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相続トラブル百科

老老相続時代 認知症で遺産分割の現場が混乱 司法書士 川原田慶太

2015/12/4

 高齢者が亡くなり、その故人の遺産を同じく高齢の相続人が引き継ぐ――。現代の日本では、このような「老老相続」が珍しくなくなってきました。それに伴い、老老相続に典型的なトラブルも増加してきているように感じます。

 最も目立つのは、認知症など意思能力の問題に関連するものでしょう。認知症を発病する最大の危険因子として「加齢」があげられていることは、厚生労働省の調査などでもよく知られているところです。とりわけ故人が80代、90代以上となってくると、配偶者も同じくらいの年齢になっており、認知症の有病率が目立ってきます。亡くなる人が高齢化すればするほど、相続人の認知症リスクも増加するという比例関係です。

 認知症などで意思表示ができない状態の人がいると、一般的な相続とは異なってきます。遺産を残す本人、あるいは遺産を受け取る相続人、どちらの立場でもそれぞれ問題が生じます。

 まず、遺産を残す本人が認知症の場合、生前に将来の遺産分けの道筋をつけることが非常に難しくなります。遺言書を作成したり、贈与や信託などの契約を行うことが、「本人の意思が確認できない」ことを理由にストップしてしまうためです。

 財産管理についても問題が生じます。本人が自分自身では管理できなくなり、誰かが代わって「財布のひもを握る」という状態になります。それが成年後見人であれ、親族であれ、管理が不透明であれば、財産の「使い込み」疑惑というトラブルに発展することがあります。

 遺産を受け取る相続人が認知症の場合も、意思が表示できないならば、手続きができません。話し合いによって遺産分けを決めようとしても、肝心の話し合いができる状態ではないとみなされるためです。

 そこで、代わりに協議に参加して、財産を継続して管理する立場の人が必要になります。成年後見人です。そのためには、後見人を家庭裁判所で選んでもらう必要があります。

 後見人がいれば手続き自体はできるのですが、実際の現場では、スムーズにいかないケースも少なくありません。そもそも、現行の後見人制度はかなり「ディフェンシブ」で、財産を減らさないことに主眼を置いたものです。遺産分けの際に、融通を利かせた柔軟な分け方をするには、不都合な部分もあるのです。

 例えば具体的に、「高齢の母親よりも、息子のほうに多めに相続させたい」という家庭があったとしましょう。通常のケースであれば、みんなが納得さえすれば、遺産分割を進められます。

 しかし、高齢の母親の意思能力が弱まっていて、後見人がついている状態だと、話は簡単ではありません。裁判所から選任された客観的な「第三者」ですから、原則として、他の家族の事情を優先する立場にはいないのです。意思が表示できない人の利益を、きっちりルール通りに守るのが一番の仕事なのです。

 ですから、その家庭ごとの様々な事情にかかわらず、後見人はまず、本人のために法律で定められた相続権を確保しなければなりません。いくら他の家族が、「たぶん本人も意思表示さえできていれば、この分割内容にOKしていたと思う」と主張しても、頑として「NO」と言わなければなりません。

 「老老相続」の増加は、そのまま「認知症相続」の増加に直結します。相続当事者が高齢化していくなかで、認知症の問題は避けては通れないのです。当事者の意思能力が衰えてしまうと、遺言書の作成も、生前贈与や信託も、柔軟な遺産分けも、現行の制度では十分に対応できません。

 そうなると、子や孫の世代が高齢者世代からストックを受け継ぎ、それを使うことで社会に還元するという機能がうまく働かない可能性が高まります。相続の制度設計上の問題は、身近なトラブルの原因となるだけではありません。「世代間の資産移転を進める」という国の方針にも逆行しかねないものだといえるでしょう。

川原田慶太(かわらだ・けいた) 2001年3月に京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験に合格し、02年10月「かわらだ司法書士事務所」を開設。05年5月から「司法書士法人おおさか法務事務所」代表社員。司法書士・宅地建物取引主任者として資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数務める。

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厚生労働省相続高齢者遺産

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