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モーツァルトの名曲、新発見の自筆譜で演奏

2015/11/28

 第3楽章の「トルコ行進曲」で有名なモーツァルトの「ピアノソナタ第11番」の自筆譜が昨年、ハンガリーで発見された。モーツァルトの研究者でピアニストの久元祐子氏は11月、従来譜と新発見の自筆譜の弾き比べを披露した。新たなトルコ行進曲付ソナタの魅力を探った。

 モーツァルトのピアノソナタは第1番から第18番まである。トルコ行進曲付きの「11番」は1783年ころ、モーツァルトが20代後半に書いたといわれる。全3楽章から構成され、「トルコ行進曲」はその最後の第3楽章を成す。演奏頻度の高い作品でありながら、モーツァルトの自筆譜はトルコ行進曲の後半の部分しか知られていなかった。

 昨年9月、ハンガリー国立セーチェーニ図書館で発見されたのは第1、第2楽章の自筆譜。この発見によって従来の出版譜との差異が明らかになった。両楽章合わせて6カ所以上の違いがあるという。実は第3楽章「トルコ行進曲」にはもともと大半の自筆譜があるため差異はない。

 久元氏は11月18日、この2種類の楽譜を弾き比べる演奏会を開いた。会場のベーゼンドルファー東京(東京都中野区)には、現代仕様の「ベーゼンドルファー290インペリアル」に加え、久元氏が所有するシュタイン(1788年)とワルター(1795年)の復元モデルの計3種類のピアノが並んだ。「シュタインとワルターはモーツァルトが生きた18世紀の仕様。ピアノの技術が変化する時代に活躍した作曲家だから、当時の複数のピアノで弾く意義がある」と久元氏は話す。弾き比べでは主にシュタインを使った。

 自筆譜と従来の出版譜との違いが生じた背景には、当時の楽譜出版社が自筆譜の不明瞭な点を独自に判断して印刷した部分があるためのようだ。モーツァルトが印刷譜を自筆譜と照らし合わせて改訂することもないまま、後世に印刷譜が伝わったという。

 モーツァルトはトルコ趣味の作曲家でもある。オペラ「後宮からの逃走」はオスマン・トルコ帝国のハレム(後宮)が舞台だ。「トルコ行進曲」には「『後宮からの逃走』の音楽を連想させる曲調がある」(久元氏)。ほかに「バイオリン協奏曲第5番」にも「トルコ風」という副題が付いている。

 18世紀のオーストリア・ハプスブルク帝国にとって、イスラム教のオスマン・トルコは異質で脅威の隣国だった。それだけに「人々の興味もかき立て、当時のウィーンではトルコ音楽が流行していた」(同)。欧州じゅうを演奏旅行したモーツァルトもトルコには行っていない。トルコの異国情緒は作曲家を刺激したに違いない。シリア内戦が続くなか、トルコ経由で欧州を目指す難民が後を絶たない。トルコに少しだけ近いハンガリーで自筆譜が発見されたのも興味深い。国や宗教の違いを超えるモーツァルトの自由な感性を聴きたい。(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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