シャチショー廃止へ、米国で過熱する飼育批判
米国でシャチのショーに対する批判が高まっている。2015年11月初めにシャチによるショーを違法とする法案が議会へ提出されたことを受け、海洋テーマパークのシーワールドは11月9日、本拠地サンディエゴにあるパークのプログラムに大幅な変更を実施、「シャム」と呼ばれるシャチのショーを段階的に廃止していくと発表した。
同社ホームページに掲載された計画書によると、今後はより自然な環境設定の中で、自然保護の大切さを訴えるメッセージを含んだ「教育的な」プログラムを提供する予定であるという。
全米11カ所にあるシーワールドでは、ここ最近入場者数が減少しているとの発表があったばかりで、同社の株価も下降を続けている。海洋娯楽産業を批判して話題を呼んだ2013年のドキュメンタリー映画『ブラックフィッシュ』をきっかけに、動物愛護団体によるデモが盛んに行われ、注目を集めたことが影響している。
これに対してシーワールドは、シャチの飼育は人道的に行っており、企業としても動物の救助や保全を支援していると主張していた。
動物愛護団体は今回の発表を受け、シャチの捕獲・飼育反対運動が転換期を迎えようとしていると評価する。世論は「前時代的で残酷なシャチの飼育は廃止されるべきだという意見へ傾いています」と、動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)のジャレッド・グッドマン氏は声明の中で述べた。
アダム・シッフ連邦下院議員も同意する。シッフ氏は11月6日、飼育下にあるシャチの繁殖や野生のシャチの捕獲、輸出入を連邦法で禁止する法案を議会へ提出した。「サンディエゴのシャチショーを段階的に廃止するというシーワールドの決定は歓迎すべきことです。これが、優れた知能を持つシャチの飼育廃止へつながることを期待します」
飼育禁止の流れ加速
最近では、小学生から著名人まで、シーワールドをボイコットする動きが広がっている。
保護団体であるクジラ・イルカ保護協会(WDC)のウェブサイトには、「良質で清潔、家族みんなが楽しめるお出かけスポットとして、特に私たち米国人は子どものころからシーワールドのような飼育施設に慣れ親しんできたが、その明るいイメージとは裏腹に、シャチ飼育の持つ暗い一面に目を向ける人は少ない」と書かれている。
同協会が2014年に行ったアンケートでは、米国の成人の半数がシャチの飼育に反対すると回答した。2012年には、同じように回答していた人はわずか11%だった。
世界では57頭のシャチが飼育下にあると推定されているが、インドや欧州、中南米などで少なくとも14カ国が飼育を禁止する法案を可決している。米国内でも、サウスカロライナ州とニューヨーク州で同様の法案が可決された。
2015年10月には、カリフォルニア州沿岸委員会がシーワールドに対し、州内でのシャチ繁殖を中止するよう通達を出していた。シーワールドは、オーランドやサンアントニオのパークで行われているシャチショーについては今後の対応を明らかにしていない。インタビューを申し入れたが、すぐには回答を得られなかった。
「シャチの人工的な繁殖を縮小し、海洋保護区の創設へ協力するよう、シーワールドへ働きかけていきたいと思います」と、シッフ氏は話す。
PETAのグッドマン氏も、シーワールドの措置は不十分であるとしている。「水槽を交換したり、ショーの形式を変更したりするだけでは、苦しめられているシャチを本当の意味で救うことにはなりません」
シャチの心身にトラウマ
「人々は、シャチが苦痛を受けることに怒りを抱いています。映画『ブラックフィッシュ』が、ショーの廃止を促す良いきっかけになりました」と、グッドマン氏。
シャチの飼育で問題とされているのは、野生のシャチの群れの解体、ストレス、人間の調教師の死亡事故などである。2010年に、シーワールドの調教師ドーン・ブランショーさんがシャチに襲われて死亡した事故は、人々に衝撃を与えた。
シーワールドで過去に調教師として働いていたジョン・ハーグローブ氏は、以前ナショナル ジオグラフィックにこのように語っていた。「残念なことですが、私の長年にわたる経験の中で、飼育による心理的・肉体的トラウマを数多く目にしてきました。巨大な企業組織が、シャチと調教師を搾取しつくしているのです」
(文 Brian Clark Howard、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2015年11月13日付]
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