横行するマタハラ 誰もが協業しやすい職場環境を水無田気流女男 ギャップを斬る

ドラマなどで女性が吐き気に襲われ、「ハッ! もしや妊娠!?」という紋切り型表現があるが、私の場合は「実況パワフルプロ野球」という野球ゲームで、野手を育成しているときに異変に気づいた。バッティング時、明らかにセンター返しになったはずの当たりがことごとく流し打ちになってしまう。当初イチロー並みの流し打ち名人になったのかと思ったが、妊娠で動体視力が落ちていたのが原因。

みなした・きりう 1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。

つわりもほとんどなく、出産直前まで執筆できたのは幸いであった。もっとも、妊娠で体調を崩す人は多い。「吐いてばかりで7キロ減」「全身に妊娠性発疹」「切迫流産で入院」等、大変な話を多々耳にした。妊娠出産とは「自然」が相手。完璧にコントロールすべしというのは、人間の傲慢であろう。だがこれを、独力で成し遂げて当たり前と思われているのが、今の日本の女性たちである。「妊娠は自己責任」などの言説は、この証左であろう。職場でのマタニティーハラスメント(マタハラ)横行も深刻だ。

先ごろ厚生労働省は、初のマタハラ調査を行った。結果は、妊娠・出産した派遣社員の48.7%、正社員では21.8%が「マタハラを経験したことがある」と回答。派遣社員は正社員に比べ弱い立場である上、派遣会社と派遣先企業の双方からマタハラを受ける可能性もある。

もちろん女性の就労と出産・育児両立について、多くの人は理念としては賛成できても、職場に実際に妊婦がいて自分が仕事の穴埋めをしなければならない場合、感情的に不快感を覚えてしまうのも事実。「お互いさま」感覚を浸透させるためには、妊婦だけではなく、性別や既婚/未婚を問わず、条件に応じた時短勤務やワークシェアリング普及など、誰もが協業しやすい職場環境を整備する必要がある。

急速な生産年齢人口減少の最中マタハラが横行するという事態は、あえて言えばこの国の「社会的自殺」だ。次世代を育むための協業を欠いたままでは、やがてこの国は土台から崩落する。私は、この分野にも「坂本龍馬」が欲しいと思う。薩長を和解させたように、「男や女や、既婚や未婚や、妊婦や介護従事者や言うちゅう場合やないがやき!」と一喝していただきたいものである。

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