マネー研究所

マネートレンド

今年こそ読みたいマネー本(為替・金融政策編)

2016/1/1

「今年こそ読みたいマネー本」というテーマで編集委員が語った座談会。後半は、為替や日銀の金融政策に関する本を取り上げます。

■今年は米ドルに注目

『ドルリスク』(吉川雅幸著、日本経済新聞出版社)

深田:清水さん、為替のことを知りたいというときにいい案内本はありますか。

清水:今年は米ドルの問題を考えたいと思う。いろいろな本があるが、ひとつ目はメリルリンチ日本証券チーフエコノミストの吉川雅幸さんが書いた『ドルリスク』(日本経済新聞出版社)がお薦め。2004年に出て、09年に文庫になっている。内容的には少し古くなっているけれども、ドルが抱える問題点、もっといえば、アメリカが抱える財政赤字や経常赤字、そのドルが世界の基軸通貨になっていることの危うさなどを、データを基に書いている。

さらにさかのぼると、『平成金融不況』(高尾義一著、中公新書)は1994年に出た名著。この本が書かれたのは冷戦が終わってまさに経済がグローバル化したときだが、マネーフローというのは意外な影響を日本経済に及ぼすと書いている。当時、冷戦終結で東西ドイツの統合とか東欧の民主化があって、マネーがヨーロッパに引き付けられたことが日本のバブル崩壊に影響したということを説得力を持って示している。

『弱い日本の強い円』(佐々木融著、日本経済新聞出版社)

内容自体はもう古いけど、グローバル化が進む中ではマネーフローが一体化して動くので、意外なところへ意外な影響を及ぼすという視点は重要。いままさに米のゼロ金利解除という大がかりな金融政策の転換が行われた。これがマネーフローにどういう影響を与えるのか。常識的に考えるとマネーが米国に戻るという図式になるんだろうけど、今年以降、注意してみている必要がある。

あともう1冊お薦めは『弱い日本の強い円(日経プレミアシリーズ)』(佐々木融著、日本経済新聞出版社)。弱い経済と弱い通貨に関連はないと書いている。この本が出た11年当時、日本はまさにデフレで経済がめちゃくちゃな状態だったけれど、むしろ円高になった。そのメカニズムというのは今後も意味を持つので、その辺を理解するためにはいい本だと思う。

深田:私も読んだけど、非常にわかりやすい本だよね。

清水:データが豊富で淡々と書いているからね。佐々木さんは円高予想を言うことが多くて、相場観に常に同意できるわけではないですが、分析の方法は非常に面白いと思う。

田村:龍谷大学の教授の竹中正治さんの本『稼ぐ経済学』(光文社)、その前の『素人だから勝てる外貨投資の秘訣』(扶桑社)とかもそうだけど、佐々木さんも長期では物価が高い国の通貨は下がるということを書いている。

それを知っておくと何がいいかというと、「高金利だからお得」というセールストークにだまされにくくなる。高金利の通貨はインフレ率が高いので、金利は稼ぐけど、長期では通貨の動きにやられるぞと。必ずそうなるわけではないけど、そういう理論を知っておくのは、資産形成をするうえでは大事。だからこれらの本に書かれている(同じ物はどこの国でも同じ価値を保つよう為替取引により調整されるはずという)購買力平価説、つまり、高インフレの国の通貨は下がりがちだというのは知っておいたほうがいい。

北沢:「稼ぐ経済学」は為替だけじゃなくて株と不動産についても、具体的にどういうときに買ってどういうときに売りましょうというのをデータを基に書いている。ここまで自らの投資体験を赤裸々に書きつつ、しかも投資で成功した経済学者の本というのは、たぶんこれが日本で唯一。非常に実践的な本。

■金融政策の論点を理解

『財政金融政策の成功と失敗』(黒田東彦著、日本評論社)

深田:清水さん、日銀の金融政策を勉強するのにいい本は?

清水:いろいろ考えて2冊に絞ると、現総裁が書いた『財政金融政策の成功と失敗』(黒田東彦著、日本評論社)と、前総裁が書いた『現代の金融政策』(白川方明著、日本経済新聞出版社)。この2冊を読むといまの金融政策の論点がだいたいわかる。黒田ワールドと白川ワールド。どっちに賛成するかは別として。

田村:あれ読んだの? すごく分厚いけど。

清水:読みましたよ。いまの金融政策にはFEDビューとBISビューという2つの哲学がある。わかりやすくいうと、バブルというものに対するスタンスが違って、FRB的な見方はバブルというのは事前にはわからないので、とりあえず放置しておいて、崩壊してから金融緩和で思い切って対処すればいいというもの。対するBISビューは、バブルは崩壊した後は対処はできないので、事前に防ぐべきだという考え。たぶん、黒田さんの考えは、FEDビューに近くて、白川さんはBISビューに近いでしょう。

『現代の金融政策』(白川方明著、日本経済新聞出版社)

私はどっちも、当局の力を過信しているという点で不完全だと思う。つまりバブルは事前には察知できないと思うので、その意味ではBISビューは不完全だと思うし、しかし事後的な対処が可能だというFEDビューも不完全だと思う。結局、バブルは人間の本性に根ざすし、根ざすが故に事前には見つけづらい。さらに、強引に抑えると成長期待自体が抑えられてしまう。

ただ、そういう2つの哲学の違いを理解するには、この2冊を読めばいいと思う。どっちを信じるかは、それこそ人間の哲学の差なので。

深田:バブルはどうしようもないってことなのかな?

清水:どうすることもできない。これはもう、バブルの生成と崩壊という人間のドラマと付き合うしかないと思う。バブルというのは常にどこかで起きているという議論があって、例えば80年代後半は資産価格、株価でバブルが起きた。それが崩壊した後は、そのバブルのパワーはどこに向かったかというと、一つは債券だが、一番大きかったのは現金。現金にバブルが起きるということ、これがデフレの正体なわけだから、結局、バブルはどっかで起きている。

深田:それは誰が言っているの?

清水:バブル発生が様々な分野でリレーされているということは、14年にノーベル経済学賞を受賞したフランスのジャン・ティロール氏が言っている。日本でも『経済を動かす単純な論理』(櫻川昌哉著、光文社)が面白い。私なりに解釈すると、デフレ対策というものの本質は何かというと、「現金バブル」をつぶすということ。そのために何をやるかというと、語弊を恐れずに言えば、中央銀行のバランスシートを傷めるということがあり得る。傷めると現金の信用力は理論的には弱まるはずだから。いま日銀がやっていることには、そういう側面もないわけではないと。

やっぱり人間というのは行きすぎた発想を持つので、資産家が強気になれば株のバブルが起きるし、非常に守りに入れば現金にバブルが起きる。いろいろな行きすぎをその都度、その都度、政策当局が是正するというのが金融財政政策なのではないか。でも、完全に是正はできないでしょうけど。

北沢:サブプライムバブルがどんな風にできて、現場でどのようにつくられていったのかを書いた『世紀の空売り』(マイケル・ルイス著、文春文庫)は小説みたいで面白い。お正月休みに気楽に読むにはいい。

深田:バブルを知る本としては、『バブルの物語』(ジョン・ケネス・ガルブレイス著、ダイヤモンド社)ていう本もありますよね。

マネー研究所 新着記事

ALL CHANNEL