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コースはグレーなあの坂 それでも気分は「弱虫ペダル」

2015/11/23

 「自転車が走っていますので、しばらくお待ちください」。クルマのフロントガラスの前をスポーツタイプの自転車が一気に駆け抜ける……。
2階から8階まで、らせん状の坂道を一気に駆け上る(浜松市中区)

 

■街中のコースでも一般道は使いません

 

 ひと味違う自転車レースが8日、浜松市で開催された。舞台は街中で営業する立体駐車場。一人ずつが間隔をあけて走り、タイムを競うタイムトライアルだ。山道や峠を登るヒルクライムにちなみ、その名も「パーククライム」。選手はクルマが入出庫する間隙をぬってスタートを切る。

 人気漫画「弱虫ペダル」の影響もあってか国内では空前の自転車ブームだが、欧州のように市街地を使ったレースとなると、まだまだ市民権を得ているとは言い難い。「自転車人口の裾野を広げ、誰もが手軽に参加できるレースができないか」。浜松市内で子どもたちに自転車の初乗りの指導を行っている上嶋常夫さん(64)は、面倒な道路使用許可の届け出等が必要ない立体駐車場に目をつけた。週末に空きの目立つ駐車場で開催すれば、レース参加者や来場者の利用で空車率も下がり、地域の活性化にもつながると一挙両得を期待する。

 

レース開始前、コースを試走する参加者

■ライバルは電動付きママチャリ

 

 今回のコースはJR浜松駅から歩いて5分ほどの場所にある万年橋パークビル。昨年10月の初開催からプレ大会などを含めると、今回で4回目となる。スタートラインは駐車スペースのある2階部分。最上階の8階まで高低差は約20メートル、距離は約300メートル。らせん状の坂道を時計回りに登っていく。景色はお世辞にもいいとは言えないが、「ほどよい距離感で、普段走れない場所を走れるのが魅力」と参加者にも好評のようだ。

 気軽さが売りのこの自転車競技には思わぬ強敵が現れる。ペダルを踏み込めば、ぐんっと加速し坂道にめっぽう強い電動アシスト付き自転車だ。どんな種類の自転車にも参加資格があるため、前回大会で好成績をおさめたのも「電動派」。ロードバイクで挑む本格派は、「アレには負けられないですね」。難敵とのレースにウオーミングアップも余念がない。

ローラー台を持ち込み、駐車場の隅でアップする参加者

 上位に食い込むには、一気に駆け上る脚力はもちろんのこと、進入速度、角度、ライン取り、ギア選びなどのテクニックが不可欠だ。ペース配分も重要で、前半に勢いよく飛び出すと、後半は酸欠気味に失速しカーブがきつくなる。前回優勝の山下貴さん(33)は「(カーブで)ペダルを接地させることなく、(一瞬だけ)踏み込めるタイミングがある」とレースの奥深さを知り尽くす。今大会も予選をトップで駆け抜けた。決勝は来年1月に行われる。

 

■ウチの街でもブームの風に乗れ

 

王者の山下貴さん。決勝大会は、仮装して臨むそうだ

 昨年の初開催の反響は予想外に大きく、全国から開催を熱望する声が高まっている。すでに岩手県北上市では昨年11月、地元百貨店の駐車場を使って開催。東北各地から参加者が集まり大盛況だったという。「シリーズ化してほしい」。大会を企画担当したNPO法人フォルダ(岩手県北上市)の司東道雄さんは、「タイミングさえ合えばぜひ」と次回開催についても前向きだ。また北九州市のスポーツクラブでは、今年度中の開催に向け会場を選定中だ。さらには路面が凍結する冬でも開催できると、札幌市の企画会社が興味を示しており、首都圏では横浜市の自転車愛好家らが調査を進めている。

 

 「全国大会、W杯を開催したい」。全国的に高まる普及の機運を追い風に、上嶋さんの夢も登りつめることができるかもしれない。

(写真部 瀬口蔵弘)

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