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「娘が欲しい」、薄れる家意識 跡継ぎより話し相手

2015/11/29

 娘を望む人が増えている。家の跡継ぎとなる息子を希望した「父系社会」が崩れるなか、娘を中心とした「娘社会」ともいえる現象が少しずつ現れている。

■ここ数年で顕著に

 「今日も午前中だけで2人来ましたよ。女の子を産みたいって人が」。20年以上産み分け相談にのっている神田第二クリニック(東京・港)の間壁さよ子院長は変化を感じている。「昔はお金持ちや名家の人が男の子がほしいと訪ねてきたが、今は普通の人が女の子がほしいと来る。この5~6年で特に顕著になった」。同院では排卵日測定などによる産み分けを指導しているが「確率論にすぎず絶対じゃない。そう説明してもやめる人はいない」という。

 完全な産み分けに踏み込む人も出てきている。都内に住む30代会社員の女性は今年6月、待望の女児を出産した。その方法は従来と全く異なる。体外受精で受精卵を複数つくり凍結して米国へ送る。染色体で性別を判定する着床前診断を受け、女児の受精卵を子宮に戻して出産した。総費用は約300万円。「上は男の子が2人。ゆっくり話ができる女の子もほしかった」

 着床前診断について厚生労働省は「個人の生命に関わる難しい問題」との立場で、日本では禁じる法律はない。一方、日本産科婦人科学会は命の選別につながるとして重い遺伝病など一部を除き認めていない。受精卵を海外に送ることは、いわば抜け道ともいえる。2年前に業務を始めた日本の代理店を通じて、90人が米国で診断を受けた。担当者によると「月に70件くらい産み分けの問い合わせがあり、その9割が女の子希望」という。

 なぜ娘なのか。相模女子大学の中西泰子准教授(家族社会学)は「家意識が薄れ、跡取りとしての子育てから楽しむための子育てに変化したことが影響している」とみる。娘を望む母親には「一緒に買い物などを楽しめる」という人は多い。晩産化が進み「1人しか産まないなら話し相手になる女の子」という声もある。実家を頼れず孤立した育児環境で、男の子の育て方に悩む母親もいるようだ。

■介護への期待も

 老後への期待もある。東アジアの家父長制に詳しい東京大学の瀬地山角教授は「息子の嫁より自分の娘に老後の面倒を見てほしいというのは自然な感情。それを父系社会は拒んできた。今は男性が絶対的な稼ぎ手ではなくなったことで娘の地位が高まり、本音が出てきている」と分析する。妻側の実家の近くに住み、育児や介護で協力し合う家庭も近年増えている。

 意識の変化は明確だ。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、子ども1人の場合に夫婦が望む性別は2010年は「女」が68%で「男」は31%。82年調査では「女」が48%、「男」が51%だった。実際の出生データを分析した同研究所の暮石渉氏も「戦前より戦後生まれ、さらに若い世代の母親のほうが1人目や2人目が男児だった場合、女児を望み次の子を産んでいる」との結果を得た。

 娘希望は夫婦や社会のあり方にも一石を投じる。第一生命経済研究所の調査では、娘がいる母親は相談相手に子どもを挙げる傾向が父親より強かった。宮木由貴子・上席主任研究員は「母娘密着が過ぎれば夫婦関係にマイナスにもなる」と指摘する。育児や介護についても中西准教授は「嫁であれ娘であれケアを女性に求める根底には性別分業の意識がある」とみる。

 生殖技術の進歩やインターネットの情報氾濫が、今後も性別に関する意識の変化を促す可能性はある。一方で、男児4人・女児6人を産んだ助産師の小林ひさこさんは「性別で語れるのはあくまで一般論。子どもは十人十色。一人ひとりの個性をみつめてほしい」と話している。

■面倒をみてくれるのはやっぱり娘? 「息子も育て方によっては…」

 ツイッターでは娘を望む理由として、「一人目は女の子の方が育てやすいって言われるからよかった」「女の子の方が育てやすいかなあ。男の子はなに考えてるかわからん」など育てやすさを挙げる人々がいた。

 将来的には「息子はあまり実家に寄り付かないけど、娘はしょっちゅう実家に帰る」「自分も娘なのでわかるんですが、よい関係を築ければ母親的にはおそらく娘がいた方が心強い」との声が多かった。

 一方で「男の子は育てにくいというのは、昔は跡取りとしてしっかりした子に育てなければ…というのがあったからでは。今は男女関係ない」「息子が世話してくれないなど聞くけど、そう育てたのは紛れもないあなた方」という厳しい意見もあった。調査はNTTコムオンラインの分析ツール「バズファインダー」を用いた。

(福山絵里子)

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