参加者8年目で倍増 「ワインツーリズムやまなし」
仕掛け人、大木貴之氏に聞く
山梨県甲州市や笛吹市などで11月7~8日、「ワインツーリズムやまなし」が開かれる。参加者が自分たちで行動スケジュールを考え、ワインが造られる地域を自らの足で体感する。ぶどう畑のある地域をぶらり歩き、たどり着いたワイナリーの無料・有料のテイスティングでお気に入りのワインを探す、楽しいイベントだ。参加者の数も2008年の開始当初の2倍になり、地元への経済効果も大きくなってきた。総合プロデューサーの大木貴之氏に聞いた。(聞き手は村野孝直)
――ワインツーリズムを始めたきっかけを教えてください。
「ワイナリーを応援しようという気持ちだけではありません。自分たちがどう生き残ろうかと考えました。地域にマーケットをつくっていかないと、僕らの生活は成り立たないのです。お酒は20歳からなので、子供の頃から食育してとか何年も待てません。交流人口を増やして全国から呼ぶのがベスト。そのためには何ができるか。ワインという売りを生かす方法を考えました」
生産者との近さが山梨の武器
――初回が08年。その前に準備期間がありました。
「15年前に甲府市内に飲食店を開いた当時は市内で甲州ワインを飲んでいる人はほとんどいませんでした。地元の人も意識していない。理由は簡単で、『おみやげ』だからです。普段、出す店もないのでうちの店で置きました」
「最初は小冊子を作りました。甲州ワインの『安くてまずい』というイメージをがらりと変えたかったのです。1冊800円です。なぜ山梨でワインを造るのか。作り手の思いをまとめ、出版社にも営業にいきました」
「07年に『ワイナリーマップ』を作成しました。地域の名所や旧跡などいろいろ盛り込みました。500円で販売してお土産としての需要を狙いました。次に取り組んだのがワインフェスです。ワインのイベントというとホテルで開くといったハードルが高いイメージがあります。ビアフェスのように気軽に来られるようにしました。作り手にも畑にいった帰りのままで来てくださいとお願いしました。あえて狭い会場で密集感を出し、参加者に『山梨ワインって勢いがあるな』と思わせました。生産者との近さが山梨の武器ですが、それまではほとんど交流がありませんでした。生産者も飲んでいる人の声を聞いたことがなかった。産地ならではの話を聞いて感触を探る。このおもしろさに生産者と消費者が気づき、ワインフェスが盛り上がりました」
参加者、サービス提供できる人数に限定
――ワインツーリズムは初回から順調に規模を拡大しています。
「初回は勝沼のある甲州市だけで参加ワイナリーは30でした。1日のみ開催で1284人が参加しました。参加者数は順調に増えていきましたが、お子さんや別の目的で訪れたお客さんも含まれるなど増えすぎるようになりました。あまり増えるとパンクします。12年から参加費を2倍にし、1500人限定にしました」
「徐々に増やしていき、14年に2000人限定、今年は2500人限定にしました。人数ありきではありません。よく『1万人の町に観光客が5万人訪れて大成功』といいますが、キャパシティーが40人の店には40人来ればいいんです。キャパシティーにあう数だと、きちんとサービスできます。生産者とお客さんがコミュニケーションをとって、お客さんたちの次の訪問や消費につながってくれるかが勝負です」
――地元経済への波及効果は出ていますか。
「目に見えて地域を歩く人が増えています。雑誌でも特集が組まれるようになりました。これまではありえなかったことです。大月短期大学の佐藤茂幸教授の論文によると、1回のイベントで生産誘発効果が7400万円。結果としてワインツーリズムを中心とした地域ブランド力の強化で年間で1、2次の生産誘発効果が合計で30億8000万円だそうです。この論文は12年のイベント時の測定なので、今はエリアが広がっているのでもっと増えています」
「効果を実感するのがまずホテル。イベント当日はいっぱいになります。早くから予約が埋まっているようです。来場者は東京、神奈川、千葉、埼玉からで半分くらいを占めます。年齢層は30歳代、40歳代で64%。甲府や石和温泉に宿泊する人が多いです。2日間共通のチケットにしているのは地元にお金を落として欲しいという思いからです。いかに滞留し、地元とコミュニケーションをとってもらうかです。オプショナルツアーで2万6000円のディナー・宿泊付きプランが完売となるなど高額プランも好調です」
地域に足りないのは「人」
――地域の人口減に強い危機感を持っていますね。
「いま、地域になにが足りないか。人が足りないんです。モノを作っている人はそんなに感じない。東京で売ればいいから。我々のような商売している人には土地から逃げられません。この問題とがっぷり向かい合わないといけないのです」
「地場産業であるワインは武器です。それを活性化させたい。いいワインを造ろうとワイナリーはがんばっています。原料にもこだわる。でも、いいブドウでワインの品質が上がったからといってマーケットが広がるかは別の話です。ファンを増やすための接点をつくらないと。ここが日本全体のボトルネックだと思います。ワインを楽しむ人たちを増やし交流人口を増やす、お酒を飲んで泊まっていく、内需を拡大させていく。こうすることで生き残っていけます。ワインツーリズムは日々の問題解決のための企画です。自分たちが当事者だから取り組んでいます」
ワインツーリズムやまなし
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