添い寝の功罪 日本の子どもの睡眠は超短時間

日経ナショナル ジオグラフィック社

2015/12/15

ここで科学に強い読者の方はある疑問を抱くと思う。アジアの乳幼児の睡眠時間が短いのは添い寝が原因ではなく、睡眠時間が短くて済む体質(遺伝的特性)があるのではないかと。確かに『遺伝と環境 睡眠時間の長さを決めるのはどっち』の回で取り上げたように必要睡眠量の「個人差」には遺伝的な影響が認められる。しかし、現時点では必要睡眠時間の「民族間差」のはっきりした証拠はない。

図2:3歳以下の乳幼児の睡眠時間の国際比較(Mindellらのデータから作成)

さて、乳幼児の睡眠時間の国際比較をもう少し細かくみてみよう(図2)。さすが添い寝率が低いイギリス、ニュージーランド、オーストラリアは睡眠時間が長いな。で、添い寝率の高いアジア圏の国の睡眠時間はやっぱり短いな……ん? 添い寝率トップのベトナム、睡眠時間が長めじゃないか! そもそも「夜寝+昼寝」って何?

実はこの国際比較では乳幼児の夜寝すなわち夜間睡眠と昼寝の合計(1日の総睡眠時間)をランキングしている。乳幼児期の睡眠はもともと夜寝だけではなく昼寝もかなり長く(多相性睡眠と呼ぶ)、昼寝も心身の健康を維持するのに重要だからである。

そこで、夜寝と昼寝に注目して図2をもう一度よく見てみるとベトナムも含めて添い寝の高い国の大部分は夜寝が短いことが分かる。

ベトナムの乳幼児は「低添い寝率御三家」に次ぐ睡眠時間をたっぷり昼寝をして勝ち得たのである。そして夜寝がベトナムよりやや長いにもかかわらず日本の乳幼児が総合最下位に沈んでいるのは昼寝が圧倒的に短いからなのである。 

ちなみに、図1で示したスイスと日本の子どもの睡眠時間は夜寝のデータである。昼寝を加えた総睡眠時間を計算すると、乳幼児についてはスイスとの差は更に開く。

最近は「保育園からの幼児教育」とやらが人気らしいが、たっぷりと昼寝はとらせてやっていただきたい。頭が切れる子ではなく感情がキレやすい子どもになってしまうかもしれない。実際、その危険性を示す研究データもある。

(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2015年10月29日付の記事を再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)

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