ひっそりと咲いている小さなランに魅力を感じる

2015/11/8
ナショナルジオグラフィック日本版

ラン(ステリス属の一種)の花を食べるゾウムシ アナアキゾウムシの一種が、小さな花を一輪いちりん、鼻先にある口で丁寧に食べている。このゾウムシの幼虫はランで育つそうだが、詳しい生態はわかっていない。また、ステリス属のランの分類は比較的難しく、あまり研究が進んでいないそうだ。ゾウムシの体長:10mm 花の大きさ:約2mm 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ

ここモンテベルデは乾季に入ったようだ。卵や幼虫、サナギが多い時期で、今どうしても逃せない昆虫の観察とデータ記録が山積みになっている。そのうえ、ツツガムシやダニが増え始め、とにかく痒い。カイカイの毎日が始まった。

今回は、そんな乾季の初めに花の季節を多く迎える植物、ラン(蘭)を紹介しよう。

コスタリカに来た当初からよく耳にするのが、この国のランの多様性はスゴイということ。種の密度が世界一高い国なのだそうで、これまでに1600種以上(面積が7倍ある日本では約200種)が記録されていて、固有種も少なくない。

そしてそのほとんどが、小さなランたち。花の大きさは、ほんの数ミリという虫めがねか顕微鏡サイズだ。

誰にも気づかれず、ひっそりと咲いている小さなランに、ぼくは魅力を感じる。

レパンテス・モンテベルデンスィス 学名は、モンテベルデ地名にちなんでつけられた。モンテベルデの固有種だと聞いている。花の大きさ:数ミリ 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ
ステリス・ピロサ ペリカンが口を開けたような花で、細かい綿毛が生えている。花の大きさ:約5mm 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ

ステリス属の一種 ぼくの一番のお気に入りかもしれないランの花。毛が生えた花びら、中央の窓枠のようなところから小鳥が覗いているように見える。花の大きさ:2~3 mm 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ
オンシジウム・ブリオロフォトゥムの徒花 徒花(実をつけない花)をいくつも咲かせ、ひとつだけがふつうの花になるという、少し変わっている種。徒花は、おそらく香りを放つ役割を持っている。徒花の大きさ:約3 mm 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ

ランの多くは、ほかの植物の幹や枝、または岩場に着生している。それを可能にしているのが、ここモンテベルデのような熱帯雲霧林の気候だ。乾季でも霧雨が降ったり霧(雲)が通り過ぎたりと、空気中の水分を吸収することができる。根っこはちぢれ麺のような感じのものが多く、丸く膨らんだ茎(球茎)に水分を蓄えることができる。

コスタリカの多様なランのほとんどは、雲霧林、特に多雨なカリブ海側に集中している。でも標高2500メートル付近を超えると、種数は激減し、そのほとんどが着生ではなく、地生のものになるという。

種の同定は、コスタリカ大学生物学部のDr. Mario Blanco先生にお願いした。先生は、「ここ数年、毎年のように新種が10種程度コスタリカで見つかっていて、記載されている」と言う。たくさんの情報ありがとうございます!

レパンテス・ステノリンカ 花の大きさ:数ミリ 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ
レパンテス・ステノリンカ 葉を裏返すと、上の写真のチョウチョのような花が現れた。表側から見たときは花が咲いていることに気づかなかった。撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ

キシラリア・フォリオサのタネ(種子) はじけるようにさやから飛び出しているホコリのように細かい種子。ランの種子は、だいたいこんな感じだ。風でフワっ!と飛んでいく。種子の大きさ:微小 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ
プレウロタリス属の一種 茎の先の葉の付け根辺りから伸びた花は5ミリほどの大きさ。プレウロタリスの仲間の花は葉の上にのっかるように咲いているものが多い。花の大きさ:約5 mm 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ

プレウロタリス属の一種 黄色い花は、おしゃぶりをくわえたゆりかごの中の赤ちゃんに見えてしまう(笑)。花の大きさ:約5 mm 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ
プレウロタリス・エウメコカウロン 葉の上に高く伸びたクロス状の白い星が森の中で輝いている。花の大きさ:約5mm 撮影場所:モンテベルデ、コスタリカ

西田賢司(にしだ けんじ)
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[書籍「ミラクル昆虫ワールド  コスタリカ」を再構成]

(参考)この連載「コスタリカ昆虫中心生活」が本になりました。生物多様性の国・中米コスタリカで、18年間にわたり昆虫と暮らしながら研究を続ける著者が、自ら撮影した写真と解説で、その不思議な魅力とすごさを伝えます。

ミラクル昆虫ワールド  コスタリカ

著者:西田 賢司 編集:ナショナル ジオグラフィック
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
価格:1,944円(税込み)