声を使うプロの風邪対策、奥の手も公開(草野仁)
木枯らしが吹き始めて、いよいよ冬の到来も間近。風邪やインフルエンザが流行する季節がやってきました。私も声を使うキャスターという仕事柄、人一倍風邪には気をつけているつもりです。今回は、私なりの風邪の対策を紹介しましょう。
キャスターなのに、のどに弱点あり
私は、子どものころから元気いっぱいでわんぱくな少年でしたが、それでも年に一度くらいは風邪をひいて1日か2日は学校を休んでいたものです。
風邪には人によっていろいろなタイプがあるといわれますが、私の風邪はいつものどから。なんとなく「のどが痛くなりそうだな」という違和感で始まります。それを放っておくと声がかれてきて、やがて風邪の症状が全身に広がっていくといった具合です。
もちろんキャスターは声が商売ですから、かれては大変です。ですから、この仕事を始めて以来、風邪をひかないように細心の注意を払ってきました。
「風邪ひきの人と会わない」のが最良の予防法?
「風邪の予防には、風邪ひきの人と会わないのが一番。だから、私の家には風邪をひいている人は絶対に入れません!」
こうおっしゃっていたのは、2011年に亡くなったテノール歌手の五十嵐喜芳さんでした。さすが、のどを大切にする歌手の方らしい徹底ぶりです。
もっとも私の場合、仕事でしょっちゅう出かけなくてはなりませんから、そうも言っていられません。
そこで、風邪が流行する冬場になると、空港や駅など不特定多数の人が出入りする場所に行くときは、予防のために必ずマスクをするようにしています。とくに注意が必要なのは飛行機の機内です。大勢の人が出入りするうえに空気が乾燥していますから、冬場に限らずマスクは離せません。
新しい加湿器を買って、のどの調子も上々
家のなかでも冬場になると、暖房器具を使うことが多くなり、どうしても空気が乾燥してしまいます。これが、風邪やインフルエンザがまん延する条件になるそうです。空気が乾燥するとウイルスの活動が活発になるからです。
専門家の話によれば、湿度50%以上になれば、ウイルスがほとんど活動できなくなるとのこと。そこで、わが家でも事務所でも加湿器をこまめに使っています。
「冬になるとしょっちゅう風邪をひいている」という方は、加湿器を試してみてはいかがでしょうか。最新型なら多機能で、特定のウイルスを排除する機能もついています。
わが家では、長年使ってきた加湿器の調子が悪くなってきたので、昨年買い替えました。気分的なものかもしれませんが、おかげでのどの調子も上々です。
外出からから帰ったときは指の間まで入念に洗う
外から帰ってきたら、手洗いとうがいは徹底しています。なかには、うがいはしても手洗いをおろそかにしがちな方もいるようですが、それはよくありません。
私たちは外出先でさまざまなものに触れており、手には細菌やウイルスがたくさんついています。そんな手で顔や口をしょっちゅう触ると、知らず知らずのうちに体内に入ってしまうからです。
ですから、私は外出先から戻ると市販の液体せっけんを使って、手のひらや手の甲はもちろん、指先、爪、さらに指と指の間まで入念に洗います。それだけでも、風邪はかなり防ぐことができると思うのです。
お茶でうがいは効果がある?
もちろん、うがいも忘れずにします。とくに、のどに違和感を覚えたときは念入りに。うがい薬をふだんよりも濃いめにして、たっぷりコップ2杯分うがいをするのです。
うがいで思い出しましたが、私の知っている小児科医の先生は、診察の合間に10分おきにお茶でうがいをしているのだとか。
というのも、小児科には風邪ひきの子どもたちが次々にやってきますから、小児科医はまさにウイルスがただよっている中で仕事をしているようなもの。その対策として、いちいち洗面所にうがいに立つ余裕はない代わりに、お茶を飲むついでにうがいをするようになったのだそうです。
「のどにとりついたウイルスが、そのまま気管のほうに入るから風邪になる。その点、のどを洗い流したお茶を、たとえ吐き出さなくても飲んで消化器系に入れてしまえば風邪にはならない」と先生はおっしゃいます。
科学的にどこまで根拠があるのかはわかりませんが、結果的にそんな環境で10年以上風邪をひかないというのですから、お茶のうがいには効き目があるのかもしれません。
サラダに柿を入れて食べる
私は、とくに風邪対策を意識した食事はしていませんが、柿はもともと好きでよく食べています。昔から「柿を食べると風邪をひかない」といわれていますから、結果的に風邪予防に役立っているのかもしれません。
草野家では柿をそのまま食べるだけでなく、リンゴやきゅうりなどとともに、サラダに入れてよく食べています。
もちろん、体の保温にも気を使っています。若いうちなら、薄着をして体を鍛えるということも意味があるかもしれませんが、私くらいの年になると「年寄りの冷や水」になってしまいます。とくに腹が冷えると風邪をひきやすくなるといいますので、腹巻きをすれば理想的ですね。
最終手段は「あの薬」で
こうした対策をしても、風邪をひいてしまうことはあるものです。そうなったら市販の風邪薬を飲んでおとなしくしています。幸いなことに、ここ10年ほどはひどい風邪をひくことはなく、風邪で医者にかかることもなく過ごしてきました。
ただ、どうしてもよくならず、声がかれたり出なくなったりするときもあります。そんなとき、局アナならば代役がいるのでいいのですが、フリーランスになると休むわけにはいきません。
では、どうするのか。じつは、声を使う人だけが知っている秘策があります。
それは、専門医を訪ねて声帯にステロイドを少し塗ってもらう方法です。そうすると、一時的ではありますが、のどの腫れがひいて声が出るようになるのです。
あくまでも対症療法ですし、ステロイドですからしょっちゅう使うわけにはいきません。でも、声がかれていては仕事になりませんから、"緊急避難"として何度か使ったことがあります。
アナウンサー以外でも、俳優さんなど声を使うことを生業にしている方々の中には、最終手段としてこの方法を使っていらっしゃる方がいるようです。
いずれにしても、風邪やインフルエンザは免疫力が落ちたときにかかるもの。湿度、栄養、保温に加えて、疲労や睡眠にも気をつけてこの冬を乗り切りましょう。
(まとめ:二村高史=ライター)
キャスター
1944年2月生まれ。67年東京大学文学部社会学科卒業後、NHK入社。鹿児島放送局、福岡局、大阪局を経て、東京アナウンス室へ。主にスポーツ・キャスターとして、五輪中継をはじめ、国内外のスポーツ実況中継を担当。また、「ニュースセンター9時」「ニュースワイド」のキャスターも務めた。85年に独立しフリーに。以降、テレビやCMなどで活躍中。趣味・スポーツは、「映画鑑賞」「ゴルフ」「カラオケ」「競馬」「剣道(二段)」と多才。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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