ベネズエラ発ハンドコーラス、日本に上陸

声ではなく手による合唱は可能か。南米ベネズエラの青少年向け音楽教育システム「エル・システマ」を運営するシモン・ボリバル音楽財団は11月、聴覚障害者らが手の動きで合唱に参加する「手の歌」の方法を都内で紹介した。エル・システマ創設40周年記念としてユース・オーケストラの来日公演も開かれた。

白い手袋をはめ、手話に基づく手の演技によって「合唱」する。そんなベネズエラ発の「ホワイト・ハンド・コーラス」のワークショップ(研修会)が11月21日、東京芸術劇場(東京・池袋)のリハーサルルームで開かれた。聴覚障害や自閉症などのために声を出して歌えない子供たちが、健常者と一緒に合唱を楽しめる環境作りが目的だ。当日は健常者を中心に22人が出席し、19人の合唱団とともにピアノ伴奏で手話ならぬ「手歌」を体験学習した。

白い手袋をはめた出席者は指揮者の指示に従って手を動かして合唱を演じる。ベネズエラから来日したシモン・ボリバル音楽財団のナショナルコーディネーター、レオナルド・メンデス氏は「手話そのものとは異なる。歌える人も手を使って演じる。コーラスの中で手を使って演技する発想が生まれる」と語る。

同財団はベネズエラの大統領府直属の組織だ。同財団による国を挙げてのエル・システマの活動には、障害者向け教育プログラムもある。その一つが今回のホワイト・ハンド・コーラスだ。

貧困や青少年犯罪などの社会問題を抱えるベネズエラにおいて、エル・システマは恵まれない子供や若者が音楽を学び楽しむ機会を無償で提供している。世界的指揮者グスターボ・ドゥダメルらを輩出し、欧米や日本でもその教育手法が高く評価され、導入が進みつつある。

この日はワークショップの後、40年間にわたるエル・システマの成果の一つとして、16~25歳の演奏家が活躍する「テレサ・カレーニョ・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ」の来日公演も東京芸術劇場で開かれた。やはりエル・システマ出身で、ドゥダメルに続く若手指揮者として世界的に注目されるクリスティアン・バスケスのタクトでベルリオーズ「幻想交響曲」などを演奏した。

フランス近代音楽の始まりを告げるベルリオーズの「幻想」は、エル・システマの若いオーケストラにかかると、ラテン的な色彩感を一段と増して鳴り響く。アンコールでは会場が一瞬暗くなった後、楽団員全員が黄青赤のベネズエラ国旗をあしらった鮮やかなユニホームに着替え、リズミカルなラテン音楽を立て続けに演奏して会場を沸かせた。その底抜けに明るい興奮に、苦境の人々に手をさしのべる彼らの頼もしさと音楽の包容力が示されていた。 (映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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