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介護の現場「ヨロシク」 技能実習に備え外国人、職場へ

2015/11/17

 介護現場で働く外国人というと、EPA(経済連携協定)により来日した介護福祉士候補者を思い浮かべがちだ。だが各地の施設を訪れると、地元の工場で職を失った日系ブラジル人、海外から来たインターンなど様々な外国人が活躍している。政府は外国人が働きながら日本で技能を学ぶ「技能実習制度」で介護人材を受け入れる方針を示したが、人手不足に悩む介護業界では一足先に外国人と共に働く独自の職場づくりが進む。

■進む日系人転職/研修生受け入れ

 「体をきれいに洗いましょうね」。三重県四日市市にある第二小山田特別養護老人ホームで、お年寄りの入浴を笑顔で手助けするのは日系ブラジル人の林田マリナさん(35)だ。大手電機メーカーなどの工場で働いていたが、2013年春から介護の正規職員としてここで働く。

工場から介護施設に転職した日系ブラジル人の林田マリナさん(三重県四日市市の第二小山田特別養護老人ホーム)

 介護の仕事は初めてだが、今では食事の配膳から入浴介助、おむつ交換に至るまでベテラン職員さながらに手際よくこなす。入浴を終えた80代の女性に「ありがとう」と言われたマリナさんは「工場では機械みたいに働いていた。ここでは皆に感謝されて、うれしい」とほほ笑む。

 運営元の青山里会(四日市市)は東海地方で特養や認知症患者向けのグループホームを運営する大手の社会福祉法人だ。家電や食品などの工場が多く日系ブラジル人らが暮らす地域で、利用者に日系人が増えてきた。人手不足に加え、日系人の利用者に対応するため、08年から外国人の採用を始めた。

 総勢600人の介護職員のうち外国人は60人に上る。フルタイムで働ける人は国籍に関係なく正規職員だ。「まずは身近な日系人に選んでもらえる職場にし、日本人職員と外国人職員の双方が長く働ける職場をめざす」と人事室の三瀬正幸室長は話す。

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 日本の介護施設で働く外国人の大半はEPAの枠組みでインドネシアやフィリピンなど3カ国から来日した外国人の介護福祉士候補者だ。すでに2千人を超えたが、深刻な人手不足を解消する切り札にはなっていない。

 国は建設などの職種に限っている今の外国人技能実習制度の対象に「介護」を加え、外国人を介護の技能を学ぶ実習生として受け入れる方針を打ち出した。だが先行きはまだ見えず、介護業界では「法成立はいつになるのか」(千葉県の社会福祉法人幹部)、「新制度が始まってから準備しても、人材確保に出遅れる」(大阪府の社会福祉法人幹部)といった声が出ている。

 新制度の導入に備え、まず日本人職員や施設の利用者に外国人職員と一緒に過ごすことに慣れてもらおうと、海外からのインターンを受け入れ始めた社会福祉法人もある。その一つが関西で特養など複数の施設を運営する社会福祉法人、あかね(兵庫県尼崎市)だ。昨年から年間4人ずつ、ドイツ人のインターンを受け入れている。

お年寄りにお茶を出すドイツ人インターンのミショックさん(尼崎市の特別養護老人ホーム「アマルネス・ガーデン」)

 「はい、お茶です」。阪神電鉄尼崎駅から徒歩7分ほどにある特別養護老人ホーム、アマルネス・ガーデン(尼崎市)には朝9時半をすぎると、デイサービスを利用しようと高齢者が次々に集まる。多い日は45人に上る。一人ひとりに笑顔でお茶を出すのは、レオナルド・ミショックさん(18)とケンゾウ・ヴァイスさん(19)だ。

 2人とも母国の高校を6月に卒業し、世界各国の福祉などの現場で若者が経験を積むドイツの制度を利用して9月に来日した。日本人職員と一緒に飲み物を出したりコップを洗ったり、テーブルや椅子を拭いたりするほか、午後のゲームにはお年寄りに交じって参加する。「仕事は大変だけど、やりがいを感じる」とミショックさんは話す。

 500人超の介護職員を抱えるあかねの松本真希子経営統括本部長は「国の新制度が始まってから外国人の受け入れを準備するのでは遅すぎる」と話す。新制度が始まり次第、ミャンマーから優秀な介護人材を受け入れられるように現地の専門家と独自の人材獲得ルートを開拓しているという。

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 新制度の導入を商機と捉える研修事業者も出てきた。介護事業のコンサルティングを手掛ける介護事業操練所(神奈川県鎌倉市)は中国大連市にある人材サービス会社と連携し、現地から受け入れる介護人材向けの研修事業を始める方針だ。

 外国人の受け入れ拡大をめぐっては意見が分かれる。「まず日本人の介護福祉士の資格取得者が働きたいと思える処遇に改善すべき」(日本介護クラフトユニオン)との指摘がある。山梨県で特養を運営し、全国老人福祉施設協議会副会長を務める熊谷和正さんは「介護の担い手が圧倒的に足りない。人手不足を解消するには外国人の力が必要だ」と強調する。

 団塊の世代がすべて75歳以上になる25年度には、30万人超の介護人材が不足する見込みだ。特養を建設しても介護職員を確保できず開設を延期したり、施設の一部を閉じたまま開業したりする事態が起きている。安倍晋三政権は家族の介護のために仕事を辞める「介護離職」をなくす方針を打ち出したが、肝心の介護の担い手をどう増やすのか、外国人の受け入れや処遇改善の具体策が求められる。

(編集委員 阿部奈美)

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