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ファッション pick-up

007はオシャレの番号 英国調スタイルに注目

2015/12/20

 私の名前はボンド、ジェームズ・ボンド。世界で最も有名なスパイと呼ばれている。今、私の映画「007スペクター」が公開され、大ヒット中だ。悪い気はしない。今回は私の身なりも注目されているらしい。生みの親、イアン・フレミングの好みもあって身につけるのは皆、一流品だが、あくまでさりげなく装う。それが英国紳士の粋というものだ。そんな私のファッションスタイルがブームになりつつあるという。これは探らねばなるまい――。
映画のどのシーンでも正統派スーツスタイルが目を引く(「007スペクター」)

 映画の冒頭、祝祭日のメキシコ市。はなから銃撃戦やヘリコプターでの格闘シーンと、ボンドは激しいアクションを繰り広げる。それもスーツ姿で。

 「ボンドの戦闘服はスーツ。闘った後はカフスをそっと直す。これがブリティッシュの美学」。そう語るのは、シャツのターンブル&アッサーはじめ歴代ボンドの愛用品を扱う、英ブランド輸入販売会社BLBG(東京・港)の田窪寿保社長だ。「でも人から振り返られるようなスタイルはNG。常にnot to be noticed(目立たない)でなければ」

 ボンドのファッションは紳士服業界に様々な形で影響を及ぼしてきた。「スペクター」では、主演のダニエル・クレイグの体にフィットするスーツに目を奪われる。仮縫いを繰り返し、服に寄るしわや袖口のカフスの分量まで微調整が重ねられる。それがボンド映画の美学だ。

 今、紳士服ではカジュアル化への反動からスーツ・スタイルが新鮮に映り、各国で復権しつつある。とりわけ正統派のブリティッシュスタイルは英国王室人気などを背景に、2016年の大きなトレンドになる。007の新作は、こうした潮流の転換を後押ししそうだ。

ポスターでも印象的な「トム フォード」のイブニングジャケットスタイル

 雑誌「ブルータス」(マガジンハウス)などの創刊に携わった編集者、石川次郎氏は「ボンドは1960年代、米アイビーファッション全盛だった日本に登場した。そのブリティッシュスタイルは衝撃的で、以降、2つボタンのジャケットにワイドスプレッドのシャツ、ニットタイといったヨーロッパのスタイルを好む人が出てきた」と証言。歴史が繰り返しているようだ。

 ボンドは英国諜報(ちょうほう)部のエージェントだが、貿易会社のビジネスマンを装っているとの設定。ゆえに初代のショーン・コネリーから、基本スタイルはスーツだ。上質な素材が使われるビスポーク(仕立て)で、派手さとは無縁のシンプルなデザイン。ネイビー、グレーと抑えた色調が中心だ。

 歴代、映画ではロンドン・サヴィルロウの「ダグラス・ヘイワード」、伊「ブリオーニ」などさまざまなスーツが登場した。次の主演俳優と同様、ファッション業界では「次にどこのスーツが着られるのか」が話題となってきた。

オメガは初めて、ボンドが作品で付けた製品と同じモデル「シーマスター300 “スペクター”007リミテッド」(81万円)を発売、世界中で完売した

 今回は米「トム フォード」。クレイグ主演作では3回連続だ。胸板が厚く鍛えた肉体には、襟幅が太く逆三角形シルエットのスーツが決まる。同様の商品は「ボンドカプセルコレクション2016」として発売。ポスターでも着用した白のイブニングジャケットは51万8400円だ。

 ボンド映画に紳士服の変遷を見る松屋の宮崎俊一・紳士服バイヤーは「スーツスタイル、スポーツジャケット、ディナースタイルと男のTPOスタイルが凝縮されている」と話す。

 今作ではこれまでとひと味違う小物も話題だ。20年来使われてきたスイスの時計ブランド「オメガ」は初めて、ボンドが作中つけた製品と同じモデル「シーマスター300“スペクター”007リミテッド」(81万円)を発売。封切り直後に完売した。

 今回初めて、ボンドのカバンに起用されたのが英グローブ・トロッター。ジェフ・ヴォーン会長は「試写会でカバンが登場して思わず拍手した。英国人は子供の時から誰もがボンドに憧れているからね」。この限定コレクションも各地で即座に完売した。

グローブ・トロッターの「ジェームズ・ボンド」コレクションは映画の公開直後にほぼ完売した(税別18万~32万円)

 007への起用という名誉に浴した商品が大きなビジネスになる例は少なくない。ただし、いくらお金を積んでもダメだ。決め手はあくまで監督、俳優、製作者の個人的な好みとされる。「オメガのシーマスターが選ばれたのは、ボンドが海軍の軍人という設定があったから。今回は時計愛好家であるクレイグと二人三脚で時計を完成させた」とオメガのレイナルド・アッシェリマン副社長は明かす。

 シリーズある限り、ボンドのファッションは折に触れ、ブームの先端にさっそうと現れる。

 オーダー紳士服店「麻布テーラー」を展開するメルボメンズウェアー(大阪市)の清水貞行社長もボンドに憧れる一人だ。「原作者の秀逸なファッション描写に影響を受けて」8年前からボンドをイメージした商品ラインを作ってきた。

 「アストン・マーチンを乗りこなし、生きるか死ぬかの闘いをし、すてきな女性もいて、縛られずに自由。ボンドは男性の願望を体現したリアルなアイコン」。いつの時代も男性は「ボンドになりたい」のだ。

(企業報道部次長 松本和佳)

[日本経済新聞夕刊2015年12月19日付]

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