その「かゆみ」「かぶれ」、原因は身近に潜んでいる
ある物質に触れることで起こる、皮膚の「かぶれ」
「接触皮膚炎」とは、いわゆる「かぶれ」の症状を起こす皮膚の病気。体の外から特定の物質が触れ、皮膚から吸収されることで、そこに炎症が起こるものだ。
接触皮膚炎は、触れた物質の毒性により皮膚が直接破壊されてしまう「刺激性接触皮膚炎」と、原因物質に触れてから免疫反応が起こり、2~3日経ってから症状が現れる「アレルギー性接触皮膚炎」に分けられる。さらにどちらにも、紫外線が当たることによって反応して皮膚炎が起こる「光接触皮膚炎」がある。
刺激性接触皮膚炎は、酸やアルカリ、洗浄剤の原液、ガソリンなどの刺激性の強い物質が原因で、皮膚が赤くなったり腫れたりする。化学熱傷のようにひどくただれることもある。弱い刺激でもくり返し触れることで炎症症状が起こる。
アレルギー性接触皮膚炎は、植物や化粧品、アクセサリーなどに含まれる物質がアレルギー反応を起こす。かゆみが強く、皮膚の赤み、腫れのほか、水ぶくれになることもある。原因物質への接触がくり返されると、症状が悪化して慢性の湿疹になる。
まずは炎症を抑え、原因物質を特定する
かぶれで皮膚科を受診すると、湿疹が体の一部分に限定されているのか、全身にあるのか、光が当たる部分なのか、など症状と病歴を聞いたうえで、まずはステロイドや抗ヒスタミン薬などで炎症を抑える。
それでも2週間以上くり返すなど、ひどいかぶれが治まらない場合は、原因物質(アレルゲン)を特定し、取り除くことが必要だ。アレルギー性接触皮膚炎は原因物質を避ければ改善するのだが、日常にあふれる多種多様な物質の中から原因を特定するのは、難しいこともある。
診断に役立つ新しいバッチテスト剤が登場
原因物質の特定に役立つのが「パッチテスト」という検査だ。背中などにさまざまなアレルゲンを少量貼りつけて人工的にアレルギー反応をつくり、皮膚炎と関係していないかどうかを調べる。パッチテストを行えば、思いがけないアレルゲンへの反応がわかることもあり、確実に原因を特定し、接触を避けることで皮膚炎の根治につながる。
しかし、パッチテストを行うには手間と時間がかかるうえ、一連の診療技術を行う医師に一定の知識と修練が必要とされる。一方で保険点数も低く設定されていることから、パッチテストを定期的に行うという皮膚科医は大学病院でも約半数、開業医では2割弱にとどまっていた(日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会が2011年に行ったアンケート調査)。
そんな中、2015年5月に、新しい「パッチテストパネル(s)」と呼ばれる検査薬が発売された(佐藤製薬)。従来のように手間のかかる準備が必要なく、剥がして貼るだけで簡便に行えること、「ジャパニーズスタンダードアレルゲン」と呼ばれる日本人がかぶれやすい原因物質のうち21種類を含む、計22種類が一定の面積に均一に配置されていることが特徴だ。
「準備不要でパッチテストが簡便にできるようになったことは画期的なこと。貼った人の手技による差が出にくく、接触皮膚炎の検査にはとても有用です」(松永さん)
かぶれを起こしやすい物質とは
では、どんなものがかぶれを起こしやすいのだろうか。
2012年の統計(下図) によると、かぶれを起こした製品のうち68%を化粧品が占めていた。その他に、医薬品、ゴム製品、金属などにかぶれる人が見られた。
日本人において陽性率が高いとされる「ジャパニーズスタンダードアレルゲン」については、2013年の統計では下記の通りだった。
かぶれやすい物質(ジャパニーズスタンダードアレルゲン)2013年
1位 ニッケル
2位 うるし
3位 コバルト
4位 フラジオマイシン硫酸塩
ニッケルはあらゆる合金製品や、硬貨(50円、100円、500円硬貨)、ステンレス製品などに含まれ、ベルトのバックルやネックレスなどが皮膚に触れることでかぶれを起こすケースがよく見られる。チョコレートやナッツ類などの食品にもニッケルが含まれている。
コバルトも、ニッケルメッキ製品の多くに含まれ、歯科金属や染毛剤、絵の具、クレヨンなどにも使われている。フラジオマイシン硫酸塩は、外用薬として多く使用される抗生剤の成分だ。薬にかぶれてしまうことも少なくない。
「缶コーヒーの缶にクロムが含まれているのを知らずに、毎日4本の缶コーヒーを飲み続けて唇がかぶれてしまった人や、かぶれていながらも染毛剤をくり返し使い続けて入院した人もいます」(松永さん)
また、メチルイソチアゾリノンという化粧品に使われる防腐剤が、アレルギーを引き起こす確率が高いのではないかと注目されているという。日本では洗い流すタイプの化粧品にのみ使用が許可されているが、外国製化粧品などでかぶれることもある。
「おかしいな」と思ったら、使い続けない
こうして見ると、私たちが日常で触れる日用品、化粧品、薬、食べ物などあらゆるものにかぶれの原因となる物質は含まれている。
「製品を作る企業側には、かぶれやすい物質だとわかった時点で濃度を下げる、あるいは除去するといった努力は必要ですが、かぶれを全く起こさないということは不可能です。『いかに重症化を最小限にするか』という視点が大切だと思います」(松永さん)
体がアレルギー反応を起こす体質になり、炎症症状として表面化するまでには、「くり返し」原因物質が皮膚から吸収される機会があるという。私たちができる対策としては、ひどいかぶれになる前に、「おかしいなと思った時点で使用をやめる」ことが大切だ。汗をかいてただれやすい状態のところに無理やりネックレスやピアスをしない、少しチクチクすると思ったら使わないなど、自分の体質や状態を見極めて、合わない物質を避ける意識を持とう。
また、いつまでも皮膚の赤みが続いたり、茶色く変色したり、なかなか治らないかぶれがあるときは、身近に原因が潜んでいるかもしれないと考えて原因物質を探してみることも大切だ。
この人に聞きました
藤田保健衛生大学 副学長、医学部皮膚科学講座教授。1976 年名古屋大学医学部医学科卒業。同大学医学部皮膚科、藤田保健衛生大学医学部皮膚科講師等を経て、2000年より現職。2014年4月より藤田保健衛生大学副学長。専門分野は接触皮膚炎、じんましん、ラテックスアレルギー、アトピー性皮膚炎、スキンケア、美容皮膚科、再生医療。
(ライター 塚越小枝子)
[nikkei WOMAN Online 2015年11月16日付記事を再構成]
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