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夢二が愛したロマンの湯・湯涌

北陸温泉紀行(中)~金沢~

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NIKKEI STYLE

「湯涌なる 山ふところの 小春日に 眼閉ぢ死なむと きみのいふなり」。明治の終わりから昭和にかけて数多くの美人画を残した竹久夢二が滞在し、こう詠んだのが「金沢の奥座敷」といわれる湯涌温泉だ。加賀百万石の歴代藩主の御用達でもあった湯で、大正ロマンに思いをはせたらどうだろう。

「金沢の奥座敷」 歴代の加賀藩主が滞在

「いんぎらーっと、おんぼらーっと、できることですかね」。日本の三名園の一つである「兼六園」から路線バスに揺られて約30分、終点の湯涌温泉のバス停で降りてお宿「やました」へ。

迎えてくれた女将の山下絹子さんに湯涌温泉の魅力を尋ねると、笑顔でこう教えてくれた。

「いんぎらーっと、おんぼらーっと」とは金沢弁で「ゆったり、ゆっくり」という意味だ。「湯涌温泉には飲みに出かけるような歓楽街もなく、夜になるとシンと静まりかえる。おいしい料理を食べて、お湯につかって本当にのんびり過ごせる場所なんです」と絹子さんは話す。

奈良時代、養老の昔(718年ごろ)、近郊の紙すき職人が体を癒やす白鷺(さぎ)を見て温泉が湧き出るのを発見したのが始まりともされる湯涌温泉。

江戸時代には加賀前田家の3代利常ら多くの藩主が訪れ、大正初めにはドイツで開かれた万国鉱泉博覧会に当時の内務省の推薦で日本の名泉として出展したという。そんな由緒ある山あいの温泉地は、今でも8軒の温泉宿が営業している。

夢二が次男・不二彦と恋人の彦乃を伴って湯涌温泉を訪れたのは大正6年の9月から10月にかけてのこと。金沢で展覧会を開いた夢二だが、不二彦が病気に。その療養のために薦められてやってきたそうだ。

彦乃は東京日本橋の老舗の紙商の娘で、父親は夢二との交際を認めていなかった。そんな恋人との約3週間の湯涌での生活。翌年には彦乃が結核を患ってしまう。その後、夢二は会うことを許されぬまま、彦乃は25歳の若さで永眠してしまったため、湯涌でのひとときは2人にとって本当にかけがえのない幸せな時間だった。

「谷深き 片山里を ゆくときも 妹としあれば 都わすれつ」

「ふるさとの 山の狭間の 細径を 汝が辿りけむ 姿ほのみゆ」

夢二は彦乃とともに湯涌周辺の山道を散策し、詩を詠み、絵を描きながら過ごしたそうだ。

そんな夢二が泊まったのが「やました」だ。どんな人だったかを尋ねると、「亡くなった先代(時雄さん)は『なよなよした人だった』と話していた」と絹子さんは語る。夢二はひょろっとしていて物腰も柔らかかったといわれている。そんな優男で感性も秀でたからこそ、女性に人気があったのだろう。

旅館の美人画 夢二の恋人がモデル

人力車に乗って湯涌にやってきた夢二。なにか面白いエピソードはないか聞いてみると、「金沢から届けてもらったバナナを食べていたそうです。

当時はかなり高かったんでしょうが、バナナが大好物だったらしいですよ」と絹子さん。夢二はココアも飲んでいたようで、当時としてはハイカラな人物だったようだ。

お宿「やました」にはそんな夢二が描いた美人画(レプリカ)がフロントの前に飾られている。「3幅描いてくれたらしいのですが、今残っているのは1幅だけ。先代から『公開はするな』といわれていたのですが、岡山にある夢二郷土美術館の初代館長だった松田基さんの勧めもあって本物ではないですが、公開することにしました」

「湯上がり美人」と名付けられた美人画は、夢二が滞在中に彦乃をモデルにして描いた作品で非常に味がある。そのほかにも松田氏から寄贈されたという夢二の作品のレプリカが館内のあちこちに飾られていて、3階と4階の廊下の奥には美人画が多数飾られているちょっとしたスペースもある。

「夢二ファンの方にも大勢泊まっていただいています」と絹子さんは話す。

そこまで聞いて、ぶらりと散歩に出てみた。やましたのすぐ斜め向かいには金沢市立の金沢湯涌夢二館がある。夢二のことをもっと知りたくなって入場料300円を払って入ってみた。「当館には約1600点の夢二関連の所蔵品があり、そのうちの760点ぐらいは整理されて3年ほど前に出したカタログに掲載されています。その後に集めた作品も多数あるので、いずれまた新しいカタログを出したいですね」と館長の太田昌子さんは語る。

「夢二は物を見て感動し、その感動をそのまま絵にできた人」と太田館長。そして、「夢二の心の奥底には青く透明な寂しさがあったともいわれています」と説明してくれた。常設展示では「旅・女性・キリスト教」をテーマに、夢二と関わりの深かった3人の女性(たまき、彦乃、お葉)がどんな影響を与えたかを作品や資料などから紹介している。特別展示では夢二が描いた絵雑誌と絵本を集めた「夢二の子ども絵3」を開催していた(23日まで)。

湯涌夢二館は24日から一時休館し、来年3月12日にリニューアルオープンの予定だ。「中部地方の収集家から譲られたコレクションがあるので、それも展示したい。楽しみにしてほしい」と同館長はアピールしていた。

人気アニメの舞台に 若者も集客

お宿「やました」に戻り、湯につかる。湯涌温泉の泉質はナトリウム・カルシウム・塩化物・硫酸塩泉(低張性弱アルカリ性温泉)。

無色透明で切り傷ややけどなどに良いとされている。「『やわらかいお湯ですね』とお客さんからよくいわれます」と絹子さん。「文殊の湯」と名付けられたお風呂はそれほど大きくないが、露天風呂があり、打たせ湯もあって気持ちいい。

お風呂から上がると、楽しみな夕食。加賀料理で有名な治部煮プラン(1室2名の場合ひとり1万8000円から、税別)は前菜、小鉢、造り、煮物、酢の物、焼き物、鍋物、蒸し物、果物の全9品。「新鮮な地の物をお出ししている」と話す料理は香箱がに(ズワイガニのメス)があり、ノドグロの塩焼きがありで食べきれないほど。

「湯涌へ来る道は柚子(ゆず)街道ともいわれているほど柚子の生産が盛ん」。その柚子を使った食前酒もフルーティーで飲みやすかった。

翌朝、温泉街の通りをぶらぶら歩いていて気がついたことがある。通りのところどころにアニメの看板が立っていることだ。そのアニメとは「花咲くいろは」。2011年にテレビ放映された作品で、女子高生の松前緒花が湯乃鷺温泉の旅館で見習い仲居として働き、成長していく物語。湯乃鷺温泉とは架空だが、舞台のモデルとなったのは湯涌温泉にかつてあった白雲楼ホテルといわれている。「アニメのおかげで最近は若い子がたくさん来るようになった。ありがたいことで」とお宿やましたの絹子さんは話す。

アニメでは神無月(10月)に神様が出雲に帰る際に迷子にならないようにぼんぼりを掲げて案内する架空の神事「ぼんぼり祭り」が行われている。

湯涌温泉では11年からこれを再現していて、「春に日程を発表すると、瞬く間に湯涌温泉中の旅館が予約でいっぱいになるような人気行事になっている」と湯涌温泉観光協会の浅田和幸事務局長は話す。

湯涌温泉の総湯「白鷺の湯」(入場料大人380円)に入ったが、そこに置いてある飲料の自動販売機にも花咲くいろはのアニメの絵が描かれているのには驚いた。

最後に金沢湯涌江戸村を訪れた(入園料300円)。江戸村は白雲楼ホテルが集めた古民家を移築し、改めて展示公開している。農家や商家、宿場問屋など8軒と表門があり、その中には国指定重要文化財の旧松下家や旧石倉家もある。現在、もう1軒武家屋敷の移築工事中で、数年後に完成予定だそうだ。

「ここにあるのは一般庶民の家が多い。お金持ちだった家もあるが、豪華絢爛(けんらん)ではなく本当に質素で、軽やかといったらいいのか、あまりゴテゴテしていないんですよね」と技師である細野美希さんは江戸村の魅力を話す。江戸時代の嫁入りの様子をかかしで表現した展示もあって、江戸時代の人々の暮らしがうかがいしれる。

今回は行かなかったが、湯涌には版画や染めものなど様々な工芸が体験できる金沢湯涌創作の森もある。そうしたことに興味があれば、挑戦してみるのもいいかもしれない。

石川県には和倉温泉(七尾市)、山中・山代・片山津温泉(加賀市)など有名な温泉が多いが、金沢市内にも湯涌温泉のほか犀川温泉、深谷温泉といった温泉がある。金沢の中心部からちょっと足を延ばして、そうした温泉旅館に泊まってみたらどうだろう。

(金沢支局長 鉄村和之)

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