ライフコラム

ヒット総研の視点

長寿社会の新・熟女のマナー 介護と脱毛の意外な関係 日経BPヒット総合研究所 黒住紗織

2015/12/17

日経BPヒット総合研究所

 エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今回のキーワードは「介護美容脱毛」。最近では40代、50代の女性にデリケートゾーンの脱毛施術を受けにくる人が増えつつあるという。背景には、自分が介護を受けるときに迷惑をかけたくない、衛生的でいたい、という女心が潜んでいる。
写真:アフロ

 脇や足、腕などのムダ毛の手入れは結構面倒。だから、ずっと生えてこないようにする永久脱毛は、若い女性を中心に今や一般的な美容行動となりつつある。特に、近年は脱毛エステサロンの広告宣伝が盛んになり低価格化が進んでいるため、脱毛に対する消費者ニーズが高まっている、という話も聞く。

■40代、50代女性が脱毛をする理由

 そうしたところ、アンダーヘアを永久脱毛する女性が増えているとの話を、最近になって複数の取材先から耳にした。だが、それは若い年齢層を中心にしたファッション感度の高い一部の女性やセレブと呼ばれるような特別な人、もしくは“アンダーヘアの脱毛は夫婦間のエチケット”という文化で育った欧米の外国人男性をパートナーに持つ女性の間での流行だと思っていた。「一般の日本人女性には、まだまだ縁遠い話」と高をくくっていたのだ。

 ところが、関係者に詳しく話を聞いてみると、40代、50代の普通の女性たちがアンダーヘアをすべてなくす脱毛の施術を受けに、クリニックに来るケースが目立ってきているという。その理由の一つが介護なのだ。

 東京・六本木で白髪脱毛外来も開設するアヴェニューウイメンズクリニック(婦人科)の福山千代子院長はこう話す。

 「きちんと数字で把握しているわけではありませんが、ここ数年、40代、50代の人がVIO脱毛(アンダーヘアをすべて脱毛)するケースが増えています。その理由の一つに介護を経験した方が、自分が介護をしたときにおむつ交換時などにとても手間がかかった体験があるようです」

医療機関で脱毛に使われるダイオードレーザーの例

 「これまではデリケートゾーンを明るいところで他人に見られることなど考えていなかった。しかし、介護を体験した人は、よく見てよく拭かないと、そこから炎症や感染を起こすリスクがあることが分かってきた。赤ちゃんのようにつるつるの肌なら、ふき取るのも楽だし、ケアの手間も少なくて済む。自分が介護されるときのことを想像して、今のうちに手を打っておこうと駆け込む人が増えているようです」(同)。

 ちなみに、アンダーヘア脱毛を意味する「VIO脱毛」の、Vは体の前側の部分、Iは真下の部分、Oは後ろのヘア部分を指すという。すべてのゾーンの脱毛をすることをVIO脱毛と呼び、英語で「衛生的」を意味する「ハイジニーナ脱毛」という言葉もある。

 家庭用の光美容器ではVラインを整えることはできるが、IラインやOラインの永久脱毛には向かない。そこで、VIOを対象にする場合は、クリニックでレーザー脱毛を受けるのが一般的な方法なのだという。

■一般女性に徐々に浸透

 アヴェニュー六本木クリニック(皮膚科・形成外科)で脱毛施術をする看護師は「Vラインはきれいな形にデザインして残しても、IとOラインは永久脱毛する40代、50代女性が増えていると感じます。介護の際に、特にIとOラインのヘアがあるとないとではずいぶん手間が違います。看護師仲間からも、今から手を打っておく人が出てきている、という話を聞くようになりました。当院の場合、六本木という土地柄、施術を受ける人はほかの地域より多いかもしれませんが、受けに来るのは特別な人ではなく、ごく一般の女性という印象です」。

 高齢化社会を迎え、これまで考えられなかったまったく新しい美容脱毛ニーズが芽生えているというわけだ。

 周囲の女性にも聞いてみた。まだ一部かもしれないが、やはり、介護とアンダーヘアの美容脱毛を結びつけて考える動きは、確かに生まれてきているようだ。

ハンドピースを脱毛する部位に当て、レーザー光を照射。毛母細胞を焼く

 50代の美容ライターさんがこんな話をしてくれた。「まさに最近、美容雑誌の撮影現場でその話題で盛り上がったばかりです。30代から50代までの4人の女性での会話でしたが、そのうちの30代、40代後半の2人はアンダーヘア脱毛をしていることが分かりました。『ヘアがあると介護されるときに面倒をかけるから、つるつるにしておいたほうがいい』という話も出ました」。

 「言われるまで考えたことはなかったのですが、確かにその方が清潔だなと気づき、脱毛ができる家庭用の光美器で一部、試してみました。私は医療機関で施術してもらう勇気はまだないけれど、家庭用の光美容器でもヘアを薄くする程度ならできそうだと分かりました」(同)。

■白髪にレーザーは無効

 だが、「40代、50代の女性がいまから介護されるときのことを考えて備えるのは、少し早すぎるのでは」と思う人も多いだろう。実は、そこにはワケがある。「白髪になる前に」というのがその理由だ。

 「頭の毛と同様に、アンダーヘアも加齢とともに白髪になる人が増えます。VIOラインの永久脱毛にはダイオードレーザーなどを使いますが、レーザーは毛母細胞の黒い色素(メラニン)に反応して、その細胞を焼くことで毛が生えてこないようにするメカニズム。白髪には反応せず、そこの部分だけ残ってしまうのです。残った白髪はニードル脱毛といって、医師が一本一本、針で焼く方法しかない。それだと時間も費用も割高になります」。VIO脱毛をメニューに加えて10年ほどになるという、アヴェニュー六本木クリニックの澤田彰史副院長がこう説明してくれた。

 施術は毛周期に合わせて5~6回通う必要があり、同院の場合、Vライン1回で1万5000円、I・Oは各1回1万円。1ラインの所要時間は30分程度だ。少しずつ薄くなり、何もない状態になるのに6カ月程度かかる。これに対し、白髪の場合は1本当たり1000円の施術費(アヴェニューウィメンズクリニックの価格)がかかるという。

 要介護になる人口は、年々増加の一途だ。同時に、40代、50代を中心に身近な人を自分で介護する機会を持つ人が確実に増え、介護現場での悩みが具体的に見えるようになってきた。

要介護になる人口はこの先増える一方で、身近な人を介護するケースも増加する(内閣府平成26年度版高齢者社会白書ホームページより、http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2014/zenbun/s1_2_3.html)

 将来、自分が介護を受けることになった場合、少しでも他人への迷惑を減らしたい、人に見られたときに少しでも身ぎれいにしておきたい――。介護美容脱毛はまだ小さなムーブメントでしかないが、こんな思いが熟年女性たちの心に生まれ始めているのは確か。いずれ「老後に備える熟女のたしなみ」として行動を起こす女性が増えていく可能性はある。

黒住紗織(くろずみ・さおり) 日経BPヒット総合研究所主任研究員。日経BP社ビズライフ局プロデューサー。サンケイリビング新聞社を経て、90年、日経BP社入社。『日経レストラン』『日経ベンチャー』などの記者を経て、2000年より『日経ヘルス』編集部。その後『日経ヘルスプルミエ』編集部 編集委員など。女性の健康、予防分野の中で、主に女性医療分野を中心に取材活動を行う。女性の健康とワーク・ライフ・バランス推進員
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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