北斗晶さんの告白から学ぶ 乳がん検診の受診ポイント
北斗晶さんからの「検診を受けて!」のメッセージを受け、乳がん検診を予約する人が増えている。一方で、「毎年乳がん検診を受けていても、こんなことが起こるの?」との不安の声も。今後私たちは、どのような乳がん検診を受ければ早期発見できるのか。日本乳癌学会の理事長で、昭和大学医学部乳腺外科の中村清吾教授に聞いた。
どんな検診にも100%はない
まず、北斗晶さんが毎年マンモグラフィー検診(以下、マンモ)と超音波検査を組み合わせて受けていたにもかかわらず、約2cmのリンパ節転移もある乳がんが発見された点について中村教授は、「実際、彼女の詳しいデータを見ているわけではないのであくまで推測だが…」と断ったうえで、「北斗さんのような乳頭直下に腫瘍がある場合は、検診で見つかりにくい場合がある。また、腫瘍が乳房の外側上部に広がっている場合は、わきの下のリンパ節に転移しやすいともいわれている」と話す。
さらに続けて「逆にいえば、北斗さんは毎年検診を受けており、自分の体に関心を持ち、乳房の様子をチェックしていたからこそ、約2cm段階の腫瘍で発見できたと考えることもできる。どんな検診にも限界があり、100%はない。その点、乳がんは自分で触って分かるがん。だからこそ、定期的に画像検診を受け、併せて普段から自分の体や乳房に関心を持って自己検診を行うことも大切。常に自分でチェックしていれば、小さな異変に早い段階で気がつくことができる」と強調する。
現在、日本の乳がん検診は、40歳以降2年に1回のマンモ+視触診が推奨されている。しかし、日本乳癌学会の2015年版の乳癌診療ガイドラインでは、50歳以上のマンモ検診の評価をAからB[注]に1ランク下げた。また今後、超音波検査を組み合わせるかどうかの有効性を検討中。というのも、マンモでは乳がんが見つかりにくい乳房が日本女性に多いことが分かってきたからだ。
マンモでがんが見つかりにくい乳房は、高濃度乳房(デンスブレスト)と呼ばれ、乳腺が密集しているためマンモで真っ白に写り、仮にしこりがあっても乳腺に隠れて見えない場合がある(下写真)。特にアジア人に多く、日本女性の約70%はこれに当たるともいわれる。
「高濃度乳房」かどうか確認を
米国では高濃度乳房の女性が約40%といわれるが、マンモ検診受診者が高濃度乳房の場合、医師は受診者にそれを告知する義務があり、それを怠ると罰金刑を伴うとの法律が24州で法整備されている(15年10月現在)。
「現在、昭和大学では年代別に高濃度乳房の人がどんな割合で存在するのか詳しいデータを調査中。結果によって今後の乳がん検診のあり方を考える必要性があると思っている。少なくとも、女性たちが現状できることは、まず、自分が高濃度乳房かどうかの情報を知ること。自治体検診などで結果しか書いていない場合は、医療機関に問い合わせてほしい。もし高濃度乳房なら、従来のマンモに超音波を加える検診を受けたほうがいい」と中村教授は薦める。
START:まず自分の乳腺濃度を医師に確認
乳腺科クリニックで検診を受ける場合、結果を聞くときはマンモ画像を見せてもらいながら、高濃度乳房かどうかの確認を。マンモバス検診のように結果がレターで届くような場合は検診先に問い合わせ、自身の乳腺濃度が4段階(高濃度、不均一高濃度、乳腺散在、脂肪性)でどのクラスかを確かめて。
(1)脂肪性、乳腺散在で、マンモで見やすい乳房なら
従来通り40歳以降マンモを2年に1回でOK。ただし自覚症状がある場合は、次の検診まで待たず乳腺科を受診。血縁に乳がん、卵巣がんの人がいる場合も同じ。
(2)高濃度、不均一高濃度乳腺でマンモでは見えにくい乳房なら
従来のマンモ検診は2年に1回行い、超音波検査をその間の年に挟んで併用する。あるいはマンモと超音波を2年に1回併用する方法でも。高濃度、不均一高濃度であっても石灰化はマンモでしか見つけられないため、マンモは受けたい。
(3)血縁者に乳がん、卵巣がんの人がいるなら
乳がん、卵巣がんの血縁者がいる人は、アンジェリーナ・ジョリーさんのような遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)のハイリスクの可能性が。HBOCが疑われる人は乳がん患者の5~10%。心配ならがん拠点病院などで行われている遺伝カウンセリングで相談を。状況によっては通常の検診にMRI検査の併用などが薦められることも。
この人に聞きました
昭和大学医学部乳腺外科教授、昭和大学病院ブレストセンター長。乳腺外科医。日本乳癌学会理事長、NPO法人日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)監事、NPO法人日本HBOCコンソーシアム理事長。日本の乳がんの検診、診断、治療の第一人者
(女性医療ジャーナリスト 増田美加、構成 黒住紗織)
[日経ヘルス2015年12月号の記事を再構成]
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