「カワイイ」ロリータ世界が装う 米国現地から報告NYファッション研究所・特別編

サブカルチャーから生まれるファッションは、世間に認知されるまで、あまりの奇抜さや斬新さから、時に反社会的と見られたり、敬遠されたりすることも多い。たとえば英国のパンクファッションがそうだ。そして日本生まれの「ロリータ・ファッション」も、その系譜に連なるかもしれない。米国コネティカット、ニューヨークで10月開かれたイベントの現場から、ニューヨーク州立ファッション工科大学教授の川村由仁夜さんが報告する。
2009年に外務省が「カワイイ大使」に任命した青木美沙子さんは、ロリータ・ファッションに憧れる世界中の女性にとってお手本だ(写真提供:青木美沙子)

ロリータ・ファッションとは英国のビクトリア王朝時代(1837~1901年)の貴婦人をイメージしたスタイルを日本的に解釈したファッション。基本的な形はシンプルだが、スカートの膨らませ方、プリント柄、レースやリボンなどのディテール、小物やアクセサリーの合わせ方などに特徴がある。

女の子らしさ、かわいらしさを強調するスタイルは1970年代から存在するブランド「MILK」などにも見られたが、「ロリータ」という名称が浮上したのは90年代後半から2000年に入ってからだ。日本での人気は一巡しているが、一時期、原宿駅の横の神宮橋にはロリータ姿の女の子達が毎週末、群れをなした。ロリータの女の子が主人公の映画「下妻物語」(04年)が英題「Kamikaze Girls」として06年に字幕付きDVDで発売されたのをきっかけに、海外でのロリータ人気に拍車がかかったようだ。

私が日本のサブカルチャー研究をしていた時に出会った東京のロリータの女の子たちは「世の中に何かを伝えたいとか、今の日本社会を変えたいとか、そういう特別な意識はない」と異口同音に話した。しかし日本から生まれたお姫様風のロリータ・ファッションは、西洋伝統の理想の女性像と美意識を崩せるぐらいの力強いメッセージを持ち合わせ、米国内での人気が急速に広がっている。さまざまなファッション関連のイベントやコンベンションなどで話した米国人の女の子たちの中には、筋金入りのロリータ・ファンが数多くいた。

写真説明の見方 (1)名前(2)ロリータ・ファッションの系統※(3)川村氏の解説(4)本人のコメント、プロフィルなど。
※「クラシカル」はクラシカル・ロリータ、「スイート」はスイート・ロリータ(甘ロリ)、「ゴシック」はゴシック・ロリータをそれぞれ略した。
写真提供、川村麻夜/NY Fashion Research Company
1)アレックス(2)クラシカル(3)胸の下に切り替えがあるベビードール風ドレス。全体を中間色とピンクでコーディネート(4)凝ったディテール柄がお気に入り
(1)エリ(2)クラシカル(3)友達ジョアナとおそろいの柄でブルー系にまとめた双子ロリータ(4)お城のプリント柄に合わせて、頭にティアラを載せたお姫様ルック
(1)ジョアナ(2)クラシカル(3)エリと同じ柄で薄めの色味のブルー。小物の使い方で個性を表現している(4)大きなダイヤ柄のストッキングも色違いでおそろい

最近の流行であるベビードール風のロリータ・ドレスは、胸の下の切り替えにギャザーが入っているため、ルースな(ゆったりとした)シルエットだ。ウエスト部分に絞りがなく、身体の線を強調しないですむ。ロリータ・ファッションでは過度な肌の露出や、膝丈より短いスカートなどもご法度だ。

(1)タネイヤ(2)スイート(3)光沢のある素材に、ベビードール風のシルエット。短めの丈は同系色のタイツでカバー(4)全身花柄のコーディネートがお気に入り
(1)ニルバナ(2)クラシカル(3)リボンのプリント柄のコートドレス。リボンの付いたバッグとベレー帽、全てリボンで統一。(4)「ビンテージ風なイメージが好み」
(1)アリエル(2)スイート(3)お菓子とぬいぐるみのプリント柄に合わせたコーディネート。(4)「クマのモチーフが大好き」。バッグや頭飾りにもクマを提げた

ロリータが目指す女性像は「カワイイ女性らしさ」であり、西洋で奨励され、美徳とされる「セクシーな女性らしさ」ではない。これが米国人の女の子たちから圧倒的な支持を得る理由のひとつだ。頭からつま先までピンク色のスイート・ロリータ(日本では“甘ロリ”とも呼ばれる)姿のアリエルさんは「アメリカにもカワイイ服やものはあるけれど、日本の水準には勝てない」と日本のカワイイ文化を絶賛する。

自分の体形に自信がなく、コンプレックスを感じている女の子にとっても、ロリータ・ファッションは味方となる。体形の悩みを解消してくれると同時に、自信を持ったすてきな女性になれる方法を提案してくれる「オルタナティブ(傍流)・ファッション」だからだ。

(1)シェリー(2)スイート(3)背中に伸び縮みするゴムシャーリングが入っている(4)ギンガムチェックや水玉など柄のすべてを甘いピンクと力強い黒でまとめた
(1)アレクサンドラ(2)クラシカル(3)スカートを大きく膨らましたバッスル風のシルエット。(4)「クラシカルにゴシック系のダークさを取り入れた」
(1)ローリー(2)クラシカル(3)素材の黒いバックグラウンドが、パステル調の花柄プリントのかわいさを抑え気味に。(4)「広がるルースなシルエットがお気に入り」

ロリータ・ファッションを身にまとう彼女らは「性格が変わった。もっと自信を持てるようになった」「頭が良くなった気分になる」「普通はシャイだけど、知らない人とでも話せるようになる」と前向きに話す。

ロリータは、いっときのコスプレでもなければ、単なる服でもない。大切なアイデンティティーであると同時に、ライフスタイルでもあるのだ。基本的にはたばこを吸わない、お酒もコーヒーも飲まない。「月曜日から金曜日までは職場で普通の服を着ているけれど、それが私にとってはコスチューム。週末にロリータのドレスを着ている時が、本当の自分なの」。クリスタルさんはそう語る。私は全く同じ言葉を、日本のロリータの女の子から聞いたことがある。

(1)カトリーナ(2)クラシカル(3)バッスルスカートでビクトリア王朝時代のムードを表した自作ドレス。(4)「同時代に対する興味の延長線でロリータを発見したの」
(1)ジャスミン(2)ゴシック(3)真珠や王冠のプリント柄。少なめのアンダースカートでゴージャス感を控えめに。(4)柄と同じ王冠を頭に載せたコーディネート
(1)セーラ(2)ゴシック(3)スカートを膨らませたバッスル風の全身真っ黒のロングドレス。別名「黒ロリ」(4)「ロングドレスはエレガントな気持ちになります」

お菓子やぬいぐるみなどのプリント柄に、ふんだんにフリルやリボンをあしらう。かわいらしさを最大限に表現するスタイルだが、決して男性の気を引く目的ではない。「ロリータはフェミニストのためのファッション」。みなそう言い切る。アンダースカートを数枚はいてスカートを大きく膨らませるロリータ定番のスタイルは、文字通り男性を寄せ付けない。「よろいを着ている感覚で、自己防衛している気分」という。

(1)クリスティーナ(2)クラシカル(3)お菓子柄のベビードール風ドレス(4)「チョコレート色と柄でまとめて『チョコレート・コーディネート』にするのが大好き」
(1)ジェイン(2)ミリタリー(3)軍服をロリータ風にアレンジしている。金のボタンやケープなどに特徴がある(4)「ミリタリー調は力強くて格好いい」
(1)レイチェル(2)パンク・ロリータ(3)ロリータのかわいらしさと、パンクの特徴であるコルセットの組み合わせ(4)「いろいろなジャンルを組み合わせるのが楽しい」

1970年代のパンクファッションの生みの親で、個性の強い服を発表し続ける英国のファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッド氏。

ファッションは少しでも自分を格好よく、美しく見せる手段だ。そのためファッションと美意識は切っても切れない仲だ。その美意識は、文化や時代によって変化していく。

1970年代半ばにイギリスでパンク集団が出現した。破れたジーンズやTシャツを着て、安全ピンやチェーンをアクセサリーとして使い、レインボーカラーに染めた髪の毛をジェルで立たせ、威圧感を表現した。当初は反逆児と見られ邪魔者扱いだった彼らのファッションが、40年たった今でも世界中で根強く存在し、確立したファッションの1ジャンルとして認知されている。

80年代に世界のファッション界を揺るがした「コムデギャルソン」の川久保玲さんや「ヨウジヤマモト」の山本耀司さんもそう。芯地や裏地を付けずに厚手のウール地をドレープして作ったコートなど、当時の常識では考えられない服を発表して物議を醸した。それも今は「デコンストラクテッド(非構築的な)・ルック」として定着している。

米国だけでなく、世界中に広がりつつあるロリータ・ファッションにも、それと同様の勢いと迫力がある。近い将来、確立したファッションの分野になるに違いない。

(1)ズィア(2)原宿デコラ(3)カラフルなワンピースに、カラフルな小物やアクセサリーでアクセント(4)日本のファッションは日本のアニメやマンガを通じて学ぶ
(1)ルーラ(2)ココキム系(3)木村優さんのブランド「KOKOkim」と増田セバスチャンさんの「6%DOKIDOKI」の組み合わせ(4)インドネシアで日本のアニメ漫画の影響を受けて育った
(1)ミッシェル(2)和テイスト(3)和服を取り入れたオルタナティブ(傍流)ファッション(4)茶道を習っているので和服に興味があり、自分流に工夫して着る

10月初旬にニューヨーク市内で開催されたコミック・コンベンションでは、日本のアニメやマンガ、ゲームが好きなコスプレーヤーが集結した(一例として下に画像を3枚紹介)。コスプレの対象は、憧れや、自分と重なる性質を持ったキャラクターだ。ヴァネッサさんは、ゲーム「ダンガンロンパ」に登場する高校生の腐川冬子が、「物静かで読書好きな性格が自分と似ている」と、日本のセーラー服を着ている。「日本の武道に興味がある」というアダムさんは、アニメ「アフロ・サムライ」の主人公「KUMA」のはかま姿だ。米国の若者をここまで魅了できるポピュラー文化やサブカルチャーは、世界中を探してみても日本以外にはない。

(1)ダニエラ(2)コスプレ(3)日本のアニメ「キルラキル」の主人公、纏(まとい)流子のメイドルック(4)「日本のアニメで一番好きな作品です」
(1)ヴァネッサ(2)コスプレ(3)日本のゲーム「ダンガンロンパ」の登場人物、高校生の腐川冬子(4)「物静かで読書好きな性格が自分に似ている」
(1)ブライアン(2)コスプレ(3)メイドルックなどの女装で大活躍の在日オーストラリア人レスラー、ヘビーメタルシンガー「レディビアード」(4)「正反対の要素がクリエーティブだね」

90年代に日本経済のバブルがはじけ、終身雇用制度に対する信仰が崩れ、それまでの価値観や規範が大きく変化した。時を同じくして、東京・渋谷や原宿では若者のサブカルチャーが次々と浮上した。職場や家庭などで得ていた絆や帰属意識が薄れた若者たちに、サブカルチャーは強い仲間意識と居場所を与えてくれる。そしてそれは日本だけでなく、世界中の若者が共感し、求めていることなのだ。

(ニューヨーク州立ファッション工科大学教授 川村由仁夜)