残業した時間「ためて休む」 ドイツ先進職場の働き方労働生産性は日本の1.5倍

ドイツの1人当たりの平均年間労働時間は日本より350時間ほど短い。それなのに1時間当たりの労働生産性は日本のほぼ1.5倍という。いったいドイツの人たちはどんな働き方をしているのか。ここ一番という勝負どころではとことん働き成果をあげながら、休息をしっかり取る。そんな働き方が定着しているドイツの先進職場を訪れた。
繁忙期はとことん働き、家族との時間も大切にしている独ボッシュのバイヤーさん(写真左、フォイヤバッハ)

「残業で働いた時間は口座に貯蓄しておき、後で休暇として使います」。ドイツ南部のシュツットガルト中心部から車で北西に15分ほどにある独ボッシュのフォイヤバッハ工場。自動車部品などの顧客営業部門でプロジェクト・マネジャーとして働くダビット・バイヤーさん(38)は自らの働き方をこう説明する。

口座とは「労働時間貯蓄口座(ワーキング・タイム・アカウント)」を指す。残業や休日出勤など所定外の労働時間を従業員が社内口座に積み立て、後で有給休暇などに振り替えられる仕組み。残業代でもらう代わりに有給休暇に振り替え、繁忙期を避けて休む人が多い。ドイツでは従業員250人以上の事業所の約8割に普及し、デンマークなどにも広がっているという。

バイヤーさんは今は繁忙期で、普通に働いていても口座に労働時間がたまる。余裕のある時期になったら「娘たちと過ごしたり、長期休暇に充てたりする」という。休んでも「給料が減らないから安心して休める」。

管理職自ら率先して労働時間貯蓄制度を利用する独ボッシュ・フォイヤバッハ工場のローランド・ビューラー人事担当副部門長

口座に積み立てられる時間数や休暇に振り替えられる清算期間などは勤務先や雇用契約の内容によって違う。ボッシュのフォイヤバッハ工場では通常180時間まで貯蓄でき、「育児や介護のほか、資格を取る勉強や旅行などに充てる人がいる」とローランド・ビューラー人事担当副部門長は説明する。

とはいえ有給で休む権利をもらっても、実際に休めなければ働き損になってしまう。そうならないためにどんな工夫をしているのか。同社のIT(情報技術)システムを統括する女性シニア・マネジャー、シューレ・ドアンさん(36)は「フレックスタイムや在宅勤務などを皆が利用することが前提。時間や場所に縛られた従来の業務の進め方を見直すことが重要だ」と強調する。

管理職自らが率先して柔軟な働き方をする職場では「互いに気兼ねなく休めるし、多様な働き方が当たり前になる」と販売担当のボス・ミヒャリーナさん(38)は話す。

独ダイムラー本社では経営幹部を除き、ドイツ国内で働く約17万人の従業員が労働時間貯蓄口座を持つ。中でも、育児などで時間に制約のある働き方しかできない女性社員には、労働時間貯蓄制度はキャリアを諦めず幹部を目指す切り札になっている。

フレックスタイム勤務で仕事と育児を両立する独ダイムラーのヤーウスさん(写真右、シュツットガルト) 

シュツットガルトの本社で海外向けバンを商品化するプロジェクトのマネジャーとして働くウスレム・ヤーウスさん(34)は総合職だが「毎週金曜は休み」という。2012年に転職してきた当初はフルタイムで働いていたが、第2子を産み1年間の育児休業を経て3月に復職してからはフレックスと短時間勤務を組み合わせて週4日働く。残業することがあったとしても、フルタイムで働く人のように口座に労働時間がたまる。

ダイムラーでは「仕事で成果を上げたいし、育児もちゃんとやりたい」とヤーウスさんのように短時間勤務で働く女性社員は3割を超える。同社のチーフ・ダイバーシティー・オフィサー、ウルズラ・シュワルツェンバルトさんは「若い世代ではワークライフバランスを重視する男性が最近増えている」と柔軟な働き方を人材獲得策としてもさらに浸透させる方針だ。

経済協力開発機構(OECD)によると、ドイツの1人当たりの平均年間総実労働時間は1371時間と日本(1729時間)より350時間ほど短い。労働時間1時間当たりの生産性は60.2ドルと日本(41.3ドル)のほぼ1.5倍に相当する。米オンライン旅行会社の調査では、有給休暇の平均付与日数はドイツが30日、日本が20日。しかもドイツが全部取るのに対し、日本は12日の消化にとどまる。

日本では週40時間、1日に8時間を超えてはならないという労働時間の制限がある。労使合意に基づく届け出があれば残業を認められ、雇用主は割増賃金を支払う。今の制度でも残業時間を有給休暇に振り替えられる仕組みはあるが、月60時間を超えた場合に限られる。

慶応義塾大学の鶴光太郎教授は「より一般的な制度にすべきだ。労働時間貯蓄制度は働き方の柔軟性を高め、働く人たちが気兼ねせず自発的に有給休暇を取ることにつながる」と指摘している。(編集委員 阿部奈美)

労働時間貯蓄制度 職場で定めた労働時間と、残業時間を含め実際に働いた時間の差を勤務先の口座に積み立て、後から従業員が有給休暇などに振り替えて利用できる仕組み。不況下でもレイオフ(一時解雇)を避けながら生産調整できる点などが受け、1990年代後半にドイツの製造業で普及し始めた。
有給休暇などに振り替えられる清算期間や貯蓄できる労働時間は個別の企業や協約によって違う。1年以内に残高時間を清算する「短期口座」と数年単位の「長期口座」がある。月単位で清算する場合、その月に働いた時間が所定労働時間を下回っても、不足した労働時間が職場で定めた上限時間内なら翌月以降に繰り越して清算され、賃金を支払う。ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)の調べでは従業員250人以上の事業所の導入割合(2012年)は80%に達した。
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