注目の個性派が続々登場 バンドシーン5大新潮流
日経エンタテインメント!
バンドシーンが活性化している。2010年代に入ってから頭角を現し、ここにきてライブの規模を一気に拡大する若手バンドが増加している。
日産スタジアムに2日間で14万人を集めたSEKAI NO OWARIを筆頭に、メジャーデビューから約1年半で横浜アリーナ公演を予定するゲスの極み乙女。や、3日間のアリーナツアーで3万4000人を動員したback numberはその代表。初の日本武道館公演を開催し、1万人規模を集めるバンドは、ガールズバンドのSilent SirenやSHISHAMOから、メタルやエモ、スクリームとダンスミュージックを融合させたFear, and Loathing in Las Vegasまで顔ぶれも豊かだ。
こうしたなか、アーティスト自身が仲のよいバンドに声をかけてフェスを主催したり、大手企業のCMに若手バンドの楽曲が使われるなど活躍の場が拡大。さらに、個性的なガールズバンドが相次いでデビューしたり、これまでは音楽誌や、専門チャンネルにしか出演しなかったベテランが続々と地上波の音楽番組に出演するなど、注目ジャンルも生まれてきている。
ここから、それら5つの新潮流を解説し、その波に乗り人気を高めるバンドたちを紹介していこう。
新潮流(1)得意技を持つ新世代が台頭
シーンが変化しているなか、最近台頭しているのは一言で魅力を表す"得意技"を持ったバンドだ。印象的なパフォーマンス、他のバンドにはない音楽性など、短い言葉でキャラクターを伝えられることが不可欠となっている。
こうしたバンドが人気を集めるようになった理由は2つある。1つ目はCD市場が縮小し、ライブが音楽ビジネスの中心となったこと。2つ目は、ここ3~4年で急速に普及した「SNS」の存在だ。音楽に関心の高い若者の間では、言葉数の少ないSNSがコミュニケーションの中心。そこで「ライブで強みを発揮する、シンプルでフレッシュなエンタテインメント性を持ったバンドこそが、SNSで拡散していく」と音楽専門誌『MUSICA』発行人でフェス『VIVA LA ROCK』を手がける鹿野淳氏は語る。
例えば、SEKAI NO OWARIはトランシーバー型のマイクで歌った『Dragon night』が2015年上半期のカラオケとダウンロードチャートで1位に。UNISON SQUARE GARDENはテレビ出演の際、田淵智也が激しく動き回り「日本一見切れるベース」と話題になった。
また、詩吟や和太鼓など伝統芸能とロックを融合した和楽器バンド、80年代ニューウェーブの影響を受けたパスピエ(ギリギリ顔を見せないという特徴もある)など、特異な音楽性を持つバンドもライブ規模を拡大している。
さらに、「共感できる歌詞」は極めて有効な得意技だ。15年上半期の歌詞検索ランキングでは上位14位までに、日常のもどかしい恋愛感情を歌うback number、ファンタジーの世界に迷い込んだような楽曲のSEKAI NO OWARI、世をすね、皮肉めいた歌詞が特徴のゲスの極み乙女。による楽曲が7曲ランクインしている。持ち味はそれぞれ違うが、この3バンドはライブ規模を拡大した新世代バンドの象徴的な存在(右上表)。彼らは「歌詞がいいから一度聴いてみて」というSNS上でのやりとりでファンが増えていったというわけだ。
はっきりしたキャラクターは人気バンドの必須条件だが、その色が濃すぎるのは好まれない。多くの人が共感でき、他の人にも薦めやすいカジュアルさが求められる。例えばラブソング。90年代のMr.Children、00年代のレミオロメン、現在はback numberと時代を代表するバンドが存在する。このなかで、back numberが得意なのは、身近な友人への恋心や彼女と過ごす休日の幸せなど、日常の中にある気持ちを描くこと。「コミュニケーションがカジュアル化したSNS時代に、多くのリスナーが彼らの歌にリアルを感じるのは必然です」(鹿野氏)。
この軽やかさは人気バンドのキャラクターにも通ずる。少年のような歌声とルックスで人気のKANA-BOONや、踊れるロックサウンドのKEYTALKは、青春真っ盛りといった明るくハジけた雰囲気であくまでもカジュアルで爽やかだ。かつてのバンドのような不良っぽさはみじんも感じさせずに、インタビューでも、ユーモアたっぷりの発言を繰り返す。
86年より続く音楽番組『ミュージックステーション』(テレ朝系)の粟井淳ゼネラルプロデューサーは「バンドは音楽ジャンルのなかで、いつの時代も格好よさの象徴。番組作りには欠かせないピース」と話す。その言葉通り、『ミュージックステーション』にはほぼ毎回バンドが出演。さらに新世代からかつては地上波の音楽番組には出演しなかった大御所まで、初登場組も多い(右上表)。こうした中から「キャラクター性が高く、楽曲もキャッチーで、誰もが知るような国民的存在と呼べるような新たなバンドが登場することを待ち望む」と粟井氏。徐々に頭角を現してきた若手から、次のカリスマバンドの登場に期待を寄せる。
新潮流(2) ガールズバンドにブームの兆し
ガールズバンドシーンが盛り上がりを見せている。SCANDALは2015年末からアリーナツアーがスタート。Silent Sirenに続き、SHISHAMOも2016年1月に初の日本武道館公演を予定。またオールドロックサウンドが特徴の、がんばれ!Victoryや、ももいろクローバーZが所属するスターダストプロモーションが手がけるLe Lienなど個性的な新顔のデビューも続く。
一見、アイドルブームがバンドシーンに波及したようにも見受けられるが、Silent Sirenが所属するプラチナムピクセルの山口晋路代表取締役は「バンドが演奏やボーカルスキルを含めた、ライブでのパフォーマンス術を身に付けるには、長期間の努力が必要」とその育成と人気を得るまでの難しさを語る。実際にガールズバンドがメジャーデビューから初の日本武道館公演にたどり着くまでの期間は、80年代から現在まで、ほとんど変わらない(右表)。
コピーバンドコンテストを定期的に開催するほど女性ファンが増加したSCANDAL、逆に読者モデル出身で女性ファン中心だったSilent Sirenは男性ファンも増加。両者とも海外ライブを行うなど可能性は大きいが、スキル向上の努力を継続してきたからこそ。地道に腕を磨くガールズバンドがどれだけ後に続くかが、本格的ブームとなるかの分かれ道となるだろう。
新潮流(3)アーティスト主催フェスが活況
アーティスト自身が親交のある仲間や、リスペクトする先輩など出演者を集める主催フェスが活況だ(右表)。
老舗のくるりや10‐FEET主催のフェスは着実に開催回数を重ね、LUNA SEAが6月に手がけたフェスは2日間で6万人を動員した。
「サイサイフェス」を開催するSilent Sirenのひなんちゅは「私たちが好きなアーティストだけに声をかけているので、どの出演者も絶対気に入ってもらえるはず。逆にサイサイ以外が気になって来てくれる人には私たちのことも好きになってもらえると思う。会場のみんながハッピーになれる場」と、その魅力を語る。
大型フェスは動員を増やすため、最近はアイドルまで参戦することもあり、ごった煮状態だ。このフェスならではという音楽性での統一感は薄らいできている。
そうしたなか、アーティスト主催フェスは、主催する人気アーティストが公認する、新たなお気に入りの若手や新顔バンドを見つけ出すための場としての役割が高まっていきそうだ。
新潮流(4)爽快系CM曲で飛躍
若手バンドの曲がCMのタイアップソングに起用される例が、最近は目立つ。SEKAI NO OWARIは2015年3月、UHA味覚糖のキャンディー菓子の「ぷっちょ」とタイアップし、 「ぷっちょ×SEKAI NO OWARI」のキャンペーンを展開した。グッドモーニングアメリカやOKAMOTO'Sなど、地上波の歌番組に顔を出すバンドも次々と起用されている。
これら2015年に入ってバンドを起用したCMには、若者向けの商品が多い。特に話題を集めているのが、清涼飲料水のCMだ。
「三ツ矢サイダー」のCMソングとして使用されたandropの『Yeah!Yeah!Yeah!』は、CMスタッフとメンバーが打ち合わせを重ねて制作された曲。商品イメージにマッチした爽やかなメロディーが印象的で、YouTubeの公式サイトでは100万回再生を突破した。
大塚製薬「ポカリスエット イオンウォーター」に使われたback numberの『SISTER』も、CMのコンセプトに合わせて書き下ろされた楽曲。シングルのジャケットや同曲のミュージックビデオにはCMに出演した女優の森川葵が登場している。こちらもYouTubeの公式サイトでは260万回再生を超えた。
ドラマやアニメのタイアップと同様に、CM向けの楽曲も作品の世界観に合わせて制作することで、文字通りの相乗効果が生まれている。
新潮流(5)ライブ系ベテランバンドの逆襲
意外とも思えるベテランが、表舞台に立ち注目を集めている。その代表格がKen Yokoyamaとして7月10日放送の『ミュージックステーション』(テレ朝系)に出演した横山健だ。
90年代にパンクロックバンドであるHi‐STANDARDの主要メンバーとして一時代を築いた。当時からライブ中心の活動だったため、今回が初めての全国ネットの地上波での生演奏だったこともあり、大いに話題となった。
本人も、地上波の歌番組に出演する意味や詳細な経緯を、7月15日に公開した自身のネットコラムで説明している。「『今やらないと時間がない』と思ったのだ(中略)『ロックそのものが小さくなってる』ことに、ある種の責任みたいなものを感じ始めた」とアイドルやアニメソングがヒットチャートを席巻する状況に対する思いを率直に述べている。
2012年に再結成した日本を代表するスカパンクバンドのKEMURIも7月5日放送の『MUSIC JAPAN』(NHK総合)に出演。代表曲の『PMA(Positive Mental Attitude)』と最新曲の『O‐Zora』を披露した。こちらは8年ぶりの地上波音楽番組への出演だった。
さらに、40代を迎えてからブレイクするバンドも現れ始めた。その代表格が、2014年に結成30周年を迎えた怒髪天(どはつてん)。ロックフェスへの出演をきっかけに若者層にも支持を拡大。2014年、初の日本武道館公演を果たした。アンコールのMCで「俺たちが武道館やったぞ。次はフラカンか?」とメッセージを送ったのが呼び水になり、2015年12月には結成26年目のフラワーカンパニーズが初の日本武道館公演を実施する。2015年にメンバー全員が40歳になるクラムボンも11月7日に初の日本武道館公演を行う。
(日経エンタテインメント! 伊藤哲郎、上原太郎、ライター 榑林史章)
[日経エンタテインメント! 2015年10月号の記事を再構成]
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