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 最高裁判所は16日、夫婦同姓を定めた民法の規定が憲法に違反しないとの判断をした。今回の合憲判断は、若い世代の結婚や出産に影響を及ぼすのか。婚活の現場をよく知るNPO法人全国地域結婚支援センター代表の板本洋子さんと、少子化問題に詳しい中京大学教授の松田茂樹さんに聞いた。

「姓の問題、関連せず」 松田茂樹・中京大学教授

松田茂樹(まつだ・しげき)さん 慶応義塾大学大学院博士課程単位取得退学、博士(社会学)。第一生命経済研究所主席研究員を経て、2013年、中京大学現代社会学部教授。

松田茂樹(まつだ・しげき)さん 慶応義塾大学大学院博士課程単位取得退学、博士(社会学)。第一生命経済研究所主席研究員を経て、2013年、中京大学現代社会学部教授。

最高裁で問われた夫婦同姓・別姓に関する議論は、人格に関する尊厳問題としてとても重要だ。しかし、もし別姓が認められる方向に動いたとしても、それが少子化という社会的課題の解消に結びつくことはほとんどないと考えている。

少子化の原因を国の統計や調査から分析すると、少子化をもたらす要素の9割は未婚化だ。この未婚化は、非正規雇用の増大などによる経済的な困難さから、若者が結婚に踏み切れないことで起きる。

別姓と少子化の関係を考える上で参考になるのは、日本と欧米諸国の結婚に対する意識の差だ。2010年の20~49歳の婚姻状況を日仏で比較してみたい。フランスは夫婦別姓も同姓も選べる国だが、法律婚は38.2%、同せい(事実婚)が29.2%と接近し、それ以外は未婚と離死別だ。対する日本は法律婚が63.9%、同せいは1.3%で、法律婚が圧倒的だ。

欧米で同せいが増えた背景には、1960年代から広がった既成文化に対する反発などの影響で、宗教などの縛りが大きい既存の結婚制度から自由になりたいとの考えが広まったためだ。フランスのPACS、スウェーデンのサンボなど同せいを法的に保護する制度は、法律婚以外の家族の増大に対応するためできた。

これに対し、日本の結婚には宗教的な縛りがほとんどない。夫婦同姓の強制は確かに法的な縛りだが、制度から自由になろうと、事実婚を選ぶ人が欧米のように増加していない。男女雇用機会均等法施行以来約30年が経過した今も、主に男性が家計を支える「典型的家族」を支持する人がマスを占める傾向は変わらない。同姓・別姓問題は婚姻数の増減、ひいては少子化解消に対し中立的と言わざるを得ない。

これまで約25年間、日本は育児休業法制の導入や保育所の拡張で、夫婦とも正社員のパワフルカップルに的を絞った少子化対策を続けてきた。その政策効果はあったものの、夫が正規で妻が専業主婦またはパートで働く家族や、夫婦とも非正規の家族、就業機会に恵まれない未婚の若者への経済的支援は力不足だった。少子化解消のカギはこの層への対策にある。

「一人っ子の結婚阻害」 板本洋子・全国地域結婚支援センター代表

板本洋子(いたもと・ようこ)さん 1969年日本青年団協議会事務局員。84年日本青年館結婚相談所長。2012年にNPO法人全国地域結婚支援センター設立、代表に。

板本洋子(いたもと・ようこ)さん 1969年日本青年団協議会事務局員。84年日本青年館結婚相談所長。2012年にNPO法人全国地域結婚支援センター設立、代表に。

夫婦の姓を同じにしなければならない民法規定は、現代の結婚にも影を落とし、少子化対策を進める上でも阻害要因になっていると思う。

都会でも地方でも、婚活で本人が相手のプロフィルを見る時、それとなく重視するのは「長男か次男か」「長女か次女か」といった項目だ。プロフィルには、その人が配偶者の家に婿入り・嫁入り可能かなどは当然書かれていない。

だが本人同士が意気投合しても姓の問題が壁になり、親や祖父母の思いを受け止め負担を感じて結婚を先延ばしする若者も目立つ。

特に地方の農村では姓の問題は大きい。農業経営は近代化しても、代々の農地の維持につながる戸籍名へのこだわりは強い。この結果、現代の農村には40歳前後の跡取り男女の未婚者が多く、少子化と過疎が進んでいると感じる。

1980年代から90年代にかけ「農家の嫁不足」が深刻になった時、地域と跡取り長男たちは、アジアなどから外国人女性を連れてくるという選択をした。これは一時的に集落の出生数を押し上げたが、少子化や跡取り問題の解決策にはならなかった。その子どもたちがまた「家を継ぐ」という立場になり、同じ壁を感じているからだ。

女性が結婚で姓を変えることを当然とする社会で、一方の姓しか選択できないという制度は、跡取りたちの結婚を難しくさせているといつも感じる。

今も、社会で同姓・別姓問題に対する理解が進んだとは思えない。調査を見ると、選択的夫婦別姓を許容する声が多いのは20~30代、次に両親である40~50代。最も反対が多いのは70代以上だ。婚姻が遅い今、20代は差し迫っていないので「同一姓で困る人がいるなら、別姓も認めたら」と別姓許容はあるかと思う。30代は結婚に直面する世代。家の継承だけでなく、仕事でのキャリアも重なり、姓の変更に負担を感じる人も多いはずだ。

婚外子が少ない日本で、少子化是正のためには法律婚を増やす必要がある。少子化で長男・長女ばかりの今日、選択的別姓が可能になれば、結婚を容易にする方向に動くと思う。

(聞き手は礒哲司)

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