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ヒット総研の視点

世界で奮闘「ペトロ女子」 石油業界に女性活躍の波 日経BPヒット総合研究所 佐藤珠希

2015/12/3

日経BPヒット総合研究所

 エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマは「ペトロ女子」、石油関連業界で活躍する女性たちです。女性活躍推進の流れは男性中心の業界にも波及し、「けんせつ小町」や「農業女子」といった愛称も登場してきました。2015年に入り石油業界でも女性活躍推進への取り組みが活発化、女性たちのネットワークが動き出しました。

 企業における女性活躍推進の取り組みは、業界によって温度差がある。積極的に取り組む企業が多い代表例は、主たる顧客が女性かつ女性社員が多いBtoC(消費者向け事業)業界。化粧品メーカーや百貨店などだ。

 これに対し、取り組みがなかなか進んでこなかったのが、男性中心の生産現場や商慣習を持つBtoB(法人向け事業)の業界。石油関連業界もこうした業界の一つだ。そもそも女性社員の数が少ないうえ、女性の職域や配置が限定的になりやすい。女性の活躍と業績向上の相関関係が見えづらいこともあり、女性活躍推進の必要性が浸透しづらかった。

 しかし「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」の成立を始めとする女性活躍推進の流れに、国内需要の低迷による業界再編や海外展開の加速といった事業環境の変化が相まって、石油業界における取り組みがにわかに活発化している。

■女性リーダー育成や両立支援に注力

 出光興産は2015年7月、人事部にダイバーシティ推進のための組織を立ち上げた。全社員の意識改革とキャリア支援、仕事と育児の両立支援制度の充実の3つを取り組みの柱に据えて活動を展開。大学が開催するキャリア講座を女性社員に受講させる、短時間勤務制度の拡充をはかるといった取り組みを進めている。

 「現在女性管理職は課長相当職の3人だけで、女性リーダーの数が圧倒的に少ない。男性と同じような経験を積みながらキャリアアップできるための制度をこれから整えていきたい」と人事部人材多様化推進グループの飯沼牧子リーダーは話す。

 コスモエネルギーホールディングスは6月にダイバーシティ推進室を設置。「2014年度に1.2%の女性管理職比率を2020年度までに5%にする」という数値目標を掲げ、女性社員向けキャリア研修や役員と女性社員の座談会を開催するなど、女性リーダー育成に乗り出した。

 昭和シェル石油は10月、女性社員有志による「昭和シェルWomen’sネットワーク」を設立した。第一期の取り組みとして、本社勤務の女性管理職が中心となり、「仕事と育児の両立」や「海外勤務の経験」などのテーマについて全国の女性社員と意見を交わし合っている。2016年1月には、意見交換で浮かび上がった課題や必要な取り組みを共有するミーティングを、経営トップも参加して開催する予定だ。

■中東の「ペトロ女子」と意見交換

 業界を横断した画期的な取り組みもある。日本と中東の石油業界で働く女性たちが一堂に会し、キャリア開発について考えるワークショップが11月、東京都内で開催された。

 一般財団法人・国際石油交流センター(東京・豊島)が、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国のアブダビ国営石油会社とともに立ち上げた「女性のキャリア開発に向けた友好委員会」のプログラムとして開催されたもので、日本からはJXグループや出光興産などから14人の女性社員が参加。中東からはUAEとクウェートの石油会社から10人の女性が参加し、「キャリアパス」「ワークライフバランス」「女性を生かした経営」の3つのテーマで2日間にわたり各国の現状や問題意識を共有、意見を交わし合った。

2015年11月に都内のホテルで開催された「女性のキャリア開発に向けた友好委員会」のワークショップ(東京都文京区)の様子(写真:国際石油交流センター)

 興味深かったのは、石油業界の女性のキャリアに関する日本と中東の現状認識に大きな開きがあることだ。日本側が、「男性中心の職場と認識されている」「女性のリーダーが少ない」と問題提起したのに対し、UAEやクウェートの参加者からは「石油業界は魅力的な業界と認識されており、男女問わず優秀なタレントが集まっている」「数多くの女性がシニアマネジメントとして活躍している」との見解が示された。

 女性のキャリアアップの障壁となる「ガラスの天井」の存在は3カ国の参加者とも意識していたが、中東サイドがトップマネジメントや技術系トップの女性がいないことを課題としたのに対し、日本側からは管理職に就く女性が少なく、その育成が課題だという意見が聞かれた。

 一方で共通の課題認識も多々あった。業界特有の課題として、製油所などの生産現場は男性がメーンで女性が働くための設備や環境整備が十分でないこと。一般的な課題としては、育児中の女性に対するサポートを充実させる必要があること、リーダーシップ開発のトレーニングやネットワーク構築の機会が十分でないことなどが挙げられた。

 ワークショップ後に開催されたオープンフォーラムでは、石油会社の経営層や人事担当者を前に、参加者によるプレゼンテーションを実施。女性リーダーを育成するためのスポンサーシップ制度の導入や、グローバルな女性ネットワークの設立などの提言がなされた。

■横のつながりが変化もたらす

 「女性の活躍が進んでいない状況を今すぐ変えるのは難しいが、同じ業界で働く女性同士の横のつながりを作れたことが一番の成果」と日本企業から参加した女性たちは口をそろえる。女子学生の採用から女性リーダーの育成まで業界が抱える課題は多いが、これまで「点」だった石油業界で奮闘する女性たちがつながり合い、問題意識を共有できた意義は大きい。

 石油ビジネスを取り巻く環境が大きく変わり、業界再編が進む今は、従来の仕事のやり方や男性中心の風土を変革するチャンスでもある。生まれたばかりの「ペトロ女子」のネットワークは、日本の石油業界にどんなインパクトをもたらすのか。育ち始めた変化の芽に注目したい。

佐藤珠希(さとう・たまき)
 日経BPヒット総合研究所上席研究員、日経BP社ビズライフ局長補佐。日経WOMAN前編集長。毎日新聞社、ベネッセコーポレーションを経て、2004年日経BP社入社。『日経WOMAN』『日経EW』『日経マネー』各編集部を経て、2009年『日経WOMAN』副編集長、2012年同編集長。2015年1月から現職。
[参考]日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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