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ツタンカーメンの隠し部屋発見、日本の技術者が活躍

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ナショナルジオグラフィック日本版

ツタンカーメン王の墓で2日間かけてレーダースキャン調査を行った考古学者らによると、データの簡易分析の結果、王の玄室には隠された出入り口が2カ所あり、その向こうに閉ざされた区画がある証拠が見つかったという。

2015年11月28日にエジプト・ルクソールで発表されたこの内容は、英国人考古学者ニコラス・リーブス氏が提唱している、ツタンカーメン王の墓の中にはもう一人別の王族が埋葬されているという仮説を裏づけるものだ。リーブス氏は、隠された墓に眠っているのはツタンカーメンの義母で、女性のファラオとしてエジプト第18王朝を支配したとされるネフェルティティと推測している。

もしリーブス氏の説が事実なら、これは近代になってから無傷で発見された二つ目の王族の墓であり、エジプトのマムドゥフ・ダマティ考古相の言葉で言えば「今世紀における最大の発見の一つ」ということになる。記者会見の場で大臣は、墓の北側の壁の向こうに部屋があることは「90パーセント確実」だと述べている。

日本人のレーダー技術者、渡辺広勝氏

発表の前日、ダマティ氏は、紀元前14世紀にエジプトを支配した少年王ツタンカーメンの埋葬の儀式が描かれた壁の前でこう語っていた。「レーダースキャンの結果は、北壁のこちら側の表面に2種類の素材が使われていることを示しています。我々は、おそらくもう一つ部屋があるのだろうと考えています」

またスキャンの結果からは、北壁と隣り合った西側の壁に、二つ目の出入り口が隠されている証拠も見つかっている。スキャンの作業を担当したのは日本人のレーダー技術者、渡辺広勝氏だ。

こうした特徴のすべてが、リーブス氏が7月に発表した仮説の信憑性を高めている。今回のレーダースキャンによって、研究者らは、壁の素材の構造と壁の向こうの空間を示唆するデータを初めて得ることができた。なかでもとりわけ興味深いのは空間だ。ここには工芸品のほか、ツタンカーメンの墓で見つかったものに匹敵するほどの副葬品が入っている可能性もある。

「すべてのつじつまがピタリと合っています」。張り詰めた空気の中で行われたレーダー調査の直後、リーブス氏は私にそう言った。「墓はそう簡単に秘密を明かしてはくれません。それでも少しずつ明らかになってきています。私の仮説の基本的な方向性と矛盾しているものは何一つありません」

壁のスキャン用にレーダーを特注

墓で最初のスキャンが行われたのは発表の2日前の11月26日。作業は夕暮れ時、観光客が去って王家の谷が静けさに包まれた頃に開始された。

渡辺氏は15年前にも、リーブス氏が手がける別のプロジェクトのためにこの谷を訪れている。そのときは複数の地下室の存在を示す証拠が数多く発見され、後にそのうちの一つが墓であることが判明した。渡辺氏はまた南米でも、存在が知られていなかった古代のモニュメントをレーダーで探り当てている。

どちらのプロジェクトにおいても、使用されたのはレーダーを下に向けて照射するタイプの装置だった。こうしたレーダーは、通常はエンジニアが用いるもので、たとえば橋に使われている鉄筋の位置を突き止めて構造的な弱点を探るといった作業に活用される。

ツタンカーメンの墓で壁をスキャンするには、レーダーを下ではなく横に向けて照射する必要があった。これを実現するために、渡辺氏は日本の光電製作所製のレーダーを改造することにした。

通常の装置では、小さな台車に載せられた本体とアンテナが、まっすぐ下に向けてレーダーを照射するようになっている。渡辺氏は光電製作所に依頼して、本体を横向きにした装置を特注した。

73歳の渡辺氏は驚くほど壮健だが、ルクソールまで20時間かけて移動したこともあり、最初のうちはこの仕事の重圧が肩に重くのしかかっているように見えた。作業は日中、ツタンカーメンの墓の近くにある「KV5」と呼ばれる墓でのテストスキャンから開始された。まずは、向こう側に何があるのかがわかっている壁で、装置のテストをするというわけだ。

ルクソールの地下深くにある墓の奥は暑くて空気も淀んでおり、30分もしないうちに渡辺氏は汗だくになっていた。それでもテストの結果、装置が正常に作動していることが確認され、その後ツタンカーメンの墓に移動して2度目のテストも問題なく終了した。

午後7時には、渡辺氏は元気を回復し、塞がれた出入り口があるとリーブス氏が考えている玄室の西壁をスキャンする準備をすっかり整えていた。墓の中にはダマティ考古相、リーブス氏のほか、エジプトの国営メディアの記者、ナショナル ジオグラフィックと日本のテレビ局の映像クルーなど、20数人がいた。渡辺氏は西壁の端に一人で立ち、その他全員は彼の背後から十分な距離を置いて立っていた。

渡辺氏がゆっくりと台車を押し始めた。台車は壁から5~7センチほど離れた位置を進み、渡辺氏はその上に載ったコンピューターの画面をじっと見つめている。部屋はしんと静まり返っていた。全員の視線を一身に浴び、10台ほどのカメラが向けられるなか、渡辺氏は見ている方がジリジリするほどのペースで、ゆっくりと移動していった。

半分ほど来たところで彼は足を止め、ほんの少し機械をいじると、日本語でこう呼びかけた。「ひもを少しもらえますか」。誰かがロープを取りに大急ぎで走っていった。

古代エジプトと現代技術の遭遇

今回の調査では、そもそもの始めからハイテクが大きな役割を果たしてきた。初日のスキャン作業の開始前、リーブス氏はこう語っていた。「私はツタンカーメンの墓にはもう30年も通っています。しかしこの墓の内部に関する最も興味深い発見がなされた場所は、墓の中ではなく、インターネット上でした」

2009年、博物館関係者や芸術家が所属するスペインの団体「ファクトゥム・アルテ」が、ツタンカーメンの墓を高解像度でレーザースキャンする作業を開始した。第一の目的は、墓の精巧なレプリカを作ることだった。彼らがすべてのスキャンデータをネット上に公開すると、当時、米メトロポリタン美術館で仕事をしていたリーブス氏は、すぐにこれに注目した。

「このスキャンのすばらしい点は、初めて壁の本来の状態が確かめられるようになったことです。壁に描かれた絵を眺めていると、ついそちらに気を取られてしまいます。しかし絵を取り除くことで、まったく異なる景色が見えてくるのです」

ファクトゥム・アルテが公開したデータでは、壁画が取り除かれた状態で、壁の表面の状態が白黒画像として表示されていた。リーブス氏は玄室の北側と西側の壁に、完全にまっすぐで垂直な線が複数あり、それが出入り口を塞いでいる隔壁の形状だと考えるとつじつまが合うことに気がついた。

リーブス氏の専門は、古代エジプト史においてもとりわけ波乱が多く謎に満ちた第18王朝だ。この時代の重要なファラオであるアクエンアテンは、エジプト人の信仰に大胆な改革を加え、太陽神アテンを唯一神とせよと命じた。彼の第一王妃はネフェルティティであり、後に共同統治者となった。「ネフェルティティが最高権力の座にいたことは、数年前からわかっていました。これはつまり、通常の王妃よりも強い権力を持っていたということです」

リーブス氏は以前から、ネフェルティティが夫よりも長生きしてファラオとなり、スメンクカーラーと名前を変えたのではないかと考えてきた。リーブス氏はまた調査の一環として、ツタンカーメンの墓から出土した遺物を精査し、遺物の約80パーセントが、もともとは誰か別の人物――女性――のために作られたものだと結論づけた。さらに彼は、あの有名な黄金のマスクにさえも修正が加えられていた明らかな証拠を発見している。カルトゥーシュ(枠線)に囲まれた王の名の下に、以前に刻まれていた別の名前の痕跡が残っていたのだ。

こうした調査結果と、ファクトゥム・アルテのスキャンデータから読み取れる特徴とを組み合わせたとき、リーブス氏にはすべてが一つの結論を指しているように思えた。つまりネフェルティティはアクエンアテンの後にファラオとなり、死後墓に埋められたが、その墓はわずか19歳で急死したツタンカーメンのために急遽作り変えられたのだ。2015年の7月、リーブス氏は自らの仮説を述べた「ネフェルティティの墓?」と題した論文を発表した。

9月末、ダマティ考古相やリーブス氏らは墓を詳しく調べ、こうした仮説を裏づける証拠を複数発見した。なかでも、天井にくっきりと入った1本の線と、北壁の表面の状態が途中で明らかに変化していることは注目に値した。これらの特徴は、ファクトゥム・アルテによるスキャンデータに見られる線と完全に一致していた。この時点で、リーブス氏の考えは単なる仮説ではなくなった――今や物理的な証拠が見つかったのだ。

2011年に始まった革命以降、エジプトは経済が衰退し、政治不安と暴動に苦しんできた。驚くような考古学上の発見があるかもしれないという情報は、母国に関する明るいニュースを切望している役人たちの興味も引いたようだ。調査初日、ルクソール県知事のムハンマド・ベドル氏が、パトカーと黒いジープの車列を連ねて王家の谷にやってきた。知事はスキャンが開始される前にダマティ氏とリーブス氏に面会した。

いかにも明るいニュースを待ち望んでいるといった空気に、調査の関係者は皆、見るからに圧倒されていた。渡辺氏が玄室の西壁のスキャンを始める直前、今どんな気分かと聞かれたダマティ氏は、「少しナーバスになっています」と答えてから、こう言い直した。「実を言えば、かなりナーバスになっています」

壁画の向こうをのぞき見る

作業を中断し、装置をしばらくいじった後で、渡辺氏は結局ひもは必要ないと決めたようだ。部屋が静かになり、彼は再び台車を壁に沿って押し始めた。全長の半分を少し超えたあたりで、渡辺氏が沈黙を破った。「ここで素材が変わっています」

そこはまさしく、ファクトゥム・アルテのスキャンデータで出入り口があるように見えた場所だった。渡辺氏はエジプト学者でもなく、リーブス氏の論文を読み込んでいたわけでもない。それでも彼がレーダーで発見した事実は、スキャンで見つかった証拠とピタリと一致していた。

渡辺氏は西側の壁をもう一度スキャンしてから、北壁へと移った。「ここはただの硬い壁ですね」。作業に取りかかったとき、彼はそう言った。しかし、出入り口を塞ぐ隔壁があるとリーブス氏が推測した場所に差しかかると、渡辺氏はこう告げた。「ここから先は変化しています」

作業を終えると、渡辺氏はコンピューター画面に表示された色とりどりの線を精査した。「これは明らかに、どこかへつながる入り口です」。通訳を通じて彼はそう言った。「ここに何かがあるのは、まず間違いありません。かなり深さがあります」

彼は壁を再度スキャンして、こうした解釈が間違っていないことを確かめた。リーブス氏がもう一度スキャンをするかと尋ねると、渡辺氏は言った。「必要ありません。いいデータが取れました」

北壁のそばに立ったリーブス氏とダマティ氏はほっとした表情を見せたが、両者とも、とりあえずは渡辺氏のデータ分析を待ちたいと口にした。「なんだか事の成り行きから切り離されているような、妙な気分です。私はあまりに長い間この件に関わってきましたから」とリーブス氏は言った。「私の認識が正しければ、今のところ、これ以上は望めないほどの成果が出ています。にわかには信じられません」

渡辺氏が作業を終えると、リーブス氏は墓から外に出た。そして王家の谷に浮かぶ満月の下に立ったまま、あまりの疲労から嘔吐した。

増える隠し部屋の証拠

翌日、ダマティ氏とリーブス氏は、データの初期分析の結果は非常に有望であると改めて述べた。データは、壁には少なくとも2種類の素材が使われていることを示していた。一つは岩盤で、もう一つは何か別のものだ。

「(北壁の)硬い岩盤は、さほど硬くない人工的な素材に突然切り替わっています」とリーブス氏は言う。「徐々に変化しているわけではありません。そこにはくっきりとした、まっすぐで垂直な線が通っており、これは天井の線と完璧につながります。この線は、今の前室(控えの間)が本来、この玄室の中まで、廊下のように続いていたことを示唆しているように思えます」

リーブス氏はさらにこう続けた。「レーダー班の人たちからは、この隔壁の向こう側にはおそらく空間があると考えていいだろうと聞いています」。ダマティ氏によると、これから渡辺氏が1カ月かけてデータを分析した後、詳細な最終結果を知らせてくることになっているという。

私はルクソールにあるシカゴ大学の碑文研究センター「シカゴ・ハウス」のレイ・ジョンソン所長にも話を聞いた。そのとき彼は、この分野の関係者は皆、リーブス氏の仕事に大いに注目しているとは言ったものの、あそこにネフェルティティが埋葬されているという推論については判断を保留した。「これが誰か特定の人物の墓であるという論理は、やや強引ではないでしょうか」と彼は言う。「ツタンカーメン以外、彼の王家の人間は誰一人見つかっていないのです。そこに埋められているのが誰であってもおかしくありません」

ダマティ氏は、もしこの先さらに証拠が集まれば、将来的には、「宝庫」と呼ばれる玄室の脇にある部屋の壁にドリルで小さな穴を開けることも考えているという。宝庫は北壁の向こうにあるとみられる空間と隣接しているうえ、壁画が描かれていないため、壁画を壊す心配がないからだ。「壁に穴を開け、そこから小型カメラを入れて、向こう側を観察するのです」とダマティ氏は言う。もしカメラに宝物が映った場合には、北壁と壁画を安全に取り外して部屋に入る方法を探すことになるだろう。

(文 Peter Hessler、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2015年12月3日付]

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