出産・復帰後の働き方に3つのタイプ あなたはどれ?
職場に復帰するにあたって、自分がどのような働き方をしたいかということを考えておく必要があります。出産前に残業があるフルタイムで働いていた方は、同じような働き方で大丈夫か、それとも残業がない形でフルタイムにするのか。または16時や17時で退社するような時短制度の勤務形態を選ぶのか。仕事内容や自分のキャリア、そして子どもの保育時間も考え合わせたうえで、決める必要があります。
働き続けるために自分が希望するキャリアを考えてみる
様々なことが複雑に関係してきますが、まずは、自分の希望のキャリアについて考えてみましょう。働く目的については、「キャリア向上タイプ」「社会と関わりを持ちたいタイプ」「生活レベルを上げる収入目的タイプ」と、主に3つのタイプがあるでしょう。
1.仕事を通して活躍したい「キャリア向上タイプ」
2.社会と関わりを持ちたい「社会とのつながりタイプ」
3.生活レベルを上げたい「収入目的タイプ」
1.キャリア向上タイプの場合
働く目的の3つのタイプのうち、1つ目が「キャリア向上タイプ」です。長期ビジョンで考えて、仕事を持つ人生を選び、ある程度のキャリアの達成を目的としているケースです。
□できれば定年まで勤め、管理職になりたい、専門性を活かして活躍していたいなどキャリアコースをイメージしている
□産後も、できれば出張や残業もこなしたい
□ベビーシッターや祖父母など第三者に子育て・家事をサポートしてもらうつもり(してもらっている)
□収入は減らしたくない
このような場合、出産・育児という人生の大きな一区切りでも、仕事上では「ほんの1つのイベント」くらいの気持ちで通過させ、キャリアの継続を図る努力をする必要があるでしょう。
復帰後も、出張や残業を今まで通りこなさなければならないケースも多々あります。子どもが熱を出して保育園にお迎えに行けないときは、祖父母やベビーシッターさんに頼む機会も増えるでしょう。残業があると収入も増えるケースも多いですが、育児の費用もかかると想定しておく必要があります。
また、子どもと一緒に過ごせる時間も限られてしまうため、1日の時間のなかで、いかにコミュニケーションを濃密に取るかという工夫も必要になります。家事の面でも、夫や祖父母に力を借りるほか、食器洗い乾燥機、ロボット掃除機、洗濯乾燥機などの家電もフル活用することで、家事の時間を少しでも育児の時間に充てられるような工夫が大事になるでしょう。
貯蓄は減るが将来への投資と思ってケチらない
お金もかかり、プライベートの時間が削られるなか、必要になるのが自分自身の「ワーキングスタイル決め」です。「よほどのことがない限り、プライベートは仕事に持ち込まない」とするのか、「基本的にはプライベート優先で、時には会社は休むようにする」のか。キャリア重視となると、どうしても前者を選ぶケースが多いでしょう。つまり、今までと同じように、会社や仕事の都合に合わせて、働ける体制を整えることが重要です。
ベビーシッター代や、両親と同居するための引っ越し費用やリフォーム費用、時間節約のためのタクシー代、睡眠不足を補うためのグリーン料金、掃除を頼む費用、食事がスムーズに作れる家電費用や食材費用など、キャリアを継続しつつ子どもをきちんと育てるには、もろもろの経費がかかります。
とはいっても、キャリア重視の人の強みは、キャリアの継続です。仕事もほぼ現職復帰となり、資格や等級、役職も大きく変わることはないでしょう。給与が大きくダウンすることもなく、これまでとほぼ同じくらいの収入が見込めます。ただし、子どもが小さいうちはベビーシッターやお手伝いさんなどの費用のほか、引っ越しやリフォームなどで出費が増え、貯蓄は減るでしょう。これは働くための投資としてケチらないようにしましょう。いずれ子育てのための費用がかからなくなり、将来的にポストやキャリア、さらなる収入の上昇を期待できます。
2.社会とのつながりタイプの場合
働き方の3つのタイプのうち、2つ目が「社会と関わりを持ちたい」タイプです。与えられた仕事はきちんとするけれど、家庭に影響のない範囲にとどめ、育児や家事もできるだけ人の手を借りずに自分でこなしたいというケースです。具体的には、「今の会社や仕事にあまりこだわりはないけど、社会と接点を持つことは楽しいし、自分のためになる」と考える人や、「時間内の仕事はしっかりこなすけど、毎日定時退社で、子どもの健診や病気のときは、有休をしっかり取って休みたい」などと考えている人です。
タイプ1の人と違って、時間や場所に制限付きの働き方をすることになります。「すみませんが、お迎えがあるので残業できません」「子どもがいるので宿泊の出張はできません」「子どもが風邪をひいたのでしばらく休みます」という場合が考えられます。残業なしのフルタイムか、時短制度を使う方も多いでしょう。仕事を通してキャリア磨きをするのではなく、仕事をすること自体に幸せを感じながらも、家庭中心のスケジュールを組んでいくタイプです。
揺らがないよう「働く目的」をしっかり意識しておく
このタイプは、家事や育児に関して、保育園以外に人の手を借りず、少しでも自分でこなすことでお金はかからないので、経済的とも言えます。ただ、ワーキングウーマンとしても、母としても妻としても、中途半端になってしまうことが考えられます。保育園以外に子どもを預ける手段を持たず、いざというときに仕事と子育てとの間で、自分一人でジレンマに陥り八方ふさがりになってしまう可能性があります。
早朝から夕刻まで会社に拘束される上に、子育てがあります。家事を一人で背負うことはなかなかきつくなります。子育てについても、平日習い事に連れていくのも難しく、近所のお子さんが通っている幼稚園に通わせることも難しいかもしれません。「私は、いったい何のために働いているんだろう」と思ってしまう場合があるため、働く目的を明確にして、それを忘れないように心がけたいものです。
また、契約社員や派遣社員だけでなく、たとえ正社員で働いていても、誰でもこなせる仕事であれば、会社にとって不要な人材になってしまうことも考えられます。ずっと働いていくためにも、仕事に対して常に責任感を持ち、結果を残していくようにしたいものです。
3.収入目的タイプの場合
働き方の3つのタイプのうち、3つ目が「生活レベルを上げる収入目的」というタイプです。夫の収入が少ない、または家を買うために正社員のほうが住宅ローンを組みやすいなど、生活費を得るために働き続けるケースです。このケースでは、会社では指示通りの業務をこなしていきますが、仕事のための保育料や家事に関する経費がかさむことは、避けなければなりません。
大きな給与アップより、細く長く安定収入を見込む
つまり、収入目的で働く場合は、少しでも出費を抑えるために、プライベート面で自分でできることは極力こなす体制づくりが重要になります。有給休暇はフル活用し、まとめて家事を行うなど、会社の制度をうまく使いながら、家庭中心のワーキングスタイルになります。時短なしのフルタイムを選んで収入を増やすか、時短制度を使って育児・家事とのバランスを図る場合があります。将来のビジョンとしても、大きく給与アップを期待するというよりは、細く長く安定収入を見込み、収支面で少しでも黒字幅を大きくするよう努力するというスタイルになるでしょう。
子育て、仕事の両面から、働き方を考えていこう
自分がどのタイプでいくのか迷ったら、仕事や子どもとの関係について考えてみましょう。仕事を従来と変わりなくしていきたいのであれば、従来通りの仕事の仕方を選ぶといいでしょう。できるだけ子どもとの時間も取りたいのであれば、残業なしのフルタイムがおすすめです。
子どもの体が弱かったり、熱を出したときのヘルプを頼めなかったり、自宅と職場が遠いなどの理由の他、子どもとの時間を最優先にしたいという場合は、時短を活用するといいでしょう。仕事も子育ても、"質"が大切です。会社に長くいれば仕事ができるわけでもないですし、子どもと長い時間一緒にいれば、子育てが完璧になるわけでもありません。子どもがどのように育ってほしいかをイメージして、そのうえで仕事のスタイルを選んでいくといいかもしれません。時短を取った場合は、時短からフルタイムに戻る時期は、仕事の関係もありますので上司と相談しましょう。
ずっと働き続けたい場合は、「スパイラルキャリアアップ」という考え方も大切です。
子育てがあると、常に右肩上がりのキャリアアップをしていくのは難しいもの。一時的にキャリアダウンしてしまう場合もあるでしょう。子どもが小さいうちは、子どもとの時間を多めに取り、少しずつ右肩上がりにキャリアアップをしていく「スパイラル」でキャリアアップしていくのも一案です。
もちろん、今回の3タイプにおさまらず中間タイプ派の方もいらっしゃるかとは思いますが、いずれにせよ、子どものことを大切にしたうえで家族が生活に慣れるか、周囲のサポートは整っているか、会社の雰囲気はどうかなど、様々な状況を総合的に判断して、期待に応えた活躍ができるよう、体制決めをしていきましょう。
人材育成コンサルタント。株式会社キャリアン代表取締役。公益財団法人日本生産性本部 ダイバーシティ推進センター所長。神奈川県教育委員。メーカー入社後、1989年にキャリアに関する事業を中心とした人材育成子会社を立ち上げ常務、社長、会長。早期よりキャリアアドバイスを普及した経験を生かし、2013年に一人ひとりの生涯キャリアを支援するキャリアンを設立。現在は、「管理職からのキャリアデザイン」「ダイバーシティ・マネジメント」「DEWKS(Double Employed with Kids)のキャリアデザイン」などのセミナーに加え、仕事と結婚・出産・育児・教育に悩むワーキングマザーはもちろん、男性管理職や両親(祖父母)からの相談も増えている。
(ライター 西山美紀)
[日経DUAL 2015年11月10日付記事を再構成]
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