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地銀から地銀へ「転勤」 人材バンク活用、離職に歯止め 全国64行が連携

2015/12/5

配偶者の転勤や結婚などに伴う転居による離職を減らそうと、全国の地方銀行トップが立ち上がった。全国64行で組織する「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」が4月に創設した「地銀人材バンク」は、転居先の地銀を紹介し、キャリア継続を支援する制度だ。

「退職か別居生活か」。支店網が限られる地銀で働く女性は転居の際に二者択一を迫られてきた。地銀人材バンクはこんな悩みに応えるためにできた。参加行の人事担当者が名簿を共有。本人が希望すれば転居先の地銀の人事担当者につなぎ、他行で働き続けられる。

転居先の地銀への採用が決まれば、地元の銀行をいったん退職、受け入れ先には中途採用枠で入社する。再び地元に戻れば、再雇用の形で職場復帰もできる。

受け入れ側にもメリットがある。銀行員には融資業務や専門の資格など特有のスキルが多い。「即戦力」は歓迎だ。地銀人材バンクで事務局を務める千葉銀行ダイバーシティ推進部の山本悠介さん(38)は「優秀な人材を埋もれさせることがなくなる」と話す。

11月末時点で44人が手を挙げた。このうち25人は実際に就職が決まり、15件が転居先の地銀に紹介中だ(残る4件は本人が辞退)。これまでの利用者はすべて女性だが、男性も使える。事務局は今後、夫が妻の転勤に同行したり、介護による転居で利用したりする例も増えるとみている。

全国に拠点のある企業には、配偶者の転勤に同行するために異動希望を申請できる制度を整えたところがある。だが地銀のように、全国に拠点を持たない企業が同業他社と連携して職場を融通しあう取り組みは珍しい。同様の問題に悩む中小企業や地域内で展開する企業などのヒントになりそうだ。

■「家族で子育て」山梨へ集合

本店の窓口で外国為替の送金などを担当する山田真由美さん(横浜銀行→山梨中央銀行)

山梨中央銀行本店営業部で働く山田真由美さん(32)は転勤で離ればなれになった夫と再び一緒に暮らすために、地銀人材バンクを使った。

横浜銀行に勤めていた2012年に結婚。13年に子供が生まれたものの、わずか半年あまりで全国に拠点を持つメーカー勤務の夫が山形県へ転勤になった。生後数カ月の我が子と離れ、単身赴任した夫は「家族で一緒に暮らし、子育てに関わりたい」との思いを強めたという。

夫は転職を決意。山田さんが子育てしながら仕事を続けることを考え、実家があって子育て支援を得やすい山梨県の企業に狙いを定めた。転勤から1年後に転職できた夫の後を追って、山田さんは浜銀を退職。山梨県で職探しを始めた。

子供を保育園に預けての転職活動は難航した。期限内に決まらないと保育園の退所を迫られる。ハローワークでは「時短勤務で正社員」という条件が足かせとなった。

そんな折に人材バンクが始動した。浜銀の人事を通じて山梨中銀を紹介され、7月末に採用が決まった。今は外貨の送金や両替などを担当する外国為替課で働いている。上司の雨宮尚記課長(55)は「経験豊富で仕事に取り組む意欲も高い。チームにとってかけがえのない戦力」と話す。

今、資格取得のため仕事の後や休日返上で勉強中だ。「家族が応援してくれている。長く働きたい」と意欲に燃える。

■ブランク克服、店頭の第一線に

先輩行員からアドバイスを受ける妻鳥尊誉(めんどり・たかよ)さん(中国銀行→千葉銀行)

「結婚や夫の転勤で泣く泣く仕事を辞めた先輩をたくさん見てきた。働き続けられるのはありがたい」。千葉銀行稲毛支店の妻鳥尊誉(めんどり・たかよ)さん(30)は感慨深げだ。

千葉銀で働き始めたのは10月から。3月まで岡山県の中国銀行で、資産運用などの相談に応じる業務に携わってきた。昨年9月に千葉県に住む男性と結婚。7年勤めた中国銀の退職を決めた。最後の出社日に上司が「転居後も働き続けるつもりがあるなら」と勧めたのが人材バンクだった。

もう一度働きたいと思ったきっかけは岡山に帰省し、中国銀で親しくしていた先輩と会ったことだ。「時には仕事の愚痴をこぼすこともあるけど、楽しかった」

仕事を辞めたのはもったいない。あの充実感を味わいたい。夫に気持ちを伝えると「体に気をつけて頑張って」と応援してくれた。8月に、人材バンクに紹介された千葉銀の面接を受け、9月末に内定。10月1日から同行の正社員になった。

退職して半年のブランクがあり、当初は戸惑いもあったが、いざ働き始めると不安は薄れた。「やり方は多少違うけれど基本的な業務は共通していて経験を生かせる」

千葉銀にとっても即戦力をとれたのは大きい。上司の鳥海浩幸支店長(53)は「これまでの経験を生かし、今後も店頭の第一線で活躍してほしい」と期待する。

■頻繁な転勤、問い直すべき

法政大学キャリアデザイン学部の武石恵美子教授の話

女性の就業が増えるのに従い、転勤に伴う問題も増える。地銀人材バンクのように業務内容が似通っている同業者が企業の垣根を越えて人材を紹介しあうのは一つの解決策だ。地方のスーパーなどほかの業種でも展開できるのではないか。

ただこの制度を使っても、配偶者の転勤のたびに勤め先を変えなければならなくなる可能性は残る。転勤が前提の日本企業の人事制度が変わらなければ、本質的な問題解決にはならない。人材育成や不正防止の面から一定の転勤を必要とみている企業は多い。ただ部署間の異動などでも対処できる可能性はある。人材管理における転勤の有効性が問い直されるべきだ。

企業が職場のダイバーシティー(多様性)を進めるには男女に関わりなく転勤の人数や頻度、期間を限定する、個人の希望・事情を反映するなどの見直しは避けられない。

(浜美佐)

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