40代女性のキャリア再開支援を 本田由紀・東大教授
今、「女性が輝く日本」などと、あちこちで盛んに女性活躍推進が言われています。政府は女性活用を成長戦力の柱の一つに位置づけ、盛んに女性活躍の旗を振っています。これは少子高齢化が進む中、労働力人口の減少が深刻化していることが背景にあります。労働力人口の減少は昨日今日始まった話ではないのですが、いよいよ「女性とシルバー層にも働いてもらわなくては、この先、日本は立ち行かない」という切羽詰まった状況に追い込まれているということなのだと思います。
しかし女性側とすれば「今さら女性活躍なんて言われても」という気もします。女性活躍推進を掲げるということは、まだまだ女性が活躍していないということにほかなりません。実際、過去そして現在も、女性が活躍したくてもできない状況はそれほど変わっていないという事実は押さえておくべきことでしょう。
日本は相変わらず女性の管理職比率が低く、非正規雇用率は高く、半数以上が第一子出産後に離職し、子育て後に復職するいわゆる「M字カーブ」も健在です。家事や育児を積極的にこなすイクメンもほとんど増えておらず、相変わらず女性の家事育児負担が圧倒的に大きいのが実状です。
女性を取り巻く「変わらぬ現実」と「貧困」
女性活躍が話題となる一方で見逃せないのが、女性の貧困という問題です。一口に女性といっても、独身で経済的な支え手が無い人、親の介護で働けない人など、様々な境遇の人がいます。非正規労働比率が高く、賃金水準が男性より低い女性は、相対的に貧困に陥りやすいという側面があります。生きることにすら困窮するような苦境にある人に対してはセーフティネットの整備が欠かせませんが、その上で必要なのは、やはり女性も安心して働くことができ、その力を存分に発揮し、生活できるような社会的な基盤をつくることだと思うのです。
女性活躍ブームの裏側と「輝く女性」たちの変わらない現実。こうした背景は押さえつつも、私は女性が働くこと、働き始めることを応援したいと考えています。それは、経済成長を後押しするため、少子高齢化により減りつつある労働力を補うため、という理由ではありません。女性自身が、主体的に、望む人生を生きることができるような社会になってほしい、そして社会的な公正さを実現したいという思いがあるからです。
日本の将来は40代女性の肩にかかっている
女性活躍がブームとなっている今、そのけん引役として期待されるのが、「M字カーブ」の二つめの山にあたる、子育てが一段落した40代の女性たちです。
中でも団塊ジュニア世代は、今ほど子育て支援の制度が整っていなかったこともあり、子育てや夫の転勤など様々な家庭の事情により、正社員として働き続けることができなかった人が多くいます。大学卒業時が就職氷河期にあたり、正社員として就職することができず、結婚前は非正規雇用だったため結婚や出産と同時に離職せざるを得なかった人も少なくないはずです。こうした層の厚い40代、団塊ジュニア世代の女性たちが動くことで、社会は大きく変わっていくのではないかという気がしています。
しかし残念ながら、政府からも経済界からも、今働いている女性に対して「女性も管理職に」などと応援する声は聞こえてきますが、これからもっと働きたいと思っている女性を応援する声はそれほど聞こえてきません。私は、今、家庭の中にいて働きたいと思っている女性を応援する視点が重要だと考えます。
日本の将来は40代女性たちの肩にかかっているといっても過言ではないと思いますし、経済のため、社会のためではなく、何よりも自分自身のために、もう一度「働く」ことを考えてみていただけたらと思います。
東京大学大学院教育学研究科教授。プラチナ構想ネットワーク 女性の活躍WG主査。1964年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。東京大学社会科学研究所助教授等を経て、2008年より現職。専門は教育社会学。著書多数。近著に『社会を結びなおす』(岩波ブックレット)、『もじれる社会』(ちくま新書)ほか。(写真:小野さやか)
(ライター 井上佐保子)
[nikkei WOMAN Online 2015年9月29日付記事を再構成]
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