短時間で読める、2015年話題の新書・経済編

新聞や雑誌、ネットなどで話題になっている本を読みたいけれど、普段は読書にあまり時間を割けない。年末年始も忙しくて大著を読みこなす時間はない。そんな読者のために、2015年発刊で話題となり、短時間で読めそうな経済関連の新書をご紹介する。

【日本経済・アベノミクス】

日本経済・アベノミクス

日本や世界経済で今、何が問題になっているのか。東京大学教授の伊藤元重著『日本経済を「見通す」力』は、2014年秋にビジネスパーソンを対象に実施した講義内容を基に、安倍晋三政権の経済政策であるアベノミクス、財政再建、日本の産業構造、環太平洋経済連携協定(TPP)などのテーマ別にポイントを解説している。様々な「現場」に出かけて実態を見聞し「ウオーキングエコノミスト」と呼ばれる著者らしく、「総論」だけでなく、「各論」に1歩、2歩踏み込んだ内容になっているのが特徴だ。

1年前の講義がベースのため、TPPの足元の動きや、アベノミクスの「新3本の矢」などへの言及はないが、日本や世界経済が抱える課題は網羅されている。

共同通信論説委員兼編集委員の柿崎明二著『検証 安倍イズム』の副題は「胎動する新国家主義」。安倍政権は「国家先導主義」といえるスタンスで、教育、憲法改正、安全保障法制などの改革に取り組んでいるとの著者の見方を、国会の議事録や各種の公表資料などから裏付けようとしている。

アベノミクスの柱をなす異次元金融緩和や産業界への賃上げ要請なども安倍流の国家先導主義の表れだと指摘する。例えば、賃上げ要請の舞台となった政労使会議での安倍首相の発言を引用した上で、以下のように評価している。

「日本はもともと護送船団方式などと揶揄されたように、市場経済を基本としつつも政府が一定程度関与していく『混合経済』体制をとってきた。安倍はその体制を『瑞穂の国の市場主義』と名付け、それをより推し進めるための政労使会議と位置付けているようだ。」

著者は安倍イズムを真っ向から批判しているわけではない。「国家が責任をもって問題の解決に当たるのは歓迎すべきことではないか」との見方が多いことも認めている。ただ、国家の出番が増え続ける過程で、国民の国家に対する協力や支援が当然視され、「国民のため」が「国家のため」に反転する危険性があると警鐘を鳴らしている。

黒田東彦日銀総裁が推進してきた異次元緩和の狙い、安倍首相の思惑などをドキュメント風にまとめたのが、共同通信社出身の嘉悦大学教授、小野展克著『黒田日銀 最後の賭け』。第1次政権を「放り出した」と批判された安倍首相がリフレ政策を支持するに至った経緯、首相の座に返り咲く前後の動き、黒田総裁が誕生した背景、「黒田バズーカ」の舞台裏などを振り返っている。内閣官房参与の本田悦朗氏ら、安倍首相のブレーン役の肉声が盛り込まれ、臨場感がある。

著者自身がこうした立場の人たちと親しい関係にあるようで、異次元緩和を極端に美化した表現が目立つのがやや気になる。異次元緩和の抱える問題点や、批判的な意見への言及は乏しい。最終章のタイトルは「黒田の異次元緩和は成功するのか」となっているが、本書にはその問いに対する回答は記されておらず、物足りない印象が残る。

リフレ派の論客の一人である早稲田大学教授、若田部昌澄著『ネオアベノミクスの論点』は、米国の有力な経済学者らの論考を紹介しながら、異次元緩和の必要性とこれまでの成果をまとめた書。アベノミクスの中でも異次元緩和に対する批判が最も多いと認めた上で、「円安亡国論」など反リフレ派の主張への反論を展開。2014年4月の消費増税は失敗だったものの、デフレ脱却を目指すというアベノミクスの目標と方向は間違っていないと強調している。2015年初めに出版された著書だが、論点は今も生きている。

若田部氏はアベノミクスを改良・進化させていくことが重要だと指摘し、新規参入者を歓迎する「オープンレジーム」と「政策イノベーション」をキーワードとして挙げる。規制緩和など、政策の領域では他の先進国に比べるとかなり見劣りする日本にはチャンスがあるとみている。名目国内総生産(GDP)水準を日銀の政策目標に加えるよう求めるなど、興味深い提言もある。

若田部氏とは対照的に一貫して反リフレ政策を唱える慶応大学准教授の小幡績著『円高・デフレが日本を救う』は、政府が金融・財政政策で短期的に景気を底上げするとかえって経済を弱くすると指摘する。円安は輸出関連の大企業の収益を押し上げる半面、輸入品価格の上昇で庶民の暮らしが厳しくなるとの見方を示す。円安効果をプラスとマイナスの両面からみると、トータルではマイナス効果の方が大きいというのが著者の持論だ。円高の方が「国富」が増え、海外案件の買収にも有利になると説く。論理は明快だが、論理の裏付けとなるデータが示されていないのが難点だ。

著者は異次元緩和からの「途中下車」が必要だとした上で、アベノミクスに代わる「真の成長戦略」として人材育成の大切さを訴えるが、教育を充実させる具体策には踏み込んでいない。

【海外経済・各論】

海外経済・各論

株価暴落や景気減速で、先行きに不透明感が増している中国経済。日本経済新聞社編『中国バブル崩壊』は国内外の多数の記者による取材をまとめた現場ルポだ。上海株の急落、人民元切り下げショック、習近平指導部が掲げる「新常態(ニューノーマル)」の持つ意味、「反腐敗運動」と国有企業改革の関係などが現場の動きの中から浮かび上がってくる。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)創設、南シナ海での人工島造成など、大国意識を強める中国と各国との駆け引きも描かれる。最終章「中国減速、身構える日本と世界」では、中国経済の減速が世界各国に多大な悪影響を及ぼしている現状を伝えている。本書全体が悲観的なトーンで覆われ、通読しても日本政府や企業が打つべき手は見えてこないが、それが今の中国経済の実態なのだろう。

慶応大学教授の竹森俊平著『逆流するグローバリズム』はギリシャ問題に揺れる欧州の現状を分析しつつ、その背景を掘り下げて論じている。欧州の盟主となったドイツに焦点を当て、ドイツが緊縮財政を継続しているのは、2つの「神話」が原因だという。1つ目は、1920年代に起きたハイパーインフレーション。ドイツ国民は今もハイパーインフレを警戒し、中央銀行による国債購入を嫌がる。もう1つはヒトラー率いるナチス政権の誕生。国家の権限拡大が悲惨な結果をもたらしたとの反省から、ドイツ流の「経済自由主義」が生まれたと解説している。

最終章は「日本がいま真剣に考えるべきこと」。欧米と価値観を共有する日本には、欧米からの「お願いごと」が増えると予想。日本政府はお願いごとを受動的に受け入れるのではなく、自分の意見をもっとはっきり言うべきだと唱えている。

企業再生を手掛ける経営共創基盤の最高経営責任者(CEO)である冨山和彦氏と元岩手県知事の増田寛也氏との対談をまとめたのが『地方消滅 創生戦略篇』。地方の現状をよく知る2人が、再生の具体策を話し合う。2014年発刊の増田編著『地方消滅』(中公新書)、冨山著『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)はともにベストセラーとなり、安倍政権の「地方創生」戦略にも大きな影響を与えている。本書では、その内容をおさらいした上で、行政、政治、大学、企業、個人に何ができるのかを示している。

2人が強調する地方再生のキーワードは「選択と集中」。夫婦共働きで年収500万円以上になる仕事を作る、地方企業の新陳代謝を促して生産性を高める、人手不足を追い風に思い切って地方でイノベーションを起こす、といった主張が展開される。長いつきあいがあり、信頼関係で結ばれているという2人の対談だけに、意見の相違はほとんどない。「討論集」として読むとやや物足りない面もあるものの、地方再生の最前線で何が問題になっているかを知りたい読者には必読の書といえる。

日本の成長戦略を議論する中で欠かせないテーマは「働き方改革」。日本大学准教授の安藤至大著『これだけは知っておきたい 働き方の教科書』は労働・雇用問題を論じる前に、頭に入れておきたい法律や経済に関する基礎知識を短時間で学べる本だ。初心者向けに平易に書かれているので、ある程度、経済学や法律の知識がある読者にとってはあまり驚きはないかもしれない。それでも、正規雇用と非正規雇用の違い、長時間労働が生まれる背景や解雇規制の現状などを正確に説明できる読者は少ないのではないだろうか。

雇用・労働問題を論じるとき、経営者側の視点に立つか、労働者側の立場を重んじるかで主張する内容が大きく分かれる傾向がある。著者は両者の視点を取り入れ、経営者と労働者がどうすればよりよい関係を築けるのかを考える必要があると主張する。「取り替えがきかない存在になると、待遇が大幅に向上する」「長い労働人生において同じ仕事を続けていればよい時代ではなくなってきた」「機械により人間の仕事が失われるより、人口減少のスピードの方が速い」「これから大事なのは、機械と競争する働き方を避けること」といった著者の見方も随所に織り込まれている。

【経済学・教養】

経済学・教養

経済学というツールを活用すると、日常生活や時事問題の根っこにある構造が浮かび上がり、改善や解決の道筋が見えてくる――。大阪大学教授の大竹文雄著『経済学のセンスを磨く』は、役に立たないと批判されがちな経済学が、実は応用範囲の広い役立つ存在であると、様々なエピソードを交えながら証明しようとしている。1話ごとの完結型でエッセー風にまとめているので、興味がわく部分だけを拾い読みしてもよい。

例えば「○○をしていないのはあなただけです」の項では、税金の滞納問題を取り上げている。人間には大事な問題を後回しにする「現在バイアス」と呼ばれる行動特性があり、その特性を踏まえて、滞納者にどんな督促文を送れば最も効果が大きいのかを示している。

日本を代表する経済学者、宇沢弘文・東京大学名誉教授が死去してから1年あまり。『宇沢弘文のメッセージ』の著者である大塚信一氏は、岩波書店の編集者として、宇沢氏の著作編集にほぼ30年間携わった。編集作業を通じた宇沢氏とのやりとりが生き生きと描かれ、類書とは、ひと味違った評伝となっている。

米シカゴ大学から東大に転じた宇沢氏が日本でもよく知られる存在となったのが、日本でのデビュー作である『自動車の社会的費用』(岩波新書、1974年)だ。大塚氏は会社の先輩から「アメリカ帰りの気鋭の経済学者に一度会ってみるといいよ」とアドバイスされ、宇沢氏の研究室を訪ねた。初対面のあいさつが終わるやいなや、宇沢氏は「ぼくに『自動車の社会的費用』というタイトルで新書を書かせてくれませんか」と提案したという。宇沢氏は新書の構想をずっと温めていたようで、3カ月足らずで原稿を完成させた。

1985年秋、小ぶりの段ボール箱3個を抱えて突然、岩波書店を訪れた宇沢氏は「これを好きなように編集して本をつくってくれませんか」と語った……。宇沢氏の出版にかける思いが伝わってくる。

ライフネット生命保険会長兼最高経営責任者(CEO)の出口治明著『人生を面白くする本物の教養』は、現代のビジネスパーソンにとっていかに「教養」が不可欠になっているかを説く。「教養とは何か」から説明し、「自分の頭で考える」よう訴えている。戦後の日本社会は冷戦構造という大枠の中で、「キャッチアップモデル」「人口増加」「高度成長」という条件が重なり、「自分の頭で考えない方が都合がいい社会」だったと総括。就寝前の1時間は必ず読書の時間に当てる習慣や、タテ(歴史)とヨコ(海外)に視野を広げる発想法、仕事に対する自身の考え方などを紹介し、ビジネスパーソンが教養を身に付けるためのヒントを提供している。

時事問題の項目では、「公的年金は破綻するという嘘」「選挙は忍耐そのものである」「35年住宅ローンは時代とミスマッチ」など、問題の本質をずばりと突く分析や提言が多数、盛り込まれている。

【資本主義論】

資本主義論

2015年も「資本主義」を問い直す本が数多く、出版された。京都大学名誉教授の佐伯啓思著『さらば、資本主義』は資本主義を批判し続けてきた著者が、月刊誌での連載に加筆してまとめた書。「資本」を金融市場にばら撒いて成長を目指す「資本主義」はもう限界だという持論を展開している。資本主義そのものを疑い、現代人の生き方や価値観の転換を求める論理展開は著者の得意とするところ。

福沢諭吉著『文明論之概略』を、グローバル化が進む中で国家の独立を保つ方法を説いた書として紹介。日本でもベストセラーになったフランスの経済学者、トマ・ピケティ著『21世紀の資本』は「資本主義はさして経済成長を生み出さない、という前提で書かれている」点に面白さを見いだすなど、新しい視点・話題も盛り込まれている。しかしながら、資本主義社会をどう変えていくべきか、といった具体的な提言はなく、批判のための批判に陥っている印象は残る。

科学史に詳しい千葉大学教授の広井良典著『ポスト資本主義』は、人類の歴史は「成長」と成長が滞る「定常化」を繰り返してきたとの認識を披露する。狩猟採集社会が資源の制約などで定常化した時期に自然信仰が生まれ、次の農耕社会が成長期から定常化に向かった時期に普遍宗教が生まれた。「近代化」を経た現在の産業化社会は、3回目の定常化を迎えたという。この先、人類はどこに向かうのか。著者は、「人工光合成」といった新技術が生まれて第4の拡大・成長期に入るか、定常化の状態が続く「ポスト資本主義」の時代を迎えるかの分岐点にあると主張する。

本書のタイトルにもあるように著者が望むのは後者。資本主義とは「市場経済プラス(限りない)拡大・成長を志向するシステム」と定義する著者は、資本主義は80年代以降に時間と空間の拡大によって生き延びてきたが、もはや限界に達したとみる。その上で、「コミュニティ経済」「地球倫理」といったキーワードを軸に、未来社会の姿を明快に描き出す。半面、著者による未来社会の構想は抽象論・理想論に傾きがちで、社会を変える具体策になると、政府の介入を求める提案が多い。理想と現実のギャップを埋め切れていないようにも読める。

日銀の政策委員会審議委員でリフレ派として知られる原田泰著『反資本主義の亡霊』は、佐伯、広井両氏とは対照的に、資本主義の素晴らしさを力説する。資本主義社会が誕生する以前と現代とを比べ、「人類は200年前まで、ただ一様に貧しかったのだ」と指摘。資本主義が「格差」を生み出したことを認めつつも「王侯貴族と奴隷しかいないような社会の格差よりはずっとマシである」と「反資本主義」論者を批判する。

「反資本主義」論者が唱える「脱・成長」や「成長の限界」説にも疑いの目を向け、「成長は必要だし、成長はできる」との見方を示す。「環境を破壊するのは短期的な視野しかもてない独裁国家」「女性の地位は資本主義によって高まった」など資本主義を擁護する文言が並ぶ。アベノミクスによるリフレ政策は雇用を増やし、自殺者が減ったと説明した上で、「経済の不安定性は、中央銀行の誤った政策によってもたらされる」と旧体制を批判している。

出版不況を打開する狙いからだろうか。最近、書き手の主張、立場がはっきりしている著書の出版が目立つ。今回、ご紹介した新書をみても、賛否両論が分かれるテーマに、大胆に切り込んでいる著者が多い。自分とは意見が異なるとみられる著者の主張にあえて耳を傾けてみると、意外な発見があるかもしれない。

(編集委員 前田裕之)

書名著者新書名価格
(円、税抜き)
発行
年月
【日本経済・アベノミクス】
日本経済を「見通す」力伊藤元重光文社新書84015.6
検証 安倍イズム柿崎明二岩波新書80015.10
黒田日銀 最後の賭け小野展克文春新書78015.10
ネオアベノミクスの論点若田部昌澄PHP新書84015.2
円高・デフレが日本を救う小幡績ディスカヴァー携書100015.1
【海外経済・各論】
中国バブル崩壊日本経済新聞社編日経プレミアシリーズ85015.10
逆流するグローバリズム竹森俊平PHP新書80015.5
地方消滅 創生戦略篇増田寛也・冨山和彦中公新書74015.8
これだけは知っておきたい              働き方の教科書安藤至大ちくま新書78015.3
【経済学・教養】
経済学のセンスを磨く大竹文雄日経プレミアシリーズ89015.5
宇沢弘文のメッセージ大塚信一集英社新書74015.9 
人生を面白くする本物の教養出口治明幻冬舎新書80015.9 
【資本主義論】
さらば、資本主義佐伯啓思新潮新書74015.10
ポスト資本主義広井良典岩波新書82015.6 
反資本主義の亡霊原田泰日経プレミアシリーズ88015.7
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