マネー研究所

相続トラブル百科

軽減税率の陰でかすんだ相続減税 司法書士 川原田慶太

2015/12/18

 年末が近づき、2016年度の税制改正についての議論が進んでいます。16日には与党が16年度税制改正大綱を決めました。なかでも今年は消費税の軽減税率に大きな関心が集まり、どのメディアも連日大きく報じていました。消費税アップに関連するニュースが飛び抜けて注目されていたので、他の分野はほとんどかすんでしまっていたかもしれません。

 しかし実は、相続税や贈与税といった個人資産にかかわる税金についても、同様に制度変更が検討されていました。今回の税制改正にあたって各省庁から出された要望事項には、相続税の減税につながる新制度案がいくつか盛り込まれていたのです。

 例えば内閣府が提案したのは、少子化対策のために「3世代同居」を促進するプランです。故人が子ども世代と中学生以下の孫世代の3世代一緒に3年以上暮らしていたような家庭について、一定の条件を満たせば自宅の土地評価を9割カットし、10%の評価額で相続税の計算をしてよい――といった制度案です。

 このような3世代同居については、同居のために借り入れをしてリフォーム工事をした場合に、住宅ローン控除が適用されるという優遇案は残ったものの、相続税についての部分は採用されませんでした。

 もうひとつ別に、証券会社などが熱い視線を注いでいた相続減税のアイデアもあります。金融庁が要望を出していた「上場株式等の相続税評価の見直し」です。このような案が浮かんできた背景には、ある「格差」がありました。相続税を計算するときの、財産評価の方法の差です。

 多くの財産には「時価」というものが存在します。実際その時々に、市場でいくらぐらいで売買されているのかという値段のことです。一般的には、時価が同じなら「同じくらいの評価の財産」というふうに考えられるでしょう。

 例えば、「時価1000万円で取引されている上場企業の株」と「時価1000万円で取引されている土地」があったとします。どちらも時価は同じ、つまりその時点で売ったときに入って来るお金は同じくらいです。個人的な好き嫌いは別として、財産の評価としては同価値となるはずです。ところが、相続税の評価はそう単純ではありません。同程度の時価で取引されている財産であっても、土地、株式と種類によって違う計算方法をするというルールがあるのです。

 土地の評価方法には独自の体系があり、時価のおよそ80%ぐらいになるように設定されているといわれています。これに対して、上場株式は基本的に、相続が起こった時点の「時価」で評価されます。つまり、同じ時価1000万円程度でも、土地と上場株式でぜんぜん違う相続税評価になるのです。

 当然ながら、評価が低い方が、相続税の負担が減少します。同じ1000万円を投資するにも「土地の形で持っていたほうがお得かも」といった判断が働き、株式に資金が回っていないのではないかというのが金融庁や証券界の見立てでした。

 そこで、上場株式などについても特例を設け、相続税の評価が下げられるような制度の導入を提案していたのですが、今回の税制改正では見送りになりました。

 このまま立ち消えとなるのか、あるいは次回以降にも継続して要望が上がってくるのか、現時点ではわかりません。ひとまず16年以降の相続税制に関しては、引き続き15年に始まった「負担増」の基調がしばらく続くことになりそうです。

川原田慶太(かわらだ・けいた) 2001年3月に京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験に合格し、02年10月「かわらだ司法書士事務所」を開設。05年5月から「司法書士法人おおさか法務事務所」代表社員。司法書士・宅地建物取引主任者として資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数務める。

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL