「希望出生率1.8」とは言うけれど… 目標達成、険しい道
政府は今後の経済政策の柱となる「新3本の矢」に子育て支援の充実を据えた。具体的な目標に希望出生率1.8を併せて掲げた。少子化に陥った日本の出生率は回復できるのか。希望出生率の算出基準をひもとくと、目標達成への険しい道のりが見えてくる。
キャリアと両立難しい
少子化は日本の長年の懸案だ。これまでも行政は数々の対策を打ってきたが、具体的な数値目標を公言はしなかった。安倍晋三首相は9月の会見で「希望出生率1.8の実現を目指す」と明言。戦後初めて出生率目標を政府が公式に掲げた。
ただ希望は一般的に手が届きにくいもの。例えば出生率1.8をはじき出した前提条件に独身女性の結婚願望がある。約9割が「いずれ結婚するつもり」と答えた意識調査を基に、政府はこれを実現する想定だ。だが未婚女性の9割が結婚する状況は身の回りの現実とあまりに懸け離れていて、具体的に思い描けない。
直近の合計特殊出生率(2014年)は1.42。合計特殊出生率が1.8を最後に超えたのは1984年にさかのぼる。男女雇用機会均等法の施行(86年)前で「夫が外で働き、妻が家庭で子育て家事を担う」といった性別役割分担が色濃く残っていた時代だ。80年代半ばの日本社会は未婚率が今より低く、女性は専業主婦願望を抱き、専業主婦世帯が共働き世帯を上回っていた。家庭や仕事に関する状況・価値観は現代と大きく異なる。
国が結婚・子育てを支援
希望出生率を実現する方策は「一億総活躍国民会議」で議論する。11月末までに緊急対策を取りまとめる。結婚と出産をいかに支援するかがカギ。幼児教育の無償化、派遣社員らの育児休業取得の促進、不妊治療助成の拡充、3世代同居の推進支援が検討課題に挙がる。仕事と子育ての両立のために待機児童ゼロを17年度末までに達成する計画で、安倍首相は先週、保育定員を50万人分拡充すると公言した。
NPO法人、新座子育てネットワーク(埼玉県新座市)代表の坂本純子さんは「子どもがいる生活が楽しいと実感できないと少子化は克服できない」と指摘する。親子が集まるスペースなどを5つ運営する。「子どもは1人で手いっぱい」と思う親も、子どもを複数抱えた親が楽しそうにしている姿をみると「2人目、3人目を産もうか」と意識を変えるという。坂本さんは「待機児童や育児ストレス、高額な教育費など『子育ては大変』と植え付けられる。小中学生のころに赤ちゃんと接する機会を増やすなど、楽しさを次世代に知らせるのが重要だ」と話す。
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記者の目
親や会社の制度、フル活用
政府は2020年に女性管理職比率30%の目標を掲げる。リコー統括部副部長の耳野恵理子さん(46)は3人の娘を産み育てる女性管理職だ。27歳で結婚。30歳で長女を出産し、末っ子が3歳になるまで10年間、産休・育児休業と短時間勤務を繰り返した。
「『自分のことは自分でする』が決まり。夫も子どもも炊事・掃除を分担する」。長女が小学校に上がるときに実家近くに引っ越し。両親を戦力に加えてキャリアと子育ての両立体制を築いた。
無駄な業務を見直す一方で、フレックスタイムやモバイルワークなど会社の支援策をフル活用。会社の「キャリアリカバリー制度」は有効だった。産休・育休中の空白期間を無視して休業前と復帰後の評価で昇進・昇格を決める。「短時間勤務中に係長に昇格し、フルタイム勤務復帰から4年で管理職に昇格した」
会社の手厚い支援と家族の協力、本人の努力。この3つが耳野さんの成功の秘訣だ。ただ、これだけの条件に恵まれている女性は今の日本では少数派だ。
(女性面編集長 石塚由紀夫、林咲希)
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