インド出身スター主演ドラマ 多様な視聴者で好調
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
米国エンタ界において、長年課題とされ続けている"人種の多様性"。2015年9月末に開催されたエミー賞でもDiversity(多様性)が連呼され、アフリカ系アメリカ人女優が3人受賞を果たすなど、社会の風潮を反映した結果だったと言えるでしょう。
とりわけ4大ネットワークのABCは、人種の多様性を番組に取り込むことに積極的です。『殺人を無罪にする方法』のヴィオラ・デイヴィス、『スキャンダル』のケリー・ワシントンらアフリカ系アメリカ人が主演のヒット作を抱え、2014年の新番組では裕福な黒人一家のコメディ『Black-ish』、中国からの移民一家のコメディ『Fresh Off the Boat』を軌道に乗せました。
9月から順次新番組が初回放送を迎えている2015~16年シーズンで、ABCはこの路線をさらに推し進めています。なかでも注目なのがインド出身のスター、プリヤンカー・チョープラー主演の『Quantico』です。
ドラマは、大規模な爆弾テロ事件が起き、奇跡的に助かったアレックスが保護されるところから始まります。その9カ月前、バージニア州のFBIアカデミー・クワンティコ本部にやってきたアレックスほか新入生たちの訓練過程と、テロの犯人として疑いをかけられた卒業生らの現在が並行して描かれるサスペンスです。
チョープラーが人気急上昇
『グレイズ・アナトミー』と『HOMELAND/ホームランド』を足した作品との触れ込みでしたが、加えてフラッシュフォワードを使い、個々人の事情を掘り下げていく群像劇は『LOST』方式。初回と2回目の放送は堅調な滑り出しです。最大の理由は、ABCがお抱え女優として大々的に売り出しにかかっている女優でモデル、歌手のチョープラーの魅力によるものでしょう。
チョープラーは2000年、ミス・ワールドで優勝した後、ボリウッドのスターとなり、『ラ・ワン』や『バルフィ! 人生に唄えば』などのヒット作が日本でも公開されました。その美貌に加えて、歌とダンスの才能にも恵まれ、歌手としても成功を収めています。アメリカではまだ知名度は低いものの、視聴者を引きつけるだけのスター性があり、人気急上昇中です。
また、同作はレバノン出身、キューバ系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人の俳優がメインキャストで出演しており、役の設定も含めて、まさに人種の多様性を重視したキャスティング。これは今期の新番組に全体的に言える特徴でもあります。ABCは今期の新番組で韓国系が主人公の『Dr.Ken』も健闘しており、多様な視聴者を獲得する方向性で着実に成果を挙げています。
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今月のオススメドラマ
『アウトランダー』
現世と過去の2人の男性の間で揺れるヒロイン
アメリカの人気作家ダイアナ・ガバルドンによる、同名ベストセラー小説シリーズの第1部「時の旅人クレア」のテレビシリーズ化。第二次世界大戦後、従軍看護師クレアが夫フランクとの休暇旅行で訪れたスコットランドで、1人だけ200年前にタイムスリップしてしまう。18世紀半ばのハイランダー地方では、イングランド軍とスコットランドが微妙な関係にあるなかで、クレアは若き戦士ジェイミーと運命的な出会いを果たす。激動の歴史の中で、2人の男性の間で揺れるクレアの将来は…。
ロマンス小説の要素が強いながらも、SFファンタジーや歴史ドラマとしても高い評価を得ている原作と同じく、ドラマもロマンス、ミステリー、冒険ファンタジー、歴史とジャンルは多岐にわたっている。製作総指揮は、『GALACTICA/ギャラクティカ』などのヒットメーカー、ロナルド・D・ムーア。スコットランドの雄大な景色を背景に全編ロケを敢行し、衣装や音楽なども細部にこだわる見事な映像世界を作り上げている。
何より原作のイメージ通りの主演2人が魅力的。クレア役はアイルランド出身のスーパーモデル、カトリーナ・バルフ。スコットランド出身の新鋭サム・ヒューアントとの演技のケミストリーが物語をドラマチックに盛り上げている。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2015年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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