ビッグバンの決定的証拠 宇宙マイクロ波背景放射とは

2015/11/15
ナショナルジオグラフィック日本版

「太陽の120億倍、説明不能なブラックホール発見」「あり得ないほど塵の多い初期銀河を発見」など、宇宙の話題はいつもニュースをにぎわせてくれます。地動説や宇宙の膨張、ダークマターなど、大きな発見があると宇宙観まで覆されます。そんな宇宙に関する大発見について、「どうやって発見されたのか」「なぜその発見が重要なのか」を詳しく解説します。

テーマ:天球の全方向からやって来る弱々しい光。ビッグバンが起きていたことを示す決定的な証拠。

最初の発見:1964年、ペンジアスとウィルソンが宇宙マイクロ波背景放射を発見した。

画期的な発見:1989年から1992年、COBE衛星が宇宙マイクロ波背景放射を観測した地図を作成し、宇宙の大規模構造のもとを作ったといわれる宇宙のさざ波(揺らぎ)を発見した。

何が重要か:宇宙マイクロ波背景放射を手掛かりにすることで、ビッグバン直後の宇宙を知ることができる。

ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機(WMAP)が2003年に観測第1フェーズでとらえた全天の宇宙マイクロ波の分布。わずかな揺らぎがあることがわかる。(NASA/WMAP Science Team/Science Photo Library)

宇宙マイクロ波背景放射(CMBR)を発見したエピソードは、天文学の歴史のなかでも指折りに有名だ。1964年、ベル研究所に勤務していた2人の物理学者、アルノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが、電波天文学の観測で使う新しい高感度のホーンアンテナを点検していた。このアンテナは使うたびに、かすかだが途切れることのないノイズを記録していることに2人は気づいた。鳩が落とす糞(ふん)から発生する放射線も含め、この電波雑音の原因と考えられるものを根こそぎ調べたペンジアスとウィルソンの結論はこうだった。この信号は自然界から発生していて、全天のあらゆる方向から届いている。

ビッグバンが起きた後の残照

この電波天文学者たちが知らないことがあった。まさしく同じ頃に宇宙論学者たちがこのような信号を探し求めていたのだ。信号の正体は、ビッグバンが起きた後の残照だと宇宙論学者らは予測していた。ビッグバンから百億年以上たった今も、この高温状態の名残は星や銀河を超え、観測可能で最も遠い宇宙の果てからあまねく届いているはずだった。ペンジアスとウィルソンによる発見の噂は、すぐにプリンストン大学の物理学者ロバート・ディッケの耳に届いた。ディッケには、これが長らく探していた宇宙放射であることがすぐにわかった。

宇宙マイクロ波背景放射は、マイクロ波領域の短い波長で輝く電波。その放射温度は、低温の下限である絶対零度よりもほんの2.73℃高いマイナス270.4℃であることが示されている。これほどの低温になっているという事実からは、こんなことがわかる。

宇宙マイクロ波背景放射を発している物体が光速に近いスピードで地球から離れている間に、地球に向かってくる放射に赤方偏移が起こり、波長が伸び続けた(周波数が低くなり続けた、つまり低温になり続けた)のである。宇宙マイクロ波背景放射は、宇宙の「最後の散乱面」から発せられた。ビッグバンが起こってからおよそ40万年後、宇宙は低温になり、陽子と電子が結びついて中性の水素原子ができた。それまで荷電粒子に進路を阻まれていた光が、このときからまっすぐに進めるようになり、宇宙が晴れ上がった。宇宙マイクロ波背景放射は、このときに発せられた光だといわれる。宇宙が誕生した瞬間を私たちが観測できないのは、宇宙が晴れ上がる前の光をとらえることが不可能だからだ。

COBEのミッション

宇宙マイクロ波背景放射の発見は、ビッグバン宇宙論を支持する人たちに計り知れない勝利をもたらした、として一躍脚光を浴びた。だが、すぐに一つの問題が天文学者たちを悩ませることになる。

空の彼方からやって来るこの光は、のっぺりと平坦で、均一であるように見えた。あたかも火の玉が膨張し続ける間もずっと、亜原子粒子(原子を構成する素粒子)の放射圧が均一に保たれていたかのように思える。この放射は宇宙が誕生してすぐの姿を伝えていると考えてよいのだが、現在の宇宙はどう見ても、どこをとっても、均一ではない。銀河が一カ所に固まった銀河団や超銀河団が散在し、見たところ何も存在しない巨大な銀河ボイド(空洞)の周辺にはローカルシート(壁状構造)や銀河フィラメント(繊維状構造)もある。生まれたばかりのときにはつるりとしていた宇宙が瞬く間に形を変え、凸凹が随所にある大規模構造の宇宙に成長し、数十億年も昔に発せられた光を数十億光年離れたところに届けた――という説明ではとうてい説得力がなかった。

この疑問を解決しようと、1989年にNASAが宇宙背景放射探査機衛星(COBE、コービー)を打ち上げた。小型で超高感度のマイクロ波望遠鏡を搭載したCOBEのミッションは、大気圏外で活動し、数年間かけてマイクロ波の地図を作ることだった。1992年に発表されたCOBEの活動報告は世界中の新聞の一面を飾り、多くの疑問に答えを出した。

宇宙のしわ

だが、新たなる疑問も提示した。COBEの観測によれば、宇宙マイクロ波背景放射は均一どころではなかった。実際は、平均温度で10万分の1前後の温度ムラ、つまり「異方性」を示すさざ波(揺らぎ)に覆われていた。カリフォルニア大学バークレー校の主任研究員ジョージ・スムートと、NASAのゴッダード宇宙飛行センターのジョン・マザーは、後にスムートが「宇宙のしわ」と呼んで有名になったこの現象を発見して、ノーベル賞を受賞した。検知できたのはほんのささやかなものであったが、この温度ムラは、初期の宇宙が均一ではあり得なかったことを示すには十分だった。高温の領域には物質が固まり、低温の領域はあまり混み合っていないことが示されていた。宇宙のしわは宇宙誕生の頃から存在していて、現代見ることのできる超銀河団や銀河フィラメントや銀河ボイドを形作る種となった。

では、いったいこれはどこから発生したものなのだろう。できたばかりの宇宙から生じる強烈な放射が、広い範囲で物質を引きはがしていたのなら、答えは一つしかない。この物質の固まりは、ダークマター(暗黒物質)に違いない。この謎めいた物質は放射とはほとんど相互作用しないため、宇宙がまだ誕生したばかりの頃から不均一な固まり同士がくっつきあって大きくなっていくことができたのだ。宇宙が晴れ上がってからは、種としての準備を整えたダークマターの周囲に通常の物質もくっついていった。

WMAP、さらにその先

COBEが成功してからというもの、地上にある望遠鏡や気球に機材を搭載したいくつもの実験が、宇宙マイクロ波背景放射のごく狭い領域を詳しく調査した。2001年、より大きなミッションを担った人工衛星ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機(WMAP、ダブルマップ)をNASAが打ち上げた。WMAPは7年にわたって運用され、この宇宙の揺らぎを今までにない高解像度、高感度で測定した。その測定結果を現在受け入れられている宇宙進化モデルに当てはめたWMAPチームは、初期と現在の宇宙に関する数々の重要な特徴の数値を求めることができた。

宇宙背景放射探査機衛星(COBE、コービー)によって得られた歴史的な画像。超銀河団など宇宙の大規模構造ができた謎を解き明かす、宇宙マイクロ波背景放射のさざ波(揺らぎ)を初めてとらえた。(NASA/COBE)

この探査機のデータは、ハッブル宇宙望遠鏡が導いた膨張宇宙モデルと非常に近く、宇宙の年齢をだいたい137億年と推定した。また、現在の宇宙を構成するエネルギー比率については、「通常の物質」が4.6%で、あとはダークマター(暗黒物質)が22.8%、そして72.6%がダークエネルギー(暗黒エネルギー)であるとした。

一方、宇宙マイクロ波背景放射が放射された時代の宇宙の構成比率は、通常の物質が22%(ニュートリノ10%を含む)で、あとは電磁波15%、そしてダークマターが63%であるとし、明らかにダークエネルギーは無視できることが示された。

2009年に欧州宇宙機関(ESA)が、宇宙マイクロ波背景放射のより詳しい地図を作成するためにプランク宇宙望遠鏡を打ち上げた。宇宙論学者たちは今後も、宇宙誕生の謎がさらに解き明かされることを待ち望んでいる。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック『ビジュアル大宇宙 [上] 宇宙の見方を変えた53の発見』を再構成]

(参考)ビックバンから宇宙最初の星、個性あふれる恒星、銀河の不思議、ダークマター/ダークエネルギー、量子論まで、宇宙全般を網羅。ナショナル ジオグラフィック『ビジュアル大宇宙[上] 宇宙の見方を変えた53の発見』は古代の哲学者たちがとらえた宇宙の概念を中近世、そして現代の天文学者が変革していく様子を分かりやすく解説します。

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著者:ジャイルズ・スパロウ
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