映画「エベレスト 3D」 日本人女優が語る撮影秘話出演の森尚子さんに聞く

11月6日公開の映画「エベレスト 3D」。世界最高峰のエベレストで1996年に起きた大量遭難事故を題材にしている。日本人登山家、難波康子さんを演じるのがロンドン在住の女優・森尚子さんだ。寒さや高山病に悩まされる過酷なロケ、役作りの難しさなどを振り返ってもらった。

「エベレスト 3D」のあらすじ 1996年に起きた実話を基にした。ニュージーランドで登山ガイド会社を営むロブ・ホールの率いる登頂ツアーがネパールに到着したところから始まる。エベレストのベースキャンプ(標高5334メートル)で約1カ月間入念な準備を整えたあと、はるか3500メートル上の頂上を目指す4日間の冒険に出発した一行は、別のツアーと協力体制を組みながら順調に第4キャンプ(標高8000メートル)まで登っていく。しかし、ついにやって来た頂上アタックの日、固定ロープの不備や参加者の体調不良などでスケジュールが狂い、下山が大幅に遅れてしまう。さらに未曾有の嵐の接近で急激に天候が悪化。デス・ゾーンで散り散りになった登山家たちは、ブリザードと酸欠との過酷を極めた闘いの中で個々の生き残りの能力を試されることになる。果たして全員が無事にキャンプまでたどり着けるだろうか?
「脚本の制約がある中、難波さんをどうアピールするかを考えた」と話す森さん

森さんに今作の出演オファーが来たのは2013年の6月。韓国でミュージカルの舞台に出ていたときだ。事務所から読んでくれ、と渡された台本だったが、「疲れていたし、2~3ページ読んで寝ようかなと思っていた。でも、内容に圧倒され眠れなくなったんです」という。当時、そういう事故があったということは聞いていて難波康子さんという人がいたのも分かっていた。「悲劇的な事故だったので心が痛みました。本を読み終えてリサーチを始めて、やらなくてはと思いました」

2013年12月にロンドンで出演者が顔合わせした。監督は出演者に「リアルに撮りたい。演技をせず、反応してほしい」と話した。覚悟はできていたが、高度順応のトレーニングで気圧を落とすタンクに入ったときに「すごいことになるな、と思った」。

現地ネパールでの撮影は体力勝負になる。登山メンバーで女性は森さん1人だ。撮影入りを前にどんなトレーニングをしたのか。スタミナをつけるため、大きなバックパックに30キロを優に超えるダンベルを入れて坂や山、丘を長時間歩いた。

トレーニングを積んでいよいよ現地入り。「ネパールの撮影は女性一人だったのですごく緊張した」と話す。カトマンズを出て、エベレストのネパール側登山口のルクラに到着。そこからは出演者は各自、衣装のままトレッキングして歩くしかない。「車もない。体力的にもついて行けるか緊張した」。最初は高山病も平気だったが、さすがに高度3400メートルくらいからきた。「夜に無呼吸になったのが怖かった。高山病の症状の一つらしいです」

早朝3時に起きて4時半に出発するスケジュール。スタッフ、キャストそろってロケへ出かける毎日が続く。ルクラとナムチェバザール(標高3440mに位置する、ネパール・クンブ地方最大の集落でヒマラヤ登山の拠点)の間にある高いつり橋を渡る際、足がガタガタ震えた。このつり橋でハプニングがあった。荷物を運んでいたヤクが撮影のためのヘリコプターの音で驚き、橋の真ん中にいるときに突っ込んできた。みんな転んだ。

撮影3日目のことだ。カメラの設置を待っていたときに、後ろから「あっ、難波」と声がかかった。振り向いたら日本人の登山家の方がいた。バックパックの後ろに漢字で「難波」と書いてあるのをみつけたのだ。映画の撮影をしていると話をして聞いてみると、彼らは難波さんの知り合いという。「難波さんからのメッセージなのでしょうか」。不思議な偶然に驚くとともに、改めて気を引き締めた。

ロケの舞台がイタリアの東アルプス・ドロミテ地方に移っても過酷だった。オーストリア国境の氷河のある場所。気温マイナス31度のなか、毎日12~14時間の屋外での撮影だった。雪崩でセットが埋もれたり、カメラ機材が壊れたり・・・。スタッフで凍傷になった人もいた。まつげとか髪の毛は凍る。メークでない。出演者の息切れもすべて本物だ。

実在した難波さんを演じるにあたって役作り、気持ちの入れ方はどうだったのか。難波さんはメディアにはあまり出ていない人でスポンサーもつけずにやっていた登山家だ。情報は少なかったが、事故時の登山のガイド役で今作のアドバイザーを務めたガイ・コター氏に話を聞いたほか、難波さんの日記や夫宛てのファクスを読んだという。

難波さんは当時47歳で日本人女性2人目となるエベレスト登頂に成功し、7大陸最高峰に登頂した。「日本人として誇るべき方。この映画はいろんな登場人物が関わっているアンサンブル映画で、それぞれの皆さんのストーリーをお見せできないところがあるが、難波さんのことをちょっとでも知っていただければと思う」と話す。脚本の制約があるなか、彼女をどうアピールできるかを考えた。「情熱的な方だったと思います。ぜひともお会いしたかった」

森さんは今作で日本人登山家の難波康子さんを演じた (C) Universal Pictures

強く印象に残っているのが登頂のシーンだ。「あれはやっぱり不思議な感覚でした。なんか、あの登頂のシーンってなにか違ったんですよ」。この話をしながら、当時を思い出したのか、森さんは涙ぐんだ。「何をしたのか分からなかった。シーンにはまっちゃって、台本にもなかったことを言ってしまった。本当に登頂したという感覚だった」と振り返る。そのセリフはアドリブだったのだ。普段は演じる際にカメラの角度を意識するが、今回に関しては真っ白だったと話す森さん。自分を見失うほど、力の入る役、シーンだったのだろう。

台本が来る3カ月前。「ビッグチャレンジがしたい」とお願い事をしたという。「そうしたら、こういうものが来た。気をつけないと」と笑う。「チャレンジが好きなので、つらいときも感謝の気持ちでいっぱいでした」と前向きだ。

最後に今後、やってみたいことを聞いた。「いっぱいあります。日本でお仕事がしたい。前々から日本に対しての憧れがあり、やっぱり日本がいいなあと日に日に思います」。

「エベレスト3D」は11月6日からTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー。

(村野孝直)

もり・なおこ 商社マンの父の仕事の関係で12歳からロンドンに住み、演劇の勉強を始める。17歳の時、「ミスサイゴン」の主役キム役に抜擢され、日本人初のウェストエンド主演を果たす。エミー賞受賞のドキュメンタリードラマ「ヒロシマ」(BBC/TBS)で被爆者・平塚シゲを演じ、2010年、ジョン・レノンの伝記テレビ映画「ジョン・レノンの魂」(BBC/NHK)で、オノ・ヨーコ役を演じた。BBCの人気ドラマ「秘密情報部トーチ・ウッド」にレギュラー出演。
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