増える40代の出産、でも期待し過ぎは禁物
第1子出産の平均年齢は30.6歳(厚生労働省平成26年人口動態統計による)。20代の出産は減少し、35歳以上の出産が増えている。なかでも、40歳以上の出産に注目したい。40~44歳女性が産んだ子供の数(出生数)は、95年に1万2472人。約20年後の14年は4万9606人と、ほぼ4倍になっている。
「これまで40代の出産といえば経産婦(出産経験のある女性)が多かったのですが、最近は40代で1人目を産む人も増えていますね」(東邦大学医療センター大森病院産婦人科准教授の片桐由起子さん)
これを聞いて、「40代でも問題なく出産できるんだ」と思ったら大間違い。「不妊治療で通院される方のなかには、年齢に伴う妊娠率の低下や流産率の上昇(下の図)を知らない方もいます。年齢が高くなれば、不妊治療の成果も出づらくなることを理解してほしい」。
では、今30代後半でこれから子供を持ちたい人はどうしたらいいのだろうか。「不妊の原因がないか早目に検査しましょう。要因があればすぐに治療して、妊娠に向けた準備を」
年齢とともに妊娠率は低下、流産率は上昇
高度生殖補助医療(体外受精など)に対する妊娠率、総妊娠に対する流産率が右のグラフ。妊娠率は年齢とともに低下し、流産率は上昇する。35歳の妊娠率は36.1%だが、45歳では6.5%に。流産率は35歳の21%が45歳では61.4%に跳ね上がる。
[流産とは: 妊娠22週(妊娠6カ月)前に妊娠が終わる(妊娠週数に合った胎児の成長がない)ことを指す。ただし切迫流産は、流産の一歩手前の状態で、安静に過ごせば妊娠継続の可能性がある。]
【Case】41歳で第1子出産予定
池田千恵さん(朝6時 代表取締役社長)

結婚から8年、40歳を迎えたときに義母から「孫の顔が見たい」と懇願されたという、朝6時社長の池田千恵さん。「仕事は充実、夫婦2人の生活も楽しくて。子供は欲しくなればすぐ持てると思い、真剣に考えてこなかった」。ところが、調べてみると40代の妊娠率は非常に低い。「認識不足を痛感しましたね」。不妊治療の経験がある友人に、クリニックを紹介してもらい通院。妊娠を妨げる原因がないか検査した。「夫婦2人とも、問題がないと分かりました」
まずはタイミング法で挑戦。すると3カ月後、40歳で妊娠した。「夫婦で『えー』と驚いて。妊娠まで2年かかると思っていたのに、ありがたいの一言です」。なぜすぐに結果が出たのか。「ラッキーでした。とはいえ、私自身朝4時に起きて夜10時には寝る超朝型生活。趣味のランニングでは、毎年フルマラソンを完走。今も週1回、10kmを歩いています」。健康的な生活習慣が、高齢妊娠成功の背景にあったのかもしれない。
体力には自信があるという池田さん。出産2カ月後に仕事へ復帰する予定だ。
【この先の妊娠出産に備えて、今からやっておきたいこと】
「もしも今、妊娠したら…と想像してみてください。あなたの体は妊娠出産に好ましい状態だと思いますか?」。片桐さんはこう問いかける。
妊娠はゴールではなく、スタート。妊娠出産という一大事業を母子共に健康に乗り切るには、それなりの「準備」が必要。「妊娠を望む人は、そのときが来たら、ではなく、今から準備を」と片桐さんは強調する。
「例えば、いざ妊娠をとなったときに子宮筋腫や子宮内膜症、あるいは甲状腺の病気などがあって、そちらの治療を優先させなくてはならないケースも多い。30代後半以降の不妊治療は時間との戦いだが、このために半年から1年程度、治療開始が遅れることもあります」(片桐さん)。
また、妊娠を機に隠れていた病気が出てくることも。例えば、妊娠中に血圧が高くなる「妊娠高血圧症候群」や血糖値が高くなる「妊娠糖尿病」などは、その代表。日ごろから塩分や糖質を多く取っているとか、高血圧や糖尿病の家族がいる場合などはそのリスクが高い。こうした病気は赤ちゃんに悪い影響が出ることもあるので、妊娠中は管理が必要になる。「今はなんの異常もなくても、妊娠を引き金に発症することがある。それだけ、妊娠は女性の体にとって負担が大きい。だからこそ、妊娠前から病気の芽が大きくならないように体を整えておくことが大切」と片桐さんは言う。

1.婦人科の病気を治す
子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣のう腫などの持病がある人はきちんと治療を。今すぐ治療が必要でなくても、定期的な受診を忘れないで。
2.「隠れ持病」のチェック
比較的多いのは甲状腺の病気。高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、日ごろの食事や運動不足、家族の病歴などが関係するので気を付けて。
3.痩せと太り過ぎの人は適正体重に
痩せていても胎児の健康に影響が大。肥満(BMI25以上)では妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクが上がる。適正体重を目指そう。
4.葉酸、ビタミンD、鉄など不足栄養素を十分取る
葉酸やビタミンDは妊娠初期から胎児の神経や骨の発育に欠かせない。妊娠出産では母体が貧血になりやすいので鉄もしっかり摂取を。
5.運動や入浴などで卵巣の血流を上げておく
卵巣の血流がよくないと、卵巣機能が落ちて受精率や妊娠率が低下するとの報告がある。運動や入浴で骨盤内の血流を良くしておこう。
6.禁煙する
喫煙すると血管が収縮し、卵巣の血流状態にも悪影響がある。喫煙は卵巣の老化を促進させ、喫煙者は閉経が早いとの報告も。禁煙しよう。
母体が痩せていると子供がメタボ化しやすい?
最近、大きな問題になっているのが女性の「痩せ」だ。20代の約5人に1人、30代の6人に1人が、BMI18.5未満の痩せに該当。痩せだと、妊娠しにくいことがある上、生まれてくる赤ちゃんにも問題が出る。2500g未満の低出生体重児になるリスクが上がり、将来、2型糖尿病や高血圧、メタボリック症候群などの生活習慣病になる危険性が増すと指摘されているのだ。
「母体が痩せた状態だと、胎児は飢餓状態を生き延びられるような体にプログラムされてしまう。その結果、普通に食事をしてもより太りやすくなり、生活習慣病になるリスクが増すと考えられます」と片桐さん。
母体の体内環境は胎児に大きな影響を及ぼす。痩せだけでなく、肥満や喫煙も同じ。今のうちから適正体重を目指し、喫煙している人は禁煙しよう。
妊娠できる体を維持するには冷えの改善も重要だ。「骨盤内の血流がよくないと、卵巣機能も低下しやすい」と片桐さん。グラフは、卵巣の血流状態と体外受精の成績との関係を調べたもの。血流状態が良いほど、受精率、妊娠率共に高い。「お風呂はシャワーだけで済まさず、湯船につかって体を温める、運動する、体を締めつける衣類を着ないなど、日頃から骨盤内の血流を良くするよう心がけて」と片桐さん。「いつか赤ちゃんを」と思っている人は今から準備を始めよう。
排卵に合わせて性交する「タイミング法」から、「人工授精」「体外受精」と、より高度な方法へとステップアップしていくのが不妊治療の基本。ただし、年齢が高い場合は早めに高度な段階に進むことも多い。高度な不妊治療とはいえ、妊娠・出産率は女性の年齢が上がるにつれ低下する。特に30代後半になったら、少しでも早く始めたい。
・タイミング法
基礎体温や経膣超音波検査などから、排卵日を正確に予測。それに合わせて性交をする。当日だけでなく、その前後に複数回試みるといい。
・人工授精
男性の精液を採取し、良い状態の精子を選択して洗浄。女性の子宮の奥へ注入する。精子が少ない、射精障害がある場合などに効果的。
・体外受精
卵巣から卵子を、男性から精子を採取。それらを培養液の中で受精させ、受精卵を子宮に移植。1回当たりの妊娠率は年齢によるが、一般に30~40%。不妊治療のなかでは最も妊娠率が高い方法。
・顕微受精
卵子と精子を採取し、顕微鏡で見ながら1個の精子を細いガラス針で卵子の中に注入する。精子の状態がよくない場合に行われる。
自分の卵子を採取して保存する「卵子凍結」。本来はがんなどの患者が対象だが、最近は将来の妊娠に備えたいと、未婚女性の利用が増えている。「ただ、この方法で将来の妊娠が保証されるわけではない。凍結した卵子で妊娠できる確率は、通常の体外受精の半分程度でしかない。また卵子は若くても、母体は着実に老化することを忘れないで」(片桐さん)
この人に聞きました

東邦大学医療センター大森病院産婦人科 准教授。専門は不妊治療。「40歳になっても高度な不妊治療を受ければ、必ず妊娠できると思っている人が多い。でも、体外受精の成功率も年齢とともに低下する。特に37~38歳からは急減し、流産率も高くなる。妊娠したい人は一刻も早くスタートを切って」
(日経WOMAN 田中祥子、ライター 佐田節子)
[日経WOMAN2015年11月号増刊『日経WOMANsoeur』の記事を再構成]