「時そば」に地元出身、畠山選手も登場 岩手で落語会立川談笑

この日曜日(11月29日)、桂ざこば師匠、柳家権太楼師匠という東西の重鎮がそろう豪華な落語会に出演してきました。場所は岩手県花巻市。今年は私にとって岩手県のあたり年で、二戸、盛岡、花巻と、落語の仕事だけで3度もうかがったのです。今回は、その日の様子と岩手県について話をします。

新花巻駅で新幹線を降りたのがちょうどお昼頃。この日は快晴で、空が広くて明るい。それでもそこは東北。風が冷たい。タクシーに分乗して会場に向かいます。車中ではさっそく運転手さんを相手に、地元情報の聞き込み調査を試みました。

高座を前に控室で準備する落語家の立川談笑さん。気合を入れる

むむ、む。手ごわい。ご年配の運転手さんの言葉が地元すぎてほとんど聞き取れません。「秀吉にだまされて裏切り者が出たんだけど最後には殺された」。なんのこっちゃ……? あ、そうか。天下統一の最後の1ピースは奥州だったんだ。さらに歴史をさかのぼると奥州藤原氏。平泉。金色堂。世界遺産! 奥深いぞ、岩手県。

楽屋に入って、出番までまだ2時間もあります。この会のタイトルは「ぎんどろ落語会」。ちょっと独特です。ホール内をうろうろしていて何の気なしに受付係のお姉さま方に名称の理由を尋ねました。返って来た答えが「目の前が『ぎんどろ公園』だから」。わはは。まるで疑問は解けません。さらに質問。「その『ぎんどろ』って何ですか?」。と、この答えを聞いて驚いた。

「木の名前ですよ。ほら、宮沢賢治さんが大好きだったぎんどろの木が今もあって、それにちなんだそうです」

岩手といえば宮沢賢治。そうだった。促されて見上げればロビーの壁には巨大な宮沢賢治の肖像が。というのも、この花巻市文化会館は賢治が教鞭(きょうべん)を取った農学校の、まさにその跡地に建てられているんだと。聖地じゃないか。衝撃!

どっどど、どどうど、どどうど、どどう。青いくるみも吹きとばせ。すっぱいかりんも吹きとばせ。どっどど、どどうど、どどうど、どどう。

風の又三郎を口ずさみながら今度は公園に向かおうと楽屋口を出ると、いきなりお客様に声を掛けられました。東京かわら版が出版している落語家名鑑にサインがほしいとのことでした。「なんなら談志のサインも書きますよ~」なんて軽口をたたきつつ、しばし立ち話。そのお客様は岩手県内でもちょっと遠方から足を延ばしてのお越しだそうで、今年の二戸・盛岡にもいらっしゃったとのことでした。

ふむ。それならば今日は『金明竹』は、なしにしよう。東北地方では必殺の『金明竹』が私にはあって、青森の津軽弁がたっぷり登場する落語です。これは東北の、しかも北に行けば行くほどウケるネタで、なんなら客席の2人や3人は呼吸困難で緊急搬送されそうなくらいに爆笑間違いなしの鉄板中の鉄板なのです。それでも1年に何回もお聴かせするのは心苦しい。

それじゃあ替わりに何を演(や)ろうかと頭を巡らせながら、そのままご当地リサーチに突入。いやあ、驚きました。岩手県は、東北6県で唯一総理大臣を輩出している県なんですって。しかも4人も。これはすごい。原敬、斎藤実、米内光政、鈴木善幸。都道府県別で調べると、山口県、東京都に次ぐ堂々第3位。総理を輩出したことがない県が全国に18もあることを考えると、4人という数字は驚異的です。

そして人材輩出ということでは、プロ野球界でも岩手県出身として豪華な面々が名を連ねます。現役選手だけでも大谷翔平、菊池雄星、銀次。そして、畠山和洋! この花巻がまさに畠山選手が生まれ育った町だと聞かされて、興奮は最高潮です。私が家族ぐるみで応援している選手のもろに地元だったのです! 過去2年連続最下位だった東京ヤクルトスワローズにあって、今季は4番としてリーグ打点王の大活躍。ゴールデングラブ賞や初のベストナインにも選ばれて、チームはリーグ優勝。あっぱれあっぱれ! 我が家には畠山選手のサイン色紙が飾ってあります。

いよいよ出番になりました。高座に上がってのマクラでは、たっぷり仕込んでおいた岩手県地元トークで大盛り上がりです。とても明るいお客様でこっちもノリノリ。とりわけ畠山選手の話題になると、もう大喝采でした。さすがは地元。そのまま古典落語『時そば』へ。落語の中で畠山選手の名前を出すとまたまた客席は大拍手。温かい故郷があってうらやましいなあ。

思えば二つ目になりたての頃。師匠談志と冬の北上市を訪れたことがあります。あまりに観客が爆笑するので、驚いた談志が「こいつ何やってるんだ?」と舞台袖まで見に来たことは私の自慢です。もちろん演目は『金明竹』でした。

また、震災の1カ月後にテレビの取材で向かったのは、山田町。着物と出囃子(でばやし)CDをかばんに詰めて。取材の合間、避難所になっている高校の体育館では即席の落語会を開きました。自衛隊の車両がひしめく校庭で桜の花が一面にほころび始める光景が今も目に焼きついています。

今度はゆっくり温泉にでもつかりに行きたいなあ。

(次回は12月16日の更新予定)

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>都内での独演会は年内が12月5日、新年はゲストも参加する「新春談笑ショー」1月12日に開かれる。吉笑(二ツ目)、笑二(同)、笑坊(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は12月25日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/
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