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 残業を減らし、働きやすい職場をつくるにはどうしたらいいのだろうか。助け合いの意識や仕事自体を分け合う「残業シェア」を試みることで、うまく回り出している企業の姿を追った。

「以前勤めていた会社はみんなが残業するのが当たり前になって、疲れ切っていた。私もこんな生活では結婚や子育てをするのが難しいなと感じていた」。化粧品販売のランクアップ(東京・中央)の西岡愛さん(38)はかつて広告代理店の営業として働いていた。6年前、ランクアップへ転職した。入社後に出産し、現在は2人の育児をしながら管理職として働く。

午後5時、帰り支度をするランクアップの従業員(東京都中央区)

午後5時、帰り支度をするランクアップの従業員(東京都中央区)

同社の定時は午前8時半から午後5時半だが、大半の社員は5時に帰る。「業務が終わっていれば定時の30分前に退社OK」。これがルールになっている。時短勤務を利用しなくてもフルタイムで働く子育て中の社員が多いという。

ルールを決めたきっかけは東日本大震災だ。夜道が暗く電力不足だからとサマータイムを導入、午後5時に帰っていいことにした。3カ月ほどたって戻そうとしたら、「定時と比べてたった30分の違いだが、5時帰りの生活が楽しい。どうかサマータイムを続けてほしいと訴える社員の声が多かった」と岩崎裕美子社長(47)は話す。

「仕事が早く終わってネイルサロンに行けるようになった」「余裕をもって食事を作ることができ、子どもと一緒に過ごす時間が増えた」

残業をゼロにするために、残業した社員を毎月の会議で発表し、上司がなぜ残業したのか理由を聞く。来月も続く場合には、なぜ残業しなければならないか洗い出し、仕事を切り分けて他の人に振ったり、アウトソーシングしたりする。

事務作業が減り、製品開発や広告宣伝のアイデアを生み出す時間が増えた。全体の労働時間が減ると業績が悪くならないか不安はあったが、好調を維持している。「妊娠・出産のある女性が一生働ける会社にするには、社員みんなが早く帰れるのが一番」と岩崎社長は話す。

建設コンサルタント大手のパシフィックコンサルタンツ(東京・千代田)は2010年から残業を減らすワークライフバランスプロジェクトを始め、先進的な働き方改革をする都の「東京モデル」企業に選ばれた。油谷百百子広報室長は「建設コンサルタントの業界には残業をいとわない社員が多い。ウチも残業時間を管理しようなんて意識はほぼなかった」と話す。ところが労働組合が残業を減らせないかと社内で講演会を開き、会社も本腰を入れるようになった。

始めたのが残業削減の見える化だ。「本日は17時に帰ります」。毎日、社員一人ひとりがその日の退社時間を机の上に大きく示すボードを作った。抱えている仕事が多い社員は「HELP」マークを掲げる。社員は互いの繁忙状況を把握できるので、忙しい人には周囲から声をかけやすく、チームワークで残業を減らす意識が高まった。

同時に残業を減らして業績を上げた部署には報奨金を出す表彰制度を設けた。

上下水道部事業支援室は社員一人ひとりの仕事量を把握共有する施策で昨年度、表彰を受けた。2週に1度、全員参加の工程会議を開き、進捗状況や次にやるべきことを各人が分かるように徹底した。ミスが起きたら共有し、作業を分担して助け合える。前場勇一郎室長は「ウチの部署は発注の始まる夏場から工期が集中する3月まではとにかく忙しい。この時期の残業は減らせない分、繁忙期以外は全員午後5時退社を徹底している」と説明する。

コンサルタントの仕事は案件ごとに内容が異なり、どうしても高度な分析ができるベテランの引き受ける量が多くなりがち。「残業を減らす取り組みをきっかけに、社内では案件の工程と中身を分析して似た手法を探り、若手が十分対応できる作業の割合を増やそうとしている。どう効率よく振り分けられるか、業務の因数分解を進めたい」と油谷広報室長は話す。

労働時間管理に詳しい、日本能率協会総合研究所(東京・港)の組織・人材戦略研究部の広田薫主幹研究員は「残業を減らすにはコミュニケーションが大切。上司なら部下がなぜ残業が必要か確かめる機会をつくるだけでも大きい」と話す。

広田さんが勧めるある自治体の例はこうだ。残業する人はその日に『カエルバッジ』を上司からもらう必要がある。7時までなら青、9時までなら赤。バッジを渡す時に上司は残業する理由を聞き、「本当に必要? 赤じゃなくて青でいいのでは?」と会話するきっかけにする。「バッジの発行数を職場の人数より少なくして、だれに必要なバッジを渡すべきか管理職には残業の優先順位をつけるのに役立つ」と広田さん。

ノー残業デーは「早く帰るため、作業を別の日に振り分けるだけという例が目立つ。同じ量の仕事をどうしたら消化できるか試みる日にしたい」と広田さんは話している。

(小柳優太)

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