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主夫、地域を変える PTAや町会に新風吹き込む

2015/10/26

 家事や育児の担い手となる男性、「主夫」のネットワークが広がっている。彼らは家庭を飛び出し、学校のPTA活動や町会などに新たな息吹を与え始めている。主夫が地域社会に与える影響を追った。

 秋晴れが広がる平日の午前10時半、東京・秋葉原のカフェに30~40代の男性6人が集まった。彼らの共通点は「主夫」。父親の育児参画を支援するNPO法人ファザーリング・ジャパン(東京・千代田)のプロジェクト「秘密結社 主夫の友」の定例会議だ。

「主夫の友」の定例ミーティング。会議はいつも平日午前中に開く(東京都千代田区)

 6月に本格的に活動を始めた。「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%に」という政府目標にちなみ、「20年までに男性の3割を主夫に」と唱えて主夫のイメージアップに貢献する人を表彰する「主夫の友アワード」などのイベントを開く。「男性の生き方も家族のあり方も多様でいいと伝えたい」。主夫の友の最高経営責任者(CEO)の堀込泰三さん(38)は狙いを明かす。

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 堀込さんは主夫歴8年の「兼業主夫」だ。翻訳の仕事をしながら、研究者の妻(39)と小学生の長男(8)、保育園に通う次男(4)の食事の準備、塾の送り迎えなどを担う。

 東京大学の大学院を卒業後、自動車メーカーで技術職として働いた。07年に長男が生まれ、任期付きの仕事で育児休業が取れない妻に代わって育休を取った。その後妻の米国赴任で渡米し、2年の育休が終わった09年に退社した。

 11年に帰国すると、ブログで自らの兼業主夫生活をつづり始めた。地域の子育てサークルをつくり、ネットワークを広げてきた。

 今年から長男の小学校のPTAの役員になった。「堀込さんが入って、PTAの雰囲気がガラッと変わった」と一緒に役員を務める女性(43)は話す。「ルールを変えたり新しいことに挑戦したりできない雰囲気だったが、堀込さんが自然体でいろいろ提案してくれるので、皆が自分の考えを言うようになった」

 運動会では奔走する堀込さんを見て、後片付けに手を挙げる父親が増えた。一人の主夫の存在が、様々な変化を生んでいる。

 「主夫の友」で広報を担当する杉山錠二さん(38)は長女が保育園のとき、アパレル会社に勤める妻に「主夫になる」と宣言した。兼業主夫シナリオライターとして、家事をこなし2人の娘を育てる。

 長女の小学校と次女の保育園では父親同士が交流する「パパ会」をつくった。いずれも20人ほどが参加し、運動会やクリスマスパーティーなどの行事を学校や保育園と協力して盛り上げる。地域の町会に顔を出しているうちに、地元の人とも親しくなった。「50代、60代が中心の町会の人たちと、若いパパ世代の交流を深めたい」と話す。

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 男性の地域活動参画に詳しい国立女性教育会館の飯島絵理研究員は「男性の参画が進む地域には、キーパーソンの男性がいることが多い」と指摘する。「地域活動参加のきっかけを調べると『同性の人に誘われて』がトップ。中心となる男性がいると参画しやすくなり、学校や行政がうまくかかわれば活動は広がりやすくなる」と話す。

 「孤立していませんか?」「ネガティブな気持ちになっていませんか?」。ホームページ上でメッセージを投げかけるのは子育て主夫ネットワークの「レノンパパ」だ。都内に住む兼業主夫・浅田直亮さん(57)が主夫仲間とともに11年に始めた。

 IT企業に勤める妻(43)と長男(8)の3人家族。妻が育休を終え仕事に復帰すると同時に主夫に。理由は「妻との収入の差」。現在は週2回、シナリオ学校で講師をする。

 ママばかりの環境に強い孤独感を感じていたとき、地域の子育てサークルの幹部から同じ沿線に住む主夫を紹介された。「主夫という立場を分かり合えると、こんなに楽なのかと感じた。自分のような思いをしている人が、いろんなところにいるのではとも思った」。孤独な主夫たちをつなぐため、2カ月に1度、都内で交流会を開く。

 つながり合い、発信を始めた主夫たち。家族社会学が専門のお茶の水女子大学の石井クンツ昌子教授は「主夫という生き方が一般に浸透するのは難しいが、男性でも家事や育児を担えるということ、多様な夫婦の形があることを示すことに意味がある」と話す。

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■10年で4割弱増加

 夫が家事や育児を担い、妻が主たる稼ぎ手になる例は増えている。主夫の数を正確にとらえるデータはないが、公的年金の第3号被保険者(20歳以上60歳未満の勤め人の配偶者で年収130万円未満の人)にあたる男性は11万人(2013年度末)。10年前より約3万人増えた。

 一方で、性別による役割分業の意識は根強い。内閣府の「女性の活躍推進に関する世論調査」(14年)によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に「賛成」と答えた人は男性の46.5%、女性の43.2%にのぼった。総務省の「社会生活基本調査」(11年)によると、共働き世帯の一日の家事関連時間(育児含む)は妻の4時間53分に対し夫は39分と大きな開きがある。

 男性の家事・育児参画が進まない現状についてお茶の水女子大学の石井クンツ昌子教授は「父親の長時間労働や、育児参画への理解を得にくい職場環境が背景にある。女性はいい母親でいて、家事も完璧にやるべきだという社会規範の問題も大きい」と分析する。

 さらに「父親の育児参画は子供の発達に好影響を及ぼすことが様々な研究で明らかになっている」と指摘。「こうしたメリットを知らせることが有効だ」と話している。

(女性面副編集長 佐藤珠希)

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