レコード、若者が魅力再生 手間をかけ聴く新鮮さ

2015/11/8
アナログレコード市場が急成長している。ネット配信で音楽を手軽に聴ける時代だが、若者を中心に手間をかけて音を聴く魅力やジャケット(外装)の良さが支持されている。
レコード専門店「HMV record shop 渋谷」では約8万点のレコードをそろえている(東京・渋谷)

静岡県に住む会社員、松永恵利奈さん(28)は昨年からアナログ盤を聴き始めた。好きなアーティストが発売したのがきっかけだ。ピアノとギターのデュオ、KONCOS(コンコス)のシングル盤を皮切りに、今春には5人組バンドのサカナクションのアルバム3枚を購入。所有枚数は現在約30枚に上り、1日約1時間、週5日程度聴いている。

インテリアに使う

レコードはA面とB面を裏返したり、針を置いたり手間がかかる。「『ながら聴き』ができないので、むしろしっかり聴ける。音もCDより味わいがある」と松永さん。

一方、東京都内の公立学校に勤める保延陽太さん(26)は1960~70年代の中古レコードを主に鑑賞する。2~3年前から聴き始め、自宅にロックやソウルなど400~500枚のレコードを持つ。「ジャケットが大きく、インテリアとしての価値もある。(ジャケット目当ての)ジャケ買いをすることも多い」

日本レコード協会によると2014年のレコード生産額は約6億8千万円で02年以来の水準に回復。15年1~9月は約8億2千万円と既に14年通年を上回っている。国内唯一のレコードプレスメーカー、東洋化成ではフル操業が続き、生産が注文に追いつかない状態だ。中古市場も拡大し、レコード専門店「HMVレコードショップ渋谷」の9~10月の中古レコード売上高は前年同期比約3割増えた。

市場拡大の契機は米国だ。2000年代後半、人気アーティストの限定盤が並ぶ祭典が開かれたのを機に毎年4月以降に各国で開かれ、世界的に需要が増え始めた。

そこに低価格のレコードプレーヤーが登場し、需要を喚起した。音響機器販売のインミュージックジャパンは昨夏以降、1台1万円前後のプレーヤーを相次ぎ投入した。従来は中古品を含め1台数万~数十万円が一般的だった。音楽大手ユニバーサルミュージックも1万円台のプレーヤーをデザイン家電会社と開発。購入希望者が相次いでいる。

人気歌手が発売

日本では山下達郎らがかねてアナログ盤を出し、最近は福山雅治、Perfumeなども発売。音楽の楽しみ方の選択肢を広げるのが主な理由で、人気アーティストのアナログ盤の増加は市場拡大の要因だ。

レコードはその大きさと雑音で音楽の主役をCDに譲った。ただCDは人間に聞こえる周波数帯の外の音を記録しない。富山大の安藤彰男教授(音響学)は「アナログ盤の可聴域外の音は聞こえないが、体に伝わるという学説がある」と指摘。その上で「それが心地よさにつながる可能性は否定できないが、さらなる研究が必要だ」と話す。

近年の音楽市場は全体的に縮小傾向にあるが、音楽配信市場が定額制などで再び拡大している。そんな中、今なぜレコードが人気なのか。大妻女子大の小泉恭子教授(音楽社会学)は「音楽の起源は宗教的儀式にある。ネットで簡単に聴ける時代だからこそ、ひと手間かけるレコードの儀式性が重視される」と話す。

携帯電話などで聴く音楽は形に残らない。「形あるものとして所有したい欲望がレコード人気の背景」とみるのは立教大の井手口彰典准教授(音楽社会学)。音楽の歴史は所有の歴史。古くは王宮が楽士をかかえ、近世は楽譜が所有の対象となり、20世紀はレコード、CD。「レコードとCDの違いはジャケット。部屋に飾ったり自慢したりするのにCDでは物足りないと考えられる」と分析する。

音楽配信市場の拡大が音楽の歴史を呼び覚まし、レコード人気の再燃につながったのかもしれない。

どんな音だろう?かけ方って? そもそも知らない人も多く

ツイッターでは、アナログレコードを支持する声が書き込まれていた。「再生音域の豊かさに脱帽」「最近アナログレコードばかり聴いている。たまにCDを聴くと音がまとまり過ぎていて物足りない」のほか、「アナログレコード聴いたら曲順通り覚える」といったつぶやきもあった。

また、「部屋に飾るの今から楽しみ」「ジャケだけで買っちゃいそうになるのもある」とレコードジャケットの魅力を指摘する声もあった。

一方、「アナログレコードって何?」「針落として聴くやつか」「どんな音なんだろう」のほか、「かけ方わからんわ。一回もやったことない」という全く知らない世代も目立った。また「プレーヤーがない」「実家に持って帰れば再生できそう」と身の回りに聴く環境がない人も散見された。この調査はホットリンクの協力を得た。

(福士譲)

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