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旭山動物園、坂東元の伝える命

イルカ問題について 感情論ではなく世界の趨勢をみる

2015/11/6

5月はイルカ問題に揺れた日本の動物園水族館でした。マスコミもかなり取り上げていたので関心をもたれている方も多いのではないでしょうか?
「ドルフィンスタジアム」ではイルカのショーが見学できる(新潟市の新潟市水族館「マリンピア日本海」)

10年以上の議論を経て、世界動物園水族館協会(WAZA)は、日本動物園水族館協会(JAZA)が和歌山県太地町のイルカ追い込み漁から得られた野生イルカ類の導入を止めないことを重大な倫理規定違反だとして、会員としての資格を停止し、改善しない場合は除名するというものでした。WAZA理事会全会一致の決議とのことでした。

結果としてJAZAは、今後、追い込み漁から得られた野生イルカの導入をしない、と決議しWAZAに伝えました。

重ねられた議論

重大な違反だとする倫理規定は、WAZAの会員は残酷で手段を選ばない方法で自然界から動物(野生動物)を捕獲することを禁ずる、と言う規定です。WAZAとJAZAは、追い込み漁という手法から「野生動物であるイルカ」の捕獲導入をやめられないのか、別の捕獲方法を考えられないのか、飼育下での繁殖に取り組み、野生からの導入を軽減できないのかとの論点から議論を重ねてきました。

JAZAは生体導入目的の追い込み漁の手法を漁協(日本ではイルカは水産資源なので特殊な目的がない限り漁協をとおさずに生体導入はできません)など関係機関と協議し、さまざまな改善を図り、食料としての「追い込み漁」と水族館用の「追い込み捕獲」を分ける提案などを行ってWAZAとの協議を継続してきましたが、WAZAは根本的に「追い込み」という手法は変わらないので倫理規定違反だとの結論に至ったと考えられます。

イルカ漁を行う国や地域は世界中でもごく少数であり、イルカの捕獲自体を禁止している国はアジア圏も含め多いのですが、日本は法的にイルカ漁が認められているわけですから、WAZAはJAZAに対して「食糧資源としてのイルカ追い込み漁」を止めろとは言っていないし、日本の法律(日本はイルカを含む鯨類は重要な水産資源であり科学的根拠に基づき持続的に利用すべき、との基本方針の下合法的にイルカ漁が行えます)について言及していませんでした。

もちろんJAZAも食糧資源としてのイルカ追い込み漁は否定していません。追い込みによる生体捕獲の方法が、WAZAという任意の団体の倫理規定に触れたということです。

今回のイルカ問題は、太地の追い込み漁がキーワードになっているため、マスコミの反応や扱いは我々の想像以上に大きいものとなりました。日本の食文化や伝統のを否定といったとらえ方が目立ちました。

捕鯨に始まり、イルカ漁に対する明らかに間違っているとしか思えない過激な方法での妨害活動を受けたり、いわれのない批判を受けたりと、言い方やり方があまりにも一方的なので日本人としては感情的に反発したくなる状況が続いています。

イルカは陸上動物と違い、国境線がない海を生活圏にしているので諸外国から見るといわば地球共有のすばらしい野生動物が日本の領海内に入ると法律の下で殺されるから執拗に干渉してくるのかもしれません。欧米人を中心にクジラやイルカに対する親近感や感情移入は私たちの想像を超えたものがあるのは明らかで、人類ではない人と言った表現さえあるくらいです。

さらに欧米諸国は時代に合わせて倫理観や仕組みの変更を合理的に行い、正しいと思うことは激しく主張し、押しつけてくるようにも感じられます。そんな背景の中で、欧米が日本たたきをしているような構図ととらえられWAZAに屈したJAZAのような論調になってしまっているように感じています。

そもそもなぜ追い込み漁によって感情的にも対立してしまうのでしょう?ヒトは動物を動物学的な分類ではなく、知らず知らず感情で分類していることも一因となっていると思います。生活習慣、食文化、伝統、宗教などさまざまな背景から多様な分類が感情的に生まれます。同種の動物に対して抱く感情の違いは、国や地域、個人によって違うのは当たり前のことかもしれません。イルカもしかりです。そこから生まれる倫理観の対立はとても難しい問題になりかねません。

イルカを食糧資源として見れば、追い込み漁は効率のいい方法であり、水産資源として枯渇することがないように科学的に配慮して捕獲枠を設定しているのだから問題はないし、ほ乳類の命を奪うという視点からもできるだけ苦痛を与えないようにとの配慮をしているのだから問題はないでしょう。自分も給食でクジラ肉をおいしく食べていたので(分類上、大きければクジラ、小さければイルカ)食としてイルカを見ることに違和感はありません。

食用か飼育用か

イルカを食べる習慣は世界の中ではごく限られています。世界中の大多数の人は、イルカは知能が高く社会性があり、豊かな感性のあるほ乳類で野生動物だと感じるでしょう。追い込み漁で一網打尽にされるイルカを、ゾウやチンパンジーに置き換えてみたら皆さんはどう感じるでしょう?

無差別的に群れを捕獲する追い込みという手法が、母子関係など群社会への配慮、生態学的な配慮、血縁関係などの遺伝的な配慮、精神的な配慮に欠けると感じるのではないでしょうか。科学的にも倫理的にも慎重であるべきだと。さらに殺す段階でも母子など群れの仲間がいる中で網を絞られ自由を奪われ長時間にわたり順番に殺されていくために精神的、肉体的な苦痛があると感じるのだと思います。

つまり「食糧資源としてのイルカ」が主語なのか「野生動物としてのイルカ」が主語なのかで全く相容れない倫理観や感情が働くのだと思います。どちらも間違ってはいないと思います。しかし、感情論だけになってしまうと全く交わることはないでしょう。どこで妥協点を見つけるのかという視点や作業も必要なのだと思います。

動物園水族館は動物を食糧資源として飼育展示しているわけではありませんから、WAZAは野生動物としてのイルカを追い込みという手法で捕獲することを倫理規定違反だと指摘したのだと思います。

本来、水産資源、食糧資源として追い込み漁があるのだと思うのですが、水産資源として得られたイルカが水族館に持ち込まれると野生動物としてのイルカとして問われます。さらに飼育動物となりますから、もし水族館で飼育展示しているイルカを理由もなく殺処分して食べたとしたら間違いなく別の倫理観が働き、哺乳類ですから動物愛護法で問題になるでしょう。さらに輸出となると国際的には野生動物としてワシントン条約の付属書2表(※1)の動物となります。

追い込み漁での食になるイルカと、水族館に行くイルカは全く別の論点を持つべきです。伝統、食文化、法律、倫理がごちゃごちゃになり,全くかみ合わない感情論がいまだに展開されている印象を持ちます。

ショーの主役であるバンドウイルカは、少数の繁殖個体を除きほぼすべてが太地町の追い込み漁あるいは追い込み捕獲から得られた個体なので、水族館でイルカのショーができなくなる、イルカが見られなくなるといった意見も見られますが、僕はむしろ水産資源の中にレクリエーション要素も包括されているのかと違和感を覚えます。

追い込み漁の是非ではなく

イルカをどの立ち位置から見るかで見解も変わるし、働く感情も変わります。

世界的な大きな流れとしてイルカの飼育展示は国単位で規制や禁止をしたり、WAZA加盟園館では(1)今後新たなイルカの導入は行わない(2)新たなイルカの飼育施設の建設は行わない(3)飼育を継続するのも飼育下繁殖個体で維持していく――など、傷病獣として持ち込まれる保護個体は別として、飼育展示をしなくなる、自然に負荷をかけない方向にあります。絶滅危惧種かどうかに関わらず輸入を禁止している国や、繁殖個体でさえ輸出を禁止する国もあります。

WAZAがJAZAにここまで強い姿勢で挑んできた背景に、複数のいわゆるイルカ保護団体からの戦略的な圧力を受けていたことがあるのも事実ですが、WAZAもJAZAも動物園水族館の協会です。今回の問題の根本は、追い込み漁の是非ではなく、あくまでも国際的な感覚の中での日本の動物園水族館としての立ち位置が問われたのだと考えています。

坂東元(ばんどう・げん)1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

※ イルカ、クジラなど種名ではなく総称で記しました。国際法や国内法などで、種によってさまざまな規定があります。今回の文では、種を問題にはしていないのであえて総称で書きました。

※1 ワシントン条約「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」付属書2表(現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもの、商取引は可能、輸出国政府の許可が必要)

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