アート&レビュー

舞台・演劇

宝塚歌劇団花組公演「新源氏物語」 トップスター、明日海の凜とした美しさ

2015/10/24

数多(あまた)の女人をとりこにする貴公子、光源氏役で、絵になるトップスターの明日海(あすみ)りおが凜(りん)とした美しさを発揮する。宝塚歌劇団花組「新源氏物語」(脚本・柴田侑宏、演出・大野拓史)は作家、田辺聖子の同名小説をベースに、光源氏が母に似た義母の藤壺(ふじつぼ)の女御(にょうご)と道ならぬ恋に落ち、生涯にわたって義母の面影を追い求める姿を描いた。トップ娘役らが藤壺や葵(あおい)の上、紫の上ら源氏を取り巻く個性豊かな姫君をいかに演じるかも見どころだ。

王朝絵巻物だけあって、衣装も舞台セットもあでやか。冒頭、明日海の光源氏が雅(みやび)な装束の姫君や女房、廷臣を背景に、スポットライトを浴びながら銀橋(客席に張り出す形で舞台の上手と下手を結ぶ通路状の舞台)に登場する。藤壺を演じるトップ娘役の花乃(かの)まりあはセリ(昇降装置)に乗って舞台下から姿を現す。伸びやかな旋律のオリジナル主題歌「恋の曼陀羅(まんだら)」が歌われ、源氏の心には常に藤壺があることを暗示する。

同作は3度目の上演。1981年の初演は光源氏を榛名由梨、89年の再演は剣幸(つるぎ・みゆき)が演じた。今回の明日海はすっきりした顔立ちながらもほのかに漂う甘い雰囲気が持ち味。義母の面影を求めずにいられない役柄にふさわしい。何よりも、立烏帽子(たてえぼし、冠物)に狩衣(かりぎぬ)姿がよく似合う。

光源氏が理想とする女性、藤壺との逢瀬(おうせ)は、御簾(みす)を用いた舞台演出が情感をかき立てる。光源氏は藤壺のいる御簾の内側に入り、逃れようとする藤壺を追う。回り舞台で舞台セットごと180度回転して御簾の内側を客席に向け、観客は秘めやかな2人の恋を垣間見る感覚を味わう。

源氏と藤壺が2人の恋を彦星(ひこぼし)と織姫(おりひめ)になぞらえて踊るくだりは幻想的だ。電飾された道具を手にした男役と娘役が2列になって天の川を表したかと思うと、散って2人を取り巻き、2人が互いを思慕しつつ思いを遂げられない間柄であることを示唆する。

本作は光源氏を取り巻く女人たちの物語ともいえる。源氏を我が身だけのものにできずに、嫉妬にさいなまれる六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)や、気位の高さから源氏に対して素直になれない正妻の葵(あおい)の上。源氏が幼い頃から手元に置いて理想の女性として育てあげた紫の上や、源氏の義兄である朱雀帝の寵愛(ちょうあい)を受けながら、源氏との恋に溺れる朧月夜(おぼろづくよ)。

六条御息所に娘役ではなく、男役の柚香光(ゆずか・れい)を起用したのは、妖艶さの中に強さが求められる役柄だからだろう。源氏物語の人気の場面「車争い」や、御息所が生き霊となって葵の上にとりつくくだりなどを、宝塚らしい殺陣(たて)と練った構成の舞踊で見せる。

源氏の随身、惟光(これみつ)役の芹香斗亜(せりか・とあ)は軽妙なやり取りをうまくこなして舞台を支える。また、芹香はオープニングの歌も聴かせ、観客を物語の世界に引き込む役割も担う。一方、柚香は御息所とともに源氏の好敵手の息子、柏木役も務めて目を引いた。惟光は初演時が大地真央、再演時は涼風真世。柏木は初演時が剣幸、再演時は天海祐希(あまみ・ゆうき)が務め、この4人はいずれも後にトップスターに上り詰めた。今回は2人の成長に期待した配役なのだろう。

藤壺の女御付き女房役の芽吹幸奈(めぶき・ゆきな)が伸びやかな歌声で聴かせる。専科の京三紗(きょう・みさ)が弘徽殿(こきでん)の女御、汝鳥伶(なとり・れい)が桐壺帝をそれぞれ務め、堅実な演技で舞台を引き締めた。

グランド・レビュー「Melodia~熱く美しき旋律~」(作・演出、中村一徳)は一転してラテン色の強い作品で、明日海や花乃らが躍動する。

(編集委員 小橋弘之、写真 浦田晃之介)

11月9日まで、兵庫県宝塚市の宝塚大劇場。11月27日~12月27日まで、東京・千代田の東京宝塚劇場。

アート&レビュー 新着記事

ALL CHANNEL