共通項は「こだわり」 流行生む、ちょっと高いモノ日経BPヒット総合研究所 品田英雄

日経BPヒット総合研究所

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エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今回のキーワードは「主力ではないが売れている高額品」です。割安なものが氾濫するこの時代に、なぜ、高額なものが受けるのか。その秘密に迫ります。

最近、主力商品ではないところで高額のモノが売り上げを伸ばしている例がいくつもある。ビール、メガネ、音楽。一見、関係の薄いヒット商品の共通項は何か――。

【非主流:その1】ビール→クラフトビール

ビール大手5社の2015年7~9月期のビール出荷量が11年ぶりに伸び、5871万ケース相当になった(1ケースは大瓶20本換算)。伸び率は0.3%。だが発泡酒や第3のビールを含んだ「ビール類」全体では2.5%減で、5年連続で過去最低となっている。

その中にあって、シェアは1%程度だが、着実に成長しているのがクラフトビールだ。

クラフトビールとは小規模な醸造所で作られたビール。原料や製造法にこだわり、味も個性的なのが特徴だ。クラフトビールの販売額は約10年前の2006年は307億円だったが、2015年は383億円になるとの予測もある(富士経済調べ)。

全国には現在、約200の醸造所がある。よく知られているのが、「よなよなエール」などを販売している長野市のヤッホーブルーイング、「常陸野ネストビール」の茨城県那珂市の木内酒造、川越市で「コエドビール」を作るコエドブルワリーなど。地方発のビールとして定着し、国際的な評価も高まっている。

世界12カ国で飲まれるようになった「コエドビール」

人気の理由をコエドブルワリーの朝霧重治社長は「1990年代に地ビールブームにのって全国で誕生した頃には、技術が追いついていなかった。それが技術を改良し、その土地ならではのうまいビール作りに成功したが大きい」と説明する。コエドの「紅赤」は川越の薩摩芋を使い、赤みがかった琥珀色と香ばしい甘味が特徴で、モンドセレクション最高金賞はじめ数々の国際的な賞を受賞している。

コエドビールが運営するレストラン「香麦(シャンマイ)」。クラフトビールには飲食施設を併設したところが多い

こうしたクラフトビール人気を受けて、百貨店や高級スーパーでもクラフトビールを扱うところが増えている。1本(350ml前後)で300~500円と、ナショナルブランドに比べて、価格は1.5~2倍もするのが普通だが、その人気はさらに広がりそうだ。

【非主流:その2】眼鏡→ラグジェアリーフレーム

眼鏡の市場は1996年頃に6000億円規模と言われたが、その後減り続け、2009年には4000億円を割り込むまでになった。それが2014年は前年比103%の3628億円で4年連続のプラス成長になっている(矢野経済研究所調べ)。

大きく伸びた要因はJINSやZOFFなど新しいノウハウを持ったメーカーのがんばり。軽いフレームやブルーライトをカットするレンズなど最新技術を使って商品を開発、マスメディアで広め、格安(下は5000円台から)で販売している。

そうした派手な宣伝とは関係なく、人気を高めているのがラグジュアリー・フレームと言われる高級フレームだ。天然素材や金などを使って、繊細に仕上げた高価格ものだ。

左は、近年大ヒットした「OLIVER PEOPLES OP-505」。中央は、精巧な作りと時代感覚のバランスが支持された「EYEVAN7285 308」。右は、職人がタイマイの甲羅を丹念に重ね合わせて作るべっ甲フレーム「Yellow Plus×大澤鼈甲」(提供:コンティニュエ)

「高額でも納得できるものを選ぶ人が増えている」と語るのは恵比寿等で眼鏡のセレクトショップ「コンティニュエ」を経営する嶋崎周治代表取締役。同社の売り上げは前年比で約4割伸びているという。

こだわりというと、これまでは男性が中心だったが、「精巧でディテールにこだわった作りを好む女性が急増している」。大手百貨店でも数十万円するべっ甲のフレームが売れているという。

これまで高級眼鏡というとスーパーブランドのロゴ入りフレームを思い浮かべることが多かったが、小規模で手の込んだ製品を好む人が確実に増えている。

【非主流:その3】音楽→ジャズ

音楽業界の主流は相変わらずJ-POPで、嵐やAKB48、SEKAI NO OWARIなどが、CDでもライブでも人気を誇る。

だが、このところ20代、30代から注目されているのが、ロバート・グラスパーやスナーキー・パピーなどの新しいジャズだ。

マイケル・ジャクソンやレディオヘッドも好きというロバート・グラスパー((C)Don Q. Hannah)

この2組は2015年9月に横浜で開かれた「ブルーノードジャズフェスティバル」に出演している。

グラスパーはヒューストン出身のピアニスト。彼とグループの演奏は優れたテクニックをもちながらも、普通はそれを抑えてゆったりと演奏しつつ、一転して超絶技巧になったりする。ラップやロックとも積極的にコラボし、2012年にはグラミー賞の最優秀R&Bアルバムを受賞した。

スナーキー・パピーは、マイケルリーグを中心に2004年にテキサスで結成されたグループ。メンバーは30名前後と大所帯で、流動的に演奏に参加する。ジャズとファンク、ダンス、フージョンを融合した音楽だ。2014年のグラミー賞ではボーカルをフーチャーした楽曲で最優秀R&Bパフォーマンスを受賞している。

両者とも生にこだわり、ライブの人気が高い。特にスナーキー・パピーは年間で200公演以上をこなす。レコーディングもスタジオに観客をいれ、ライブのようにして録音している。音楽をタダで聞ける時代に、ライブの入場料はとても割高に思える。だが、デジタルな音楽が主流になる中、極めて人間的な音楽に若い世代がおカネを払うようになっている。

現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するスナーキー・パピー

ビール、眼鏡、ジャズの共通項は

この3つの人気モノに、以下のような共通項がある。

1. 効率的な大量生産ではない。

2. 作り手のこだわりがつまっている。

3. 伝統的な手法や要素に新しさを取り入れて生み出されている。

景気が良くなっているかどうかは判断が分かれるが、企業の業績は良くなりお金持ちは確実に増えている。

消費の主流ではないが、おカネと心に余裕のある人たちが欲しがるものは、高額かも知れないが、手間がかかっているものだ。今、こうした商品が新しい流行を生みつつある。この流れは商品開発の参考にもなりそうだ。

品田英雄(しなだ・ひでお)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。日経エンタテインメント!編集委員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンタテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人を経て編集委員。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。
[参考]日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。