我が町・東京、魅力再発見 増える観光客を住民が案内

2016/1/3

かれんとスコープ

東京近郊に住む人の間で、東京の魅力を「再発見」しようとする動きが広がりつつある。急増する外国人観光客や2020年の東京五輪・パラリンピックの開催が刺激になっている。

「これからバスは築地場外市場に向かいます」。昨年12月7日午前、JR東京駅・丸の内南口の「はとバス乗り場」に集まった40人のツアー客に、バスガイドが「東京案内」を始めた。

「築地味めぐりマップ」に従ってお薦めの店を紹介。「老朽化が進んだ築地市場(東京・中央)は豊洲(東京・江東)へ移転する。豊洲は東京五輪開催の中心地で周囲ではマンションの建設が活発」といった情報も提供する。築地、銀座、東京タワー、隅田川、浅草を巡り、再び東京駅に戻るコースを終えるころには「東京通」に。

ツアー客の一人、須合隆行さん(31)は東京・日本橋出身。外国人観光客が東京を訪れる様子を見ながら「地元をよく知らないと案内もできない」と思い立ち、参加した。「築地を訪れたのは小学生のとき以来。東京タワーや浅草には来る機会がなく、興味深い」。神奈川県横須賀市に住む佐野功さん(68)は横浜と横須賀在住の5人で参加した。「ガイドさんに説明してもらうと、色々な発見がある」

40人のうち、首都圏に住む人が、判明しただけでも半数弱。はとバス執行役員の田中康之さん(55)は「東京観光ツアーに参加する人の約35%は首都圏在住」と説明する。同社の東京観光ツアーは今、絶好調。年間の利用者は約90万人でバブル期以来の水準だ。「地方から東京へ」という定番に加え、「東京近郊に住む人が東京を巡る」新たな人の流れができている。

ご当地検定、人気に

「東京都内すべての行政区域でもっとも面積が広いのは○○……」。公益財団法人、東京観光財団と東京商工会議所が共催する「東京シティガイド検定試験」は東京の地理や歴史など幅広い知識を問う「ご当地検定」の一つ。毎年1回、実施している。受験者の大半は東京、千葉、埼玉在住だ。昨年11月29日に実施した検定には1206人が受験し、861人が合格した。

ご当地検定は東京で2003年に始まった後、全国に広がった。京都検定など根強い人気を誇る検定がある一方で、廃止に追い込まれた検定も。日本商工会議所流通・地域振興部課長の谷脇茂樹さん(43)は「松山、伊勢、奈良など地元の大学や企業などと連携し、域内の人材育成につなげている地域は成功している」と分析する。東京では初年度の受験者が千人を超えたが、人気は長続きせず、「負け組」になるかに見えた。

救世主となったのはタクシー業界。12年から観光客の増加を見込んで乗務員に受験を促すようになり、受験者が急増。さらに、定年を迎えた団塊世代の参加も追い風に。東京観光財団の中島不二夫さん(58)は「タクシー業界からの参加は一段落してきたが、シニア層と学生の受験が増え、受験者の幅が広がっている」と手応えを感じている。

試験問題の作成に携わる目白大学教授の鈴木章生さん(53)は「東京には、最先端の施設、歴史的な建造物や自然が混在している。地方創生のかけ声の下で全国各地が観光振興を競う中で、『東京は別格』とのんびり構えてはいられなくなった。検定試験を通じて東京の魅力を見つめ直す人が増えている」と人気復活の背景を説明する。

東京シティガイド検定の合格者で組織するNPO法人、東京シティガイドクラブ(東京・文京)には約1300人が会員登録し、そのうち300人強が観光ガイドとして活躍中だ。座学研修や街歩きを重ねて腕を磨いている。事務局長の道上幸子さんは「会員の中心は60歳代。東京では地域での活動に疎遠な人も多い。引退して時間に余裕ができた人が積極的に活動している」と話す。14年には年間1万5000人を案内し、15年は前年を上回ったもようだ。

「五輪きっかけに」

自治体もシニア層の地元回帰を促している。東京都文京区は観光ガイド養成講座を開講。講座を修了した人(現時点で34人)がガイドとして「文化と文学の本郷コース」「学問の聖地湯島コース」など8つのコースを案内している。観光ガイドは無料。ガイドをする側も受ける側もシニア層が多く、この層の節約志向にも合っているようだ。観光・国際担当課長の熱田直道さん(43)は「東京五輪を一つのきっかけとし、外国語対応など将来にも残る仕組みをつくりたい」と知恵を絞る。

森記念財団が毎年、公表している世界の都市総合力ランキング。東京は15年も定位置の4位だったが、首位のロンドンなどとの得点差は開いている。地元住民が観光振興に一役買うのは東京にとって大いにプラスだが、それだけでは世界の都市間競争には勝てない。同財団理事で明治大学専門職大学院長の市川宏雄さん(68)は「地方が東京に頼りながら日本全体を底上げするのはもはや限界。政府は特区制度を活用して大胆な規制緩和に踏み切るなど、東京のビジネスや生活環境の改善にも注力してほしい」と力説する。

■「行ったことない」「外国人増えた」 観光地、見つめ直す声多く

ツイッターで東京観光を話題にしている声を拾うと、東京スカイツリーに関する書き込みが圧倒的に多い。「初スカイツリー。2年間、東京にいて1度もしたことがなかった東京観光をしてるよ」「私はずっと東京に住んでるけどスカイツリーには行ったことがない」「東京出身なのにお台場とかスカイツリーとか無難なところしか思い浮かばない」……。「東京に住みながら東京をよく知らない」と自己分析し、東京にもっと目を向けようとしているようだ。

東京五輪や外国人観光客に関するつぶやきも急増。「訪日客が鉄道の複雑な乗り換えができず困っている」「おもてなしについてちゃんと考えるべきだ」など問題点を指摘している。外国人の受け入れ態勢がなお不十分との意識が広がっている。この調査はホットリンクの協力を得た。

(編集委員 前田裕之)

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