女性上司からの「セクハラ注意」は「あり」なのか
Answer:「セクハラ」とは、「セクシャルハラスメント」(性的嫌がらせ)のことですが、法律家っぽく定義すると、「相手方の意思に反して行われ、不快感や不安感を与えるような性的な言動」を意味します。ここにいう「言動」の意味は広く、わいせつな会話など言葉による場合だけでなく、ジェスチャーや服装によるセクハラもあり得ます。セクハラが法律に盛り込まれた例としては、男女雇用機会均等法11条1項が挙げられ、そこには、労働者が職場での性的言動により不利益を受けたり就業環境が害されたりしないよう、事業主は環境を整備すべき雇用管理上の義務を負うことが明記されています。
さて、この説明の中に、「男性が」といった主体の限定も、「異性に対し」といった相手方の限定もないことにお気づきでしょうか。
つまり、セクハラは女性から男性に対しても成り立つものなのです。もっと言うと、同性同士でも成り立ちます。女性から女性へのセクハラはピンとこないかもしれませんが、女性同士で「いつまで結婚しないの?」などとしつこく尋ねられたり、夜の夫婦生活について根掘り葉掘り聞かれたり、噂話を立てられたりして不快な思いをした経験をお持ちの方も大勢いらっしゃると思います。これらは、意思に反して不快感を与える「性的言動」すなわちセクハラにあたり得ます。
ご質問の例では、女性を強調するような服装について、男性を刺激して不快な気持ちにさせるので控えるよう注意されたのであれば、女性から男性へのセクハラをしないように言われた、ということになります。そうだとすると、男性へのセクハラもあり、企業がセクハラ対策をする義務を負うという先ほどの説明通り、上司からの注意は正当である可能性が十分あります。
もっとも、露出度が高いか低いかの区別や、その服装が相手方の性的な感情や羞恥心を呼び、そのせいで不快感等を引き起こすかどうかは、そもそも程度の問題であるうえ、相手方の感性や関係性にもよるものですから、セクハラに該当するかがはっきりしない面があります。
ただ、会社として、「セクハラ未満」ではあってもその可能性のある言動を見つけた場合にそれに対処することは、上に挙げた法律上の義務を果たすために必要ですから、「セクハラに該当しないから注意に従わなくてもよい」という単純なものではないのでお気をつけください。
服装によるセクハラは、直接的な言動によるセクハラよりは被害が大きくないのが通常です。しかし、だからこそ、セクハラについてしっかりと理解をしたうえで配慮する姿勢が求められるとも言えます。「自由でいい」とされていた服装に関して、突然指摘を受けた相談者さんが不満に思う気持ちもわかります。被害者との間で法的問題に発展することを過剰に気にする必要はありませんが、社内で円滑に業務ができるよう、少しずつ歩み寄ってみてはいかがでしょうか。
この人に聞きました
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼い始めた。労働トラブルを解説した書籍『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)が発売中。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。
[nikkei WOMAN Online 2015年12月15日付記事を再構成]
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