着物でまとう非日常 若者、気軽に「コスプレ」
11月下旬の休日、東京・浅草。都内の会社員、揖斐(いび)ゆず子さん(26)と石川菜摘さん(29)は、着物姿で浅草寺や仲見世通りなどを巡り浅草観光を楽しんでいた。
「着物には普段と違う特別感がある。日本文化を味わっている実感もある」と揖斐さん。石川さんは「かわいい柄もあり、着るのが楽しい」。
レンタル利用、1.5倍
2人は着物販売の「やまと」(東京・渋谷)の駅前レンタルを利用した。料金は5千円で「持ち帰り可」が特徴。合成繊維の素材などでコストを抑えた。同サービスの今年1~11月の利用は全国で約2100件と前年通年の約1.5倍だ。観光地の着物レンタルはかねて京都市で人気だが、広がりを見せている。レンタルは着物人口を増やし、市場の裾野拡大につながる。
手ごろな価格の着物は小売りも好調だ。全国各地で木綿展を開く「染織こだま」(宮崎市)では木綿や麻など太物の販売枚数が5年前の約1.5倍に増加。1着3万~5万円と絹の中心価格帯(20万~30万円)より安い。宮崎市の汐口あゆみさん(29)は「着物は帯や襟の組み合わせを楽しめる。太物は普段着として気軽に着れるので良い」。
リサイクル着物大手の東京山喜(東京・江戸川)でも、販売点数(帯など含む)が年約60万点と5年前の約1.5倍。1着1千~10万円と安い上、「着物がファッショナブルだと思う人が増えている。若者や外国人の購入が目立ってきた」(中村健一社長)。
矢野経済研究所によると国内の呉服小売金額(レンタル除く)は2014年に2855億円。主流の絹着物の減少が響いて1970年代半ばの6分の1だが、近年は縮小ペースが緩やかで、業界では底打ち期待が増している。
近年、「和食」の世界遺産登録など世界的に和文化の評価は高く、日本人の意識も変化している。業界関係者が12年から続けるイベント「きものサローネin日本橋」には今年、延べ約1万2千人(前年は約7千人)が参加。着物姿を条件にした料金割引などの特典も用意し、主催者も工夫を凝らしている。業界では日本和装ホールディングスなどが男性着物専門店を出店、やまとは性別に関係なく着用できる着物の専門店も開業。需要喚起の動きも活発だ。
和装の広がりについて文化学園大の近藤尚子・和装文化研究所長は「コスプレの浸透も大きい。コスプレ感覚で非日常の和装を楽しむ若い人が増えている」と分析する。文化学園大は18年度に和装関連科目を新設する予定だ。
モダンな新顔登場
京都女子大の青木美保子准教授(服飾史)は「洋装化が始まる明治維新後も、着物は日常着だった。しかし戦時中にもんぺが主流になり、戦後に一気に洋装化が進んだ」と説明する。70年代にかけて高級着物ブームが起きるが洋装化の流れに逆らえなかった。
その後90年代後半に浴衣ブーム、2000年代初頭にはアンティーク着物(リサイクル着物)ブームが起きた。今は「特別感」がキーワード。「新品でもリサイクルでも"みんなと違う"デザインの着物に人気が集まっている」と青木准教授は話す。
素材でも新しい変化が起きている。デニム着物で知られる着物製造の三才(京都市)はジャージー着物の新作を投入し、フード付きなど斬新な新作を出し続けている。
武蔵大の丸山伸彦教授(服飾史)は「江戸時代は着物の文様で遊び、モード(最先端の流行)を確立していた」と指摘する。平成時代の若者を巻き込んで着物市場の厚みが増せば、現代のモードとしてさらに着物の人気が高まる可能性がある。
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リサイクルで手ごろに 組み合わせの妙、楽しむ
ツイッターでは、着物人気の広がりに関する書き込みが目立った。「街中でも着物姿の女性を見掛ける機会が多くなりましたね。初めて着たよ!という人も雰囲気のある着こなしをしています」との声があった。着物ブームについては「着物ブーム再来しないかなぁああ」「着物ブームくるで」とつぶやかれていた。
リサイクル着物の人気が高く、「手ごろなリサイクル着物店見つけたから今度時間ある時に見にいく」「最近お着物に心奪われすぎてる!毎日リサイクル着物の通販サイトとかおしゃれブログみてる」といった声があった。
また、「帯揚げひとつで全然変わっちゃう」「帯締めと帯揚げを変えたら、手持ちの古くさい帯が生まれ変わった」といった反応もあり、着物のファッション性が訴えられていた。調査はホットリンクの協力を得た。
(福士譲)
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