アニメキャラvs.三太郎 激烈な携帯CMの舞台裏
日経エンタテインメント!
CM界の最強ブランドといえば、ソフトバンクの「白戸家」シリーズ。2007年の誕生以来、不条理な面白さと親しみやすさでお茶の間を席巻してきた。
「もともとは『ホワイト家族』という家族割料金プランを訴求するために生まれたシリーズでした」と話すのは、ソフトバンク宣伝統括部の内池大輔統括部長。お父さんは犬、お兄さんは黒人という"予想外の家族"が人気を博してきた理由について、内池氏はまず「家族全員のキャラクターが立っていること」を挙げる。特に犬のお父さんが「弊社を象徴するアイコンとして世間に受け入れられたことは大きい」。また、視聴者を飽きさせないための手練手管も成功要因だ。
「我々は『白戸家』という枠組みの中で、さまざまなシリーズ展開を行ってきました。古くは2010年の選挙シリーズや、年ごとに内容を変更している学割シリーズ、最近では『旅するお父さん』のシリーズなどです。そして、ひとつのシリーズを複数作品にて表現することで、視聴者の方々にストーリーや展開を楽しんでいただけるよう工夫してきました」
その上で、「旬なキャスティング」に力を入れてきたと内池氏。「ブレイク前の若手俳優の方を起用するだけではなく、味のある演技をしていただけるベテランの方にも出演いただくことで、CMの『話題化』と『面白さ』の両面を追求し続けています」
こうして白戸家は、CM好感度調査(CM総合研究所が発表)で8年連続1位の記録を打ち立てた。
三太郎でマインドシェア
そんな白戸家の牙城を切り崩しにかかったのが、ライバルのau。日本人なら誰もが知っている桃太郎、浦島太郎、金太郎は実は友達だった…という「三太郎」シリーズを2015年元旦からスタート。その斬新な設定とコミカルな掛け合いがウケ、大反響を巻き起こした。
白戸家と三太郎、2つのCMで大きく異なるのは、訴求構造だ。白戸家は劇中の会話で料金プランや商品について訴求してきたが、三太郎たちは商品情報を語らない。
「昔話の人たちなので、ケータイを持ってないし、電波もない。だから話せないんです」と笑うのは、三太郎シリーズの生みの親である電通のクリエイティブディレクター・篠原誠氏。
会話に情報を盛り込めない代わりに用いてきたのが「キャッチコピー落とし」(篠原氏)という手法だ。たとえば、桃太郎が桃から生まれたことを話す場面で、「パッカーン」という言葉をリピート。それにかけて、ラストで「おもいっきり割ります。auの学割」というコピーに着地させる。
この手法は、ドラマや掛け合いを長く見せられ、エンタテインメント性が高くなる一方、サービス説明に時間を割けないというデメリットがある。しかしそこを踏まえての、「(ブランド名を印象付ける)マインドシェアを取りにいきましょう、という戦略提案でもありました」と篠原氏。
「それまでは、商品の情報や他社との差別化ポイントを伝えることがCMの役割でしたが、今の消費者は、大手3社ならだいたい料金もサービスも横並びじゃないかと感じている。そんななかでauを選んでもらうには、『なんとなく、auがいい』という『なんとなく』の部分が大事になると思うんです。それが、どのくらい消費者が好感を持ち、心を占めているかという『マインドシェア』。それを取りにいった方が"効くCM"になるのではないか、という提案でした」
この戦略も奏功し、三太郎シリーズは2015年のCM好感度調査で毎月1位を独走する大ヒット作に。
そこで三太郎を挑発にかかったのがソフトバンク。5月放送の白戸家「岡山篇」で、おばあさんが流れる桃を取り損ね、鬼に割られるという、当てつけとも取れるCMを放送したのだ。篠原氏はこれを「ラッキーだった」と振り返る。
「あのCMを見た人は、ソフトバンクのCMを見てるのに、auのCMを想起しますよね? それに、ソフトバンクがチャレンジャーで、auの方が上に見える(笑)。だからクライアントには、『ラッキーです。(挑発に応じず)スルーでいきましょう』と話しました」
最強アニメキャラで対抗
王者・ソフトバンクが反撃に本腰を入れたのは、10月だ。昔話の英雄に対抗するかのように、国民的アニメのヒーローたちを大集結。新たなCMシリーズ「MOON RIBAR」をスタートさせた。
「もっと多くの人にスマートフォン(スマホ)を楽しんでいただきたい、との思いから、『スマホたのしい』という言葉をキーコピーに、コミュニケーションを展開していきます」とは前出のソフトバンク・内池氏。企画性とともに注目を集めたのが、キャスティングだ。
バー「MOON RIBAR」のママで、元『美少女戦士セーラームーン』には小泉今日子。バーでアルバイトをしている元『ちびまる子ちゃん』に広瀬すず。『あしたのジョー』として燃え尽き、今は小説家という役どころに、又吉直樹。ほかにも、元『鉄腕アトム』に堺雅人、元ケンシロウ(『北斗の拳』)に市川海老蔵が扮するなど、旬を織り込んだ豪華な配役は、まさにソフトバンクの面目躍如。
大人になった人気キャラクターたちは、三太郎を超えられるか?
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2015年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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