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地上に生まれた最初の生命 他の星に生命体の可能性

日経ナショナル ジオグラフィック社

2015/12/20

 「太陽の120億倍、説明不能なブラックホール発見」「あり得ないほど塵の多い初期銀河を発見」など、宇宙の話題はいつもニュースをにぎわせてくれます。地動説や宇宙の膨張、ダークマターなど、大きな発見があると宇宙観まで覆されます。そんな宇宙に関する大発見について、「どうやって発見されたのか」「なぜその発見が重要なのか」を詳しく解説します。

テーマ:地球上に生命が誕生するきっかけを作った、シンプルな構造の生命体と有機化学物質。

最初の発見:1950年代以降、生命は温暖な浅い海から生まれたとする発想をヒントに、天体それぞれに、ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)があると考えられるようになった。

画期的な発見:1970年代以降にさまざまな発見が相次ぎ、ハビタブルゾーンという考え方は時代遅れになった。

何が重要か:生命の起源を調べれば、他の星に生命体がいる可能性を予測できる。

極限環境微生物を発見してからというもの、生命が存続できる条件に関する考え方がここ数十年で、がらりと変わった。たとえば、このスルホロブス・アシドカルダリウス(超好熱好酸性古細菌)は、高温や極端な酸性環境の中でも生き残ることができる。(Dr. Terry Beveridge, Visuals Unlimited /Science Photo Library)

 化石を調べると、地球上に生命が誕生したのは今から36億年以上前にまでさかのぼることがわかる。しかし、動物や植物といった複合生物が現れたのはほんの6億年ほど前だ。原初の生命体は、シンプルな構造の単細胞生物で、あまりにも小さく繊細であったため、存在していた痕跡は化石にかろうじて残されているだけだ。それも、化石そのものに刻印されているのではなく、微量の元素として検出されるだけだ。

 そのうえ、地球は誕生の過程で地殻変動や化学反応のサイクルを繰り返しているため、原初からまったく形を変えていない岩などほぼ存在しない。(特にオーストラリアを中心に)発見された原始生命体の痕跡を見ると、地球最初の生命体は、微生物マット、つまり、単純構造の有機体が日当たりの良い浅瀬から大量に発生し、層を成していたことが示されていた。古い世代の死骸の上に砂や沈殿した土や泥が積もり、新しく生まれた世代がその上で繁殖した。長い年月をかけてこれを繰り返していくうちに、ストロマトライトという層状の岩石の柱が作られていった。今でも世界各地でこうした不思議な有機体の生きた標本を見ることができる。最も有名なものは西オーストラリア州のシャーク湾にある。

■原初の地球環境をシミュレート

 ストロマトライト化石は、最初の生命は温暖な浅い海から生まれたという古くからの定説を裏づけているように見える。1952年にはすでに米国の微生物学者スタンリー・ミラーと、ハロルド・ユーリーが原初の地球環境をシミュレートする室内実験で、たんぱく質の構成成分となるアミノ酸に代表される有機化学物質を作り出すことに成功している。生命がこうした環境で進化した、という考え方にヒントを得た初期の研究者たちは、地球以外の天体にも生命がいる可能性について考えるようになった。相応の大きさの惑星で十分な量の大気と水を表面に保てるほどの気温がある領域、名付けて「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」、または(英国の童話で暑すぎず、寒過ぎない居場所を求めた少女ゴルディロックスの名にちなんで)「ゴルディロックスゾーン」という概念がこのときに登場した。

 ハビタブルゾーンの欠点として多くの人々が共通して指摘するのは、宇宙のあらゆる生命体が地球と同じ過程をたどって誕生すると考えるため、多少なりとも地球に近い環境でなければ生命体が出現しないと想定している点だ。現実の生化学はこれほど都合よくははこばない。制約の多いこの推論は見た目ほど万能ではなかった。たとえば生命に不可欠な複合分子、二酸化炭素を作れるのは炭素だけだし、有機化合反応を起こしやすくする理想的な溶媒は水しか考えられない。

 批判の中で最も説得力のあったのは、単にこれが時代遅れだという意見だ。太陽系の随所で行われた探査活動から、太陽からはるか離れた場所に、液体の形で大量の水が存在していることがわかってきた。さらに1970年代後半以降の地球上の発見からは、海底火山の火口や極端な酸性やアルカリ性の中、高温の地下岩石層のような明らかに過酷な場所でも、極限環境微生物は生き延びられることがわかった。いまや生物学者の中には、浅い海水よりも海底火山の火口周辺のほうが、原初細胞が誕生するのに適した環境だと信じる者もいるほどだ。もしこれが地球について当てはまるのだとしたら、この条件を他の惑星に当てはめても差し支えはないはずだ。

■生命は宇宙から?

 地球生命の起源がどんな環境であったにせよ、繁殖と自然淘汰、というメカニズムがはたらき出すまでには、途方もなく長い複雑化のプロセスを重ねなければならなかったはずだ。ユーリー・ミラー実験で再現したように、混沌とした巨大の水溜りの中で単純な化学物質から、どんな下等動物にも存在する高度な組織、たんぱく質やDNAなどが作られたり、分解される循環が起こらなくてはならない。だから、最初の単細胞の生命体がひょっこり誕生するまで数十億年はかかったはずだ、と考える科学者もいた。ところが化石を見ると、地表環境が整うと同時に最初の生命が誕生したことが示されていたのである。

米国ワイオミング州のイエローストーン国立公園にある間欠泉周辺。見るからに生存に適さないこのような環境にも、極限環境微生物が数種類繁殖していることが科学調査からわかった。(fotokik_dot_com/Shutterstock)

 この明らかな矛盾から、なぜこれほどまでに早い時期に最初の生命が誕生できたのかを説明する数々の理論が生まれた。たまたま運が良かったとする説もあれば、生命の構成要素をいとも簡単に生み出す試行錯誤のプロセスができ上がるまでのいきさつを述べる説もあった。ごく一般的な進化論的アプローチにあくまでもこだわる科学者たちもいる。原初の生命体の急速な進化を助けられるような、ダーウィンの自然淘汰説を超えるほどの原理があるのにまだ発見されていないのではないか、というのが彼らの主張だ。

 さらには、宇宙から「スターター(初心者用)キット」一式が届いて地球上の生命が活動し始めた、という説を信じる者たちもいた。パンスペルミア説と呼ばれるこの理論では、生命の基本構成要素、つまり、複雑な有機化合物や、ことによっては細胞そのものが宇宙に広く散在していて、それが彗星(すいせい)や隕石の内部で超凍結状態のまま宇宙から運ばれているのだと説いている。こうした生命の基本構成要素が幸運にも地表に着陸して、その土地が幸運にも生命維持可能な環境だと判断できたら、そこで生命活動を始められるのだという。

 パンスペルミア説が最初に登場したのは19世紀のころにまでさかのぼるが、これが科学的理論として扱われるようになったのは1970年代になってからだ。英国の天文学者フレッド・ホイルとスリランカ出身のホイルの研究仲間チャンドラ・ヴィクラマシンらがこの説を最初に提唱した。化石になった生命体がそのまま隕石の内部に潜んでいるという主張はたいがい相手にされなかったが、新しい可能性を示唆する一連の証拠がこのあとにいくつも明らかになった。この説はまだ裏づけられてはいないが、まったくあり得ないこととは言い切れない。

 現在では、巨大な隕石が衝突すると必ず、惑星の表面から飛び出した物質の塊が惑星間の宇宙空間に放出されることは、よく知られている。さらには、驚くほど長時間宇宙空間にさらされ、場合によっては岩石層などに守られなくても生き延びるさまざまな種類の生物がいることもわかっている。彗星の中には、星間空間を長時間旅して、太陽系のファミリーのメンバーである惑星をすり抜けているものもあることも、その軌道からわかっている。最も見過ごせない出来事は、遠方の星雲に存在することが確認された有機化合物のかけらが隕石の中から発見されたことだ。NASAのゴッダード宇宙飛行センターのマイケル・キャラハンらは2011年に、炭素質隕石の試料の中からDNAの構成要素をいくつも発見している。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック『ビジュアル大宇宙[下] 太陽系の謎に挑んだ47の発見』を再構成]

(参考)ナショナル ジオグラフィック『ビジュアル大宇宙[下] 太陽系の謎に挑んだ47の発見』は幅広い宇宙論の中でも、特に近年新たな発見が相次ぐ太陽系にフォーカス。金星の火山活動、土星の環が生成された経緯をはじめ、惑星を周回する特異な衛星にも焦点を当てながら、太陽系の惑星の歴史的な解明・各分野の最先端の理論や成果までくまなく紹介する。

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