭山動物園は自然のリズムの中で、動物たちを過ごさせたい、自然体で見ていただきたいとの思いがあります。

散歩は決してショーでもパレードでもなくてあくまでも散歩なのです。調教や訓練は一切していないのです。開始日を決めて人工降雪機でも使って始めたらそれは見世物になってしまうと思います。動物が集客のための道具になってしまいます。不自然な付加価値をつけたくはないのです。

動物園はヒトのエゴで動物を閉じ込めた場所である原罪は抱え続けますが、少なくとも私たちは預かった命にどのような責任が取れるのかを考え続けなければいけません。

旭山動物園はそのこだわりを持ち続けてきました。たとえばペンギンの散歩が待ち遠しくて冬が待ち遠しくなること、それも大切なことだと思っています。

フリッパーで雪をかきトボガン滑りをするキングペンギン(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

とはいえ今年は悩みました。11月末に大雪が降ったのですが、その後降っては溶け、降っては溶けの日々が続きました。園内の歩道以外には雪はあるのですが散歩コースの雪は維持できません。

日中の気温が高く地表の温度が高いのです。外国から訪れた方は、雪があるので散歩をしていると思い来園されます。まだなんですよと言うととても残念がっていました。

マレーシアや台湾などアジアに行く機会が多いのですが、温暖化とか二酸化炭素(CO2)削減とか言っても感覚的にピンとくることがないのではないかと感じています。冬の北海道はその東南アジアの人たちにもとても人気の観光地になりました。だからこそ冬、雪、その中で生き生きとする動物たちを見て感動してほしい!

頭の中の知識はどこか他人事で、心が動くことで自分事になり、自分事になって初めてヒトは行動するのだと思います。動物園は命の博物館、動物園ができる最大の動物に対しての恩返しに繋(つな)げなければいけません。

暖かな所に住むヒトにこそ寒さの感動を伝えなければ、そう思うようになってからは雪をかき集めてでもやるべきなのではないか? 葛藤の日々が続きます。ペンギンたちは扉を開ければすぐにでも歩き始めます。

今年はペンギンの散歩をマスコミに公表することなく、ホームページ(HP)でお知らせしたように19日から変則的に始めました。毎日天気を見ながら判断しています。見てもらって初めて動物園です。

南極暮らしは少数派

さて散歩の主役はキングペンギンです。ペンギンと言えば南極をイメージするかもしれませんが、実は南極大陸を生息地としているのは2種、かろうじて南極半島を生息の南限としている種は2種にすぎません。

ペンギンの仲間は18種、実は南極で暮らしていける種の方が少数派なのです。ガラパゴスペンギンなど赤道に近い所にも暮らしているのです。

水中を飛ぶように泳ぐキングペンギン(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

キングペンギンは南極大陸からは離れた南極収束線付近の島々で暮らしています。フォークランド諸島などと言えばピンとくる方も多いのではないでしょうか。彼らの暮らす場所はマイナス30度までになることもある旭川ほど寒くはないのです。実際に彼らが一番快適なのは0度近辺のようです。活発に活動し、水中を飛び回ります。

ところでペンギンが水中を飛び回るように泳ぐ鳥になったのは食べ物が魚だからです。基本は餌を求めて水中に入るのですが動物園では陸上で手渡しでホッケを与えています。

ペンギン全般にいえるのですが特にキングペンギンは食欲のムラがあります。換羽を控えた時期、育雛(すう)期には食べる量が倍増します。体重の変化も大きいのです。

水中に餌を投げ込んで食べたいようにさせるのが本来なのですが、ただのおデブさんになる個体が現れたり、痩せ個体が現れたりします。そうなるとさまざまな病気にかかりやすくなります。

基本は寒冷地に棲息する鳥なので夏場などは致命的な感染症にかかる危険があります。ということで一羽一羽の健康状態を把握するためにどれだけの餌を食べたかを毎日確認し必要な場合は量をコントロールするために手渡しで行うのです。

フラッシュ禁止、触らないでネ!

食っちゃ寝で過ごせるので、寒くなってくると水中に入る時間が短くなります。運動量が減るとカロリーの消費が少なくなり、太り、食事量の制限――となりますが不健康です。運動をしてたくさん食べたほうが健康的ですね。

キングペンギンは本来海岸から離れた場所で多くの個体が集まり(コロニー)生活しています。お腹がすくと集団で海まで歩き、魚を食べコロニーに戻ります。そこで本来持っている習性を発揮させてやろうと散歩を始めました。

親に餌を催促するキングペンギンの雛(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

新雪が積もった日には腹ばいになりフリッパーで雪をかき雪中を飛びます。本気を出されるとヒトが走っても追いつけないくらいです。新雪を食べるのも大好きです。

ところでキングペンギンの雛(ひな)は旭山では夏に孵(ふ)化して半年以上もかけて成長し独り立ちをします。親とは似ても似つかない茶色の綿毛に覆われています。2月ごろになるとモコモコのキウイフルーツのような塊になり親鳥よりも大きく見えます。

お客さんがアレ何? ペンギンのボス? とか言う声をよく耳にします。綿羽は水をはじかないので雛は水中に入ると溺れます。野生では雛はコロニーに残り、親は餌をとりに海に向かいます。

でも飼育下ではいろんな意味で厳しさがないので、雛も親に釣られて散歩に参加するようになったりします。でも途中で嫌になって突然歩かなくなったり手を焼かせることもしばしばです。

今年は23日から本格的に散歩を始めることができました。散歩はあくまでも自由意思での参加なのですが運動不足解消も目的なので時には尻をたたいて参加させることもあります。

ペンギンがヨチヨチなのは、ヒトにかわいいと思われたかったからではありません。陸上にキツネなどの天敵がいない場所で生活し水中で魚を捕まえられるほど水中で飛ぶように泳ぐことに特化できた結果の姿です。ペンギンは決してヒトに慣れているわけではなくて、陸上の生き物に対して警戒心がとても弱いだけなのです。

坂東元(ばんどう・げん)1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

ペンギンにとってお客さんは散歩ルートを決める壁のような存在なのです。でもフラッシュが頻繁に光ったり、触られたりするとヒトに対して不愉快な気持ちを抱いたり警戒心を持ったりするようになってしまいます。

フラッシュ禁止、触らないでネが散歩のルールです。冬こそ旭山です。できるなら天気予報で最低気温マイナス20度の日に来てみてください。きっと寒さの大切さ愛(いと)おしさを感じていただけると思います。

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