少女マンガが物語る「私の世代」 変化するヒロイン像
「りぼん」「なかよし」創刊60周年
少女向けコミック誌「りぼん」「なかよし」が創刊60周年を迎え、各地でイベントや関連商品の開発が相次いだ。時代と共に変化する物語やヒロイン像は、女性の歩んできた道のりそのものと言える。マンガの歴史をひもとくことで、現代女性の置かれている社会状況が見えてくる。
りぼん名刺で増す親近感
「懐かしい」「これ持ってた」。弥生美術館(東京・文京)の「陸奥A子×少女ふろく展」には女性が行列をつくっていた。陸奥は1970~80年代の少女マンガ最盛期に乙女チックラブコメを開拓した立役者だ。金髪青い瞳の少女が主人公という60年代の少女マンガの作法を打ち破り、「ごく普通の女の子」の恋愛を描くようになった。60年代後半にはお見合い結婚の件数を恋愛結婚が逆転、恋愛が異国の憧れのものから現実世界のものへと移った現れだ。
東京都港区のカフェでは20~30代の女性たちが「りぼん名刺交換会」に沸いていた。「250万乙女のバイブル」として人気を博した少女マンガ誌「りぼん」のかつての読者たちが、創刊60周年を記念して発売された名刺を手に集まった。自らの名前や連絡先と共に、60種類以上から選んだ懐かしの好きなマンガをあしらったもの。交換を通じビジネス人脈を広げるのが狙いだ。会を企画した大橋卯月さん(33)は「名刺に描かれた作家や世代の違いでその人のバックボーンがわかり、親密度が増す」とりぼん名刺の効用を語る。
90年前後は強いヒロインの時代。「女だって出世がしたい!」とのキャッチフレーズで「悪女(わる)」の連載が始まったのは88年だ。女性向けコミック最多の6100万部を発行する「花より男子」は逆境に負けない女子高生が主人公だ。恋、友情、仕事、欲しいものは手に入れる、女性が強さを謳歌した。
97年以降、共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回り、疲れた女性の本音が垣間見え出す。「きみはペット」はバリバリ働くヒロインが年下のダンサーとの恋愛で癒やしを得る物語。また恋愛以外へとテーマが広がり、友情や仕事を描く「NANA」「働きマン」が支持を集めた。
純愛求め、ときめき得る
2005年ごろからは純愛回帰。大の少女マンガファンという人材紹介会社勤務の森本愛さん(31)は育児や仕事に追われながら、クラスの人気者男子とのピュアな恋を描く「君に届け」にはまる。藤本由香里明治大学教授は「若い人ほど恋愛観や結婚観は堅実。一方で、マンガにはあり得ないほどの純愛を求め、ときめきを得る」と分析する。実生活は家事も育児も頼れる協力的なパートナー求めるが、2次元の世界は別。そんな思いが強いようだ。
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記者の目
電子コミックで市場成長
サンスター文具(東京・台東)が「美少女戦士セーラームーン」の20周年記念文具を販売したところ、30~40代の女性層にうけ当初計画の10倍を売り上げるヒットとなった。りぼん創刊60周年の記念文具も当時を懐かしんで購入する働く女性が多かった。企画開発した森口人美さん(28)はりぼんを読んで育った。「最初は年配の男性上司らの理解を得るのが難しかった」と振り返る。
出版科学研究所(東京・新宿)の調べによれば、2014年のコミック市場(紙コミックス+電子コミック合計)は前年比11%増の3280億円で、ピークだった2005年を大きく上回った。雑誌が落ち込む一方、紙コミックス(単行本)は堅調で、電子コミックの成長が市場を押し上げる。子ども時代にマンガ雑誌を読んでいた30~40代が、スマートフォンでマンガを楽しんでいる。
ビジネス書や文学作品が表紙をマンガイラストにして大ヒットした例は多い。マーケティングツールとしてのマンガの可能性は今後さらに注目されそうだ。
(松原礼奈)
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